ケイの読書日記

個人が書く書評

藤野千夜 「じい散歩」 双葉社

2025-02-04 14:13:06 | 藤野千夜
 帯に「これぞ現代のスーパーシニア小説!」とあるが、本当にそう。なんていったって主人公の明石新平と妻の英子二人合わせて、もうすぐ180歳なのだ。3人の息子は50歳前後で全員独身。まさに現代の縮図。

 この新平は、田舎から東京に出てきて小さいながらも工務店を経営。景気の良かった時もあったが、なかなか商売が難しくなってきたので会社を畳んで、今は悠々自適の生活。90歳近いが健康で食いしん坊。健脚で頭もしっかりしているので、毎日あちこちに散歩に出掛け、電車に乗り、気になっている話題のレストランや食べ物を楽しみ、女の子にちょっかいをかける。この年代の人に珍しく、和食よりも洋食が好きなので、お昼ご飯を外で食べるのが何より楽しい。そして工務店を経営していただけあって、特徴のある年代物の建物をスマホで撮るのも好き。
 つまり、東京は楽しいことがいっぱいあるのだ。今、若い女性が東京に行ってしまって地元に残らない。子どもを産める年齢の女性が地方にあまり残らないから大問題!! これが少子化の原因だ!とエライ人たちが騒いでいるが、このじいさんでも楽しいんだもの。若ければなおさら楽しいだろうね。だから行った先の東京で子どもを産んでくれたらいいんだけど、それが難しいみたい。
 だって、新平の3人の息子たちも裕福な育ちで、実家が東京にあるんだもの、すぐ女の子を見つけて結婚しそうなものなのに、なぜかそれが出来ない。地方出身で東京に実家のない女の子たちにとって狙い目だと思うけどなぁ。

 そうそう、私がこの新平じいさんに興味をひかれる理由が分かりました。新平じいさんは、たぶん大正15年生まれ、私の父と同い年なんだ。だから中途半端な戦争体験の話などもよく似てるなぁと思う。赤紙が来て入隊したけど、よくわからない訓練をやっているうちに戦争が終わったのだ。戦況が極めて悪く、外地に行こうにも船が沈められてしまって行けず命拾いした。
 その後の高度経済成長時代、皆が今日より明日の方が豊かになると信じて働いていた時代の雰囲気なども、よく書けていると思う。

 新平じいさんは、健康なので医療費を使わず、散歩するときでもお金があるので散財する。こいいったスーパーシニアが大勢いればもっと景気も上向くだろうね。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 法月綸太郎 「法月綸太郎の... | トップ |   
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

藤野千夜」カテゴリの最新記事