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日本の医療政策に一石を投げる「クラウドファンディングによる治験」

2019-06-13 19:18:19 | アラカルト

毎日新聞に2日前「関西医科大学が治験の費用をクラウドファンディングで集める」という、記事があった。
毎日新聞:膵臓がん治験費用をクラウドファンディング 関西医科大学 国の補助金申請認められず決断

全国紙で報道されたこともあり、2日間で目標としていた一千万を超す資金を集めることに成功したようだ。
朝日新聞:膵臓がん治験の費用 ネット募金、2日で1千万円超す

この治験に関して、補助金がなぜ認められなかったのか?と言えば、記事にある通り「新薬を使った治験ではない」ということのようだ。

膵臓がんは、5年生存率がとても低いがんの一つで、膵臓がんと診断された時には既に相当進行している場合が多い。
膵臓がんの患者さんを助けるには、「早期で発見し、治療すること」なのだが、それ自体が難しい臓器でもある。
だからこそ、ある程度進行している患者さんであっても、治療ができるようになるよう、日々研究を重ねている医療者も多いはずだ。

政府のがん医療政策が「がんゲノム医療」へと転換している今、新薬の研究の中心は膵臓がんに限らず「ゲノム(遺伝子情報)を使ったもの」ということになる。
先月承認された急性白血病の治療薬「キムリア」は、まさに「CAR-T細胞療法」というゲノムを活用した治療薬だ。
その「キムリア」の薬価は約3400万円と、高額だ。

だからこそ、新薬とは別に現在一般的に使われている「抗がん剤」での活用、ということが望まれるはずなのだが、国としては「がんゲノム医療」に対して集中的に補助金を出す、という考えのようで、結果今回のようなことが起きてしまったようだ。

現在の「抗がん剤」の考え方は、がん種に対して〇〇という抗がん剤を使う、ということになっている。
しかし、ここ数年の間で特定のがん種に効果があるとされてきた「抗がん剤」が、他のがん種にも効果がある、ということが分かってきた。
判明した大きな理由は「がんゲノム解析」による、がん種ではなくゲノムレベルでの効果が、徐々に判明してきたからだ。
だからこそ、今回の関西医科大学が実施した「治験」ができるようになってきているのだ。

その一例は、昨年ノーベル賞を受賞された本庶佑先生が見つけられ、小野薬品工業が開発した「オプジーボ」だろう。
当初は皮膚がんの一種「黒色メラノーマ」に対する治療薬として承認されたが、その後「非小細胞肺がん」や難治がんの一種である「腎細胞がん」などにも適用されるようになった。

今後ますます医療費が膨れ上がることを考えると、関西医科大学が行った既存の医薬品での「治験」も積極的に行う必要があるのでは?
その期待値のあらわれが、わずか2日間でクラウドファンディングの目標額が集まった理由だろうし、新薬による医薬品市場の獲得だけが日本の開発力を示すわけではなく、逆に様々な国の医療に多大なメリットと日本がリードしていく力がある、というアピールにもなると思う。