ケイの読書日記

個人が書く書評

風野真知雄 「歌川国芳 猫づくし」

2016-01-07 15:05:37 | Weblog
 歌川国芳という人は、江戸末期の浮世絵師。北斎のあと、広重と同世代。
 猫が大好きで、猫を擬人化した作品も多く、猫のお姫様とか猫の芸者、猫のお侍、猫の手妻師などなど、本当にかわいらしいのだ。素敵だなと思っていたら、なんと!! 図書館で、この『歌川国芳 猫づくし』を発見! あまりのタイムリーさに驚きました。筆者の風野真知雄は、初めて読む。時代小説で人気の人だけど、私は名前だけしか知らなかった。

 歌川国芳と、飼っている8匹の猫、国芳の弟子たちが、お江戸の町で生き生きと生活している様を書いている。
 もちろん、江戸時代末期だから、ペリーの来航とか、いろいろ世情は騒がしいはずだが(作品中にもペリーの来航は書かれている)この小説中のお江戸は、いたって平穏で豊かなのだ。それに、町人の識字率も高かったようだ。絵草紙などもよく売れたらしい。こういう所が、同じ19世紀半ばの大都市ロンドンとは違う。貧乏でも、江戸の方がうんと暮らしやすかったらしい。

 一応、歌川国芳は売れっ子絵師だから余裕があり、仕事が終わると弟子たちを連れ、近くの小料理屋で夕飯を食べる。でも、女房は病気で長い間臥せっていて、健康保険の無いこの時代、医者への支払いだって大変だ。
 それに、浮世絵師というのは風刺画も多く、幕府ににらまれ、絵を描くのを禁じられる事もあった。そうなったら、商売あがったり。本当に不安定な職なのだ。


 中編7作品のうち、「高い塔の女」が読み応えある。これには、北斎の娘・お栄が出てくる。お栄も腕のいい絵師だったが、父親の北斎の死後、思うように絵が売れず、北斎を尊敬していた国芳の家に、転がり込んだのだ。北斎という人は、素晴らしい才能の持ち主だったが、性格に難があったみたいね。
 もう1作品「江ノ島比べ」も良い。国芳と同世代で、ライバルと目された広重が登場する。今では『東海道五十三次』を描いた広重の方がうんと有名だが、当時は同程度に売れていたらしい。 殺人事件が起こり、偶然、現場に居合わせた国芳と広重の、二人の絵師の観察眼が比べられる。
 やっぱり絵師、特に風景画を専門にするような絵師は、1度短時間見ただけでも、細かいところまで覚えているんだね。
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岸本葉子 「二人の親を見送って」

2016-01-02 11:15:51 | Weblog
 皆さま、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 ごめんなさいね。お正月なのに、こんな縁起でもないタイトルの本の紹介なんて。他に読んでいないのです。ただ、前向きな明るい内容の本ですよ。


 岸本さんって、お兄さんがいるんだ!! このエッセイを読んで初めて知りました。驚きました。お姉さんや甥御さんの話は、エッセイ中に少し出てきているので知っていたが、お兄さんの話は、ついぞ読んだことがないような…。
 そういえば、以前一度、「兄が…」という記述があったような気がする。その時私は、お姉さんの旦那さん(つまり義兄)のことだと解釈して、読み進めていたのだ。だって、私は、岸本さんのエッセイの大部分を読んでいるが、お兄さんの存在をうかがわせる物は、全くなかった。
 
 もともと、岸本さんは独身の子供の義務として、土日は高齢の親の家に行っていたが、兄弟のつながりは薄かったようだ。

 それ、理解できます。私も6歳上の兄がいたが、正月に顔をあわせて「あけましておめでとうございます」と言うだけで、他は全く没交渉。同性のきょうだいだったら、もう少し交流もあるだろうに、と思ったこともある。

 岸本さんのお母さんは、もともと血圧が高く、それがもとで早死にして、あとにお父さんが残った。

 岸本さんの、東京大学教養学部卒業、会社勤務を経て中国に留学という経歴から、裕福な家庭の出身かしらと思っていたが、どうもそうではないらしい。
 貧困家庭という訳ではなく、ご両親も愛情を注いでくれたが、岸本さんが子供の頃、お父さんの借金がもとで、鎌倉の自宅を手放すことになった。そのあと、奨学金などを利用して、親に経済的負担をかけずやってきた。国立大学とはいえ、岸本さんの場合、下宿していたから、本当に大変だったと思うよ。
 そのお父さんの借金が、いったい何のためのものか、いまだに分からないようだ。本人に尋ねても忘れちゃってるらしい。便利だなぁ。こういう時、認知症って。

 だから、岸本さんがお父さんに寄せる感情は、温かいものばかりではないのだ。
 本文に、こういった文章がある。

 そういう私が、ファミリータイプのマンションのリビングで、テレビの前に座っている父の後ろ姿に皮肉めいた気持ちを抱かないと言ったら嘘になる。人生の途中で働くのを止めてしまい、蓄えも備えもしないできても、こうして暑さ寒さと無縁のリビングで、子や孫にかしずかれているのだから、恩愛とはたいしたものだな、というような。


 分かる分かる、それに似た気持ちを私も母に対して感じるもの。
 私の母は、自分の親も舅姑も介護した経験がない。(この年代の人って兄弟姉妹が多いから)自分の旦那すら、病院で亡くなったので介護しなかった。それなのに、自分の介護は子供がやるのが当然という態度、謙虚さがない。

 今、介護離職を防ごうという動きがある。職を投げうってまで介護する必要はないが、やはり、少しは介護の経験をして、自分もこうやって年老いていくんだな、という心構えはした方が良いと思う。
コメント (7)
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