日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

企業と生活者の感覚のズレ-ポカリスエットの高校生CM-

2020-07-26 20:06:12 | CMウォッチ

Yahoo!のあるトピックスを見ていたら、あるCMについて企業側と受け手側が大きくズレている、コメントがあった。
Yahoo!トピックス:話題のポカリCM最新作「びしょびしょになりながら」中高校生の”今”を全力表現

いわゆるヤフコメを読んでみると、「押しつけ感が凄い」という言葉が目立つ。
CMを見て「今の高校生の青春をしている姿は、これ!!」というイメージを押し付けられている、と感じている大人が多いようなのだ。
実際の中高校生のコメントは、どれほどあるのか?というと、不明な点も多いのだがテレビCMで「押しつけ感」を生活者に与えるというのは、テレビCMとして「成功している」といえないだろう。

もちろんテレビCMは、虚構の世界なので”今”の中高校生が、これほど明るく躍動的にイキイキしているのか?という疑問はある。
我が家の近所に高校があり、通学をする生徒たちの姿を見ても「高校生活を楽しんでいる」とは思うのだが、これほど弾けた高校生活はしていないと思う。
むしろ、私が高校生だったころとさほど変わらない「高校生活(学校・部活・受験・時々恋バナ?)」を過ごしているのでは?と、感じている。
テレビCMのように、満面の笑みで躍動的な中高校生活を送っている生徒は、ほとんどいないのでは?

これはあくまでもテレビCMとして制作されているので、「誇張」されている部分もあるはずだ。
ヤフコメに投稿している人達も、そのコトは十分理解しているはずだ。
にもかかわらず「押しつけ感が凄い」と、コメントされてしまうのは、ポカリスエット側が考えている「青春群像」が”今”と違うからでは?という気がするのだ。

テレビCMのように、「キラキラした青春・学校生活」を送れるのはごくごく一部の生徒なだけで、多くの生徒は「目立たない・受験の不安・将来の展望が見えない」日々を過ごしているのではないだろうか?
何より、「新型コロナ禍」において、賑やかで華やかなCMそのものが、受け入れられにくくなっているような気がするのだ。

もう一つ考えられるのは「集団」でダンスするという、「群像劇」的なアプローチに「なんとなく嫌」という気にさせているように思えるのだ。
言い方を変えるなら「CMから同調圧力」のようなモノを、感じているのでは?という、気がするのだ。
今の社会全体が持っている「閉塞感」のようなモノが、より強く受け手となる生活者に「同調圧力」のようなモノを感じさせている、という気がしている。

「たかだかテレビCMで、大袈裟な!」といわれるかもしれないが「テレビCM」の世界で創り出された「誇張した世界」が、時には「この世界を目指さなくては!」とか「このような世界観が正しい」というような、一種の圧力を感じる方も少なからずいらっしゃるのでは?ということなのだ。
高度成長期のテレビCMは「このような世界がありますよ~」という、一つの生活モデルを表現することで「生活者の憧れ」をつくり出してきた、という側面がある。
今回のポカリスエットのCMのような、群像劇的な演出となるとそのパワーそのものを強く感じる方も多いのではないだろうか?

人によっては「ポカリスエットのダンスをする中高校生」を見て、「青春しているな~」と感じられる方もいらっしゃるだろう。
感じ方は人それぞれなので、正しい・間違っているといえるものではないし、個人的な感じ方に他者があれこれ言う必要もない。
ただ「押しつけられ感」と感じる人達が、案外多いという事実を考えるなら、「青春の姿の多様性」を表現したほうが、多くの生活者から共感を得られたのでは?ということなのだ。

何故なら、今社会は「ダイバーシティ」と呼ばれる「多様性を認めよう」という方向へと動き始めている。
もちろん、ジェンダーギャップなど多くの問題を日本の社会は抱えているし、ネット上で「自分の正論」を繰り広げることで、多様性を認めない(あるいは「寛容性が無い」)動きがあることも確かだ。
だからこそ、テレビCMでは「群像劇」ではなく「多様性のあるしなやかな中高校生」の姿を表現したほうが、より多くの共感性が得られたのではないだろうか?