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変わり始めたファッション観

2020-07-22 11:03:53 | ビジネス

ニューズウィークに、気になる記事があった。
ニューズウィーク:ファストファッションの終焉? ヨーロッパの真の変化への積極的な取り組み

昨年頃からだろうか?パリやミラノでのファッションショーのキーワードとして「サスティナブル」という言葉が、頻繁に使われるようになった。
「サスティナブル=持続可能な」という意味だが、ファッションの世界では「再利用できる素材」とか「環境に配慮した」という意味で使われることが多いようだ。
ニューズウィークの記事にも、「プラスチックからできた繊維でつくるファッション」という記述がある。

ただこの記事で注目する点は、見出しにあるように「ファストファッションとの決別」ということだろう。
安価で、その時々の流行を着ることができる「ファストファッション」は、リーマンショック以降大人気となった。
それは見方を変えると、「経済の低迷」の始まりだったのかもしれない。
最近はおしゃれな男性も増えてきているが、ファッションの中心はやはり女性だろう。
その女性たちが、「安価で、それなりのファストファッションを着始めた」ということは、「お金の使い方が、変わった」ということでもあったはずだ。
「生活観が変わった」といってよいかもしれない。

ところが昨年、ファストファッションブランドの一つ「フォーエバー21」が倒産したり、Garpのセカンドライン(=若者向けの安価なブランド)・オールドネイビーなどが次々と撤退し、現在ファストファッションブランドとして残っているのは、H&Mとユニクロくらいだろう。
ニューズウィーク:カオスな閉店セールと共に去ったフォーエバー21 ファストファッションの誤算とこれから

そして今回の「新型コロナ」の感染拡大により、日本では生活者の中に新たな志向が、生まれ始めている。
それは「国産=Made in Japan」という、価値観だ。
この「国産」という言葉の中には、「信頼・高品質・安心感」等が、含まれている。
理由は、改めて説明する必要もないと思う。
「国産」の中には、「日本で製造された」というだけではなく、「日本で織られた」等の素材にまで「国産」ということを求める人達も増えているのでは?という、気がしている。

記事の中にもあるのだが、実はファッション産業が大きく飛躍した背景には「人工染料」等の進化がある。
今まで表現できなかった色を、人工的に安価で作ることができるようになったのだ。
結果として、莫大な水を使いその汚染水が、周辺地域の自然環境に影響を与えている、という問題も抱えている。
それだけではなく、SDGsという視点で考えた時このような産業に携わっている人たちの多くが、経済的に豊かではないアジアの女性や子供たちである、という点でも問題視されるようになってきているのだ。
違う言い方をするなら「労働と健康の搾取」が、様々なファッションブランド(有名・無名問わず)行われ続け、それがファストファッションを含めたファッション産業を支えてきた、ということになるのだ。

昔ながらの草木染や、染めるために使われる糊などを自然由来のものにしようとすると、金額が跳ね上がってしまうだけではなく、そのような技術を持った人そのものが高齢化により、継承そのものが難しくなっている、という問題は日本だけではなく世界的な問題となりつつある、といわれている。
何より人工染料のようなカラフルさを表現することが、難しいだろうと考えられる。
そのような問題に、ファッション界も目を向けるようになった、ということだろう。

このような社会問題を抱えていたファッション業界に、「新型コロナ」が襲い掛かった、ということになるのかもしれない。
もちろん、世界各地で報告がされているファッションメーカーの倒産の要因は、上述したような「ファストファッション」の問題とは関係ないだろう。
ただ生活者の意識が「大量消費」の時代ではなくなったが、「大量消費」によって身に着けられなかった「ファッションの見る目」を再構築する時代がやってきた、ということなのかもしれない。
少なくとも、今の日本の生活者はその入り口に立っているように感じるのだ。