中国政府による、香港に対する「国家安全維持法」が施行された。
その結果、昨年から空港や様々な公共の場を占拠していた、人達が一気に解散に向かい一見「平静を取り戻した」ように見える香港だ。
だが、本当に「平静を取り戻したのか?」という、疑問がある。
日経新聞:香港の街にあふれる「国家安全法」 民主派は息をひそめる
香港がイギリスから中国に返還された時、中国政府は「一国二制度」という「香港は中国に返還されても、これまでと同じように自由な経済活動、民主的自治を与える」ということを言っていた。
これはポルトガル領であった、マカオも同じだ。
何故中国政府は香港に対して「一国二制度」ということを言ってきたのだろうか?
一つは、香港という都市の持つ「観光」という資源だろう。
日本から香港に買い物やグルメを楽しみに旅行をする、という人達は多い。
その観光客の年齢の幅も広く、若者から高齢者まで「行きやすい観光地」になっている。
確かに中国国内においても、観光地はいくつもあるが、香港のような「自由さ」はさほど感じられないのでは?
もう一つ考えられるのは、「経済」という点だろう。
「観光」によって、香港に落ちるお金も少なくないが、香港を拠点にアジアでビジネスを展開する、という企業も日本に限らずあったのでは?
経営不振に陥り、その後破綻をした「ヤオハン」の社長であった和田良平さんは、香港に自宅を構えていた。
そのほうが、東アジアでビジネスを展開する為には、都合が良いというのが、その理由だったと記憶している。
「香港」は、東アジアビジネスのゲートウェイという側面を持っていたのだ。
そのような「資産」のある香港を、中国政府が指をくわえて「一国二制度」等といって、香港の自治を認め続けるはずはない。
だからこそ「国家安全維持法」という、中国政府による統制ができ、合法的に「香港の資産」を手に入れようとしたのだと思う。
しかし、これほど強引なやり方を諸外国の人たちは、どのような印象を持っただろうか?
もしかしたら、既に香港から社員を引き上げたり、事務所を閉鎖を検討している企業があるかもしれない。
観光客にしても、身近で気軽に行ける「ショッピングとグルメ」という印象が、薄れてしまう可能性もある。
何より、路地裏のようなところに立ち並ぶ、統制の取れていない「雑踏の中の商店」のような、ゴチャゴチャ感もまた香港の魅力だったと思うのだが、そのような雰囲気が無くなってしまうのでは?
そのような、目に見えない「香港の魅力」は、「香港人にとってのアイデンティティ」であったように感じるのだ。
それを中国政府が無理やり手に入れようとすれば、「香港人のアイデンティティ」はもちろん「香港の魅力」も無くなってしまうのではないだろうか?
香港の「観光」や「経済」という「資産」を手に入れた、と考えているかもしれない。
だが、「都市の魅力」は、そこに住む人達がいて、その人達が創り上げてきた文化があって、初めて「都市の魅力」となる。
そのことを、中国政府はどれだけ理解しているのだろう?