日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

「がん」で亡くなる=壮絶な闘いの死?

2018-09-16 19:32:07 | 徒然

女優の樹木希林さんが、乳がんで亡くなられた。

スポーツニッポン:女優の樹木希林さんが死去 75歳 病気と壮絶な闘いを繰り広げ・・・

その前には、キャスターの浜尾朱美さんの訃報があり、先月には漫画家のさくらももこさんが亡くなられた。
著名な方々の同じ病気による訃報を聞くと、その病気の恐ろしさのようなものを感じてしまうのは仕方ないと思う。
そして亡くなられた方々に共通しているのは、乳がんの治療を10年以上続けられてきた方々だった、ということだ。

通常「がん生存率」は、5年を一区切りとすることがほとんどなのだが、乳がんに限っては10年になっている。
理由は、乳がんそのものは進行が遅いがんであるために、再発・転移が見つかるのに時間がかかるからだ。
しかも、再発・転移が見つかったとき、以前と同じタイプの乳がんとは限らない、という難しさもある。

「同じタイプの乳がんではない」と聞くと、不思議な気がされる方のほうが多いと思うのだが、乳がんに限らず臓器にできる固形がんの場合、同じがんであっても遺伝子の変異が違う為に、同じ治療ができないという場合がある。
私の場合「ホルモン受容体タイプ」の中の「ルミナルA」と呼ばれる、進行も遅く大人しいタイプの乳がんと診断されている(担当主治医に確認済み)。
そして再び乳がんになったとき、同じ「ルミナルA」ではなく、悪性度が高いと言われている「トリプルネガティブ」というタイプで、再発する可能性もある。
そのために、再発・転移が繰り返されるたびに、そのタイプに合わせた治療が必要になる、ということなのだ。

その意味で「長期戦」となるがんの治療は、壮絶な闘いという印象を持たれると思うのだが、本当に「壮絶な闘い」なのか?と、言えば患者さん自身の「がんと向き合う姿勢」で、随分違ってくるといわれている。
乳がんに限らず、大腸がん、卵巣がん、すい臓がん等で亡くなった知人たちの中には、初めての治療の時に「余命」を告げられ、その余命以上の年数を生き切られた方も少なくない。
そのような方々の生き方は「壮絶な闘い」というよりも、穏やかでその人らしい生き方を貫かれたという印象を持っている。
もちろん、治療そのものは辛く厳しいものであったと思うのだが、それ以上の生き方をされた、という気がしている。

随分前だが、血液内科の先生の講演会で、興味深い話があった。
その先生は
「がんは、怖い病気だと思っている人は多いが、実はがんは亡くなる寸前までその人らしさを失わない病気だといえる。糖尿病は、生活習慣病の中でも身近な病気の為、あまり危機感を持っている人はいないが、糖尿病の場合「(細胞の)壊死」によって、足の指を切断することがある。足の指の切断だけならまだしも、足の指の次は足首、膝、大腿部切断といった具合に、治療の為に何度も切断を余儀なくされる患者さんは少なくない。自分の意思で動けなくなるというのは、辛いと言う言葉以上の絶望感を与える。しかも自分の容姿が変わり果てていく過程を見続ける、というのは絶望と言う言葉以外にはないと思う。それに比べがんの場合、適切な治療と緩和ケアを受けることで、自分らしさを最後まで失うことは無く、最期の時を納得できるように迎える患者さんは数多くいる。」
という話をされていた。

確かに度重なる抗がん剤治療で脱毛をしたり、腹水や胸水が溜まり息が苦しいなど、辛いことが多いのもがんの治療だ。
だが、患者さん自身の「がんと向き合う考え方」、何よりも「死生観」によっては、亡くなる直前まで比較的元気に家族と過ごせる病気でもある。
実際、樹木希林さんは一度危篤状態になりながらも生還され、ご家族に看取られた最期だった。
壮絶な闘いの果てに亡くなられたのではなく、穏やかな最期だったのでは?
それはがんの治療を続けながらも、様々な映画に出演をされ、数々の賞を受賞するほどのご活躍をされていた、ということが一番よく表していると思う。

メディアもそろそろ「がん死=壮絶な闘い」という、決まり文句のような見出しは止めてはどうだろう?