僕はびわ湖のカイツブリ

滋賀県の風景・野鳥・蝶・花などの自然をメインに何でもありです。
“男のためのガーデニング”改め

金勝山の狛坂磨崖仏を目指せ!②~狛坂磨崖仏~

2021-12-25 08:08:08 | 御朱印蒐集・仏像・磐座・巨樹・古墳・滝・登山
 白洲正子さんは著書「かくれ里」の中で「狛坂磨崖仏」のことを『摩崖仏は、聞きしに優る傑作であった。見上げるほど大きく、美しい味の花崗岩に、三尊仏が彫ってあり、小さな仏像の群れがそれをとりまいている。』と書かれている。
また『こんな迫力のある石仏は見たことがない。それに環境がいい。人里離れたしじまの中に、山全体を台座とし、その上にどっしりと居座った感じである。』とも書かれています。

白洲さんが訪れた頃は、現在のように道が整備されていない厄介な山奥にあり、とても人が歩けるような道ではなかったといい、地理に詳しい人に導かれてやっとの思いで辿り着いたのだという。
「狛坂磨崖仏(狛坂寺跡)」へは馬頭観音堂から龍王山・白石峰のルートを歩いて行きましたが、時間にして50分ほどで到着しましたので、白洲さんの時代に比べたら随分と楽になったことになります。



「狛坂寺」は嵯峨天皇の御代(810~823年)、蒲生郡狛長者の娘が金銅の観音様を壇林皇后(嵯峨天皇の皇后)に献上し、これを時の名僧願安に下賜されたといいます。
願安は観音像を金勝寺に安置したが、女人結界の霊地のためこの地に金勝寺の別院として一寺を建立したのが「狛坂寺」の創立と伝えられる。と案内板にあります。
「狛坂寺」は明治に廃仏毀釈により廃寺になったとされ、白洲さんが訪れるまで100年近くの年月が経っていたことになり、寺が自然い戻り山と同化していたのも理解が出来ます。



「狛坂寺」があったと思われる石垣のちょうど真向かいに「狛坂磨崖仏」があり、白洲さんの言葉通り、その姿はまさに人里離れた山奥に、どっしりと居座る、迫力と美しさに満ち溢れた摩崖仏といえます。
これまで幾つかの摩崖仏を観てきた中で迫力や慈悲を感じる摩崖仏はありましたが、これほどの美しさを兼ね備えた摩崖仏という意味では「狛坂磨崖仏」は傑作という言葉がよく合います。



「狛坂磨崖仏」が彫られた花崗岩は、高さ6.3m、幅4.5mの巨岩で中央に彫られた三尊像を中心に、小ぶりの仏像9躰彫られている。
中尊は宣字座に座す如来層と蓮華座の上に立つ脇侍の2尊で構成されており、平安時代初期あるいは奈良時代の作とされていましたが、近年の研究では白鳳期の作ではないかと言われています。



ということは「狛坂寺」が創建される前から存在したことになり、古くからの信仰の対象だった場所に「狛坂寺」が建立されたことになります。
この三尊像の作風からは新羅彫刻の影響が見られるといい、新羅系渡来人が彫ったのではと言われています。

「狛」には高句麗・高麗の意味があり、蒲生郡狛長者の娘が金銅の観音様を皇后に献上したなどの伝承からしても渡来人の作説は有力だと思われます。
そもそも湖東・湖南地方には渡来人が持ち込んだ大陸の文化や技術の影響が残る場所が多くあり、東京大学の遺伝子データ解析では“渡来人由来のゲノム成分が最も高かったのは滋賀県”という興味深い解析結果もあります。



中尊以外の仏像は鎌倉期に追彫されたものと推定されており、時代が下っても金勝山や「狛坂磨崖仏」への信仰が途絶えなかった証となっています。
主尊には釈迦仏・阿弥陀仏・弥勒仏などの説があり特定できませんが、中尊の三尊の上にも右と左に三尊像が彫られています。



脇侍のやや上には1躰づつの観音像が彫られており、巨大で聖なる岩から仏があふれ出すかのように姿を現したという印象です。
中尊の三尊は年代が古いにも関わらず、くっきりとした姿が残っており、少なくとも1200年は経っているのも関わらず美しい姿と感動を観るものに与えてくれます。





巨大な摩崖仏の横にある岩にも三尊像が彫られていて、何故ここにこれだけ摩崖仏が集中しているかに関しては、山の下に広がる草津平野を流れる草津川の源流がここにあったという説があります。
金勝山からもたらされる水によって生きていけた人々の祈りの場所でもあったのかもしれません。



「狛坂磨崖仏」の対面、狛坂廃寺の石垣の横には巨岩の上や下に石仏が祀られています。
明治初頭に狛坂寺が廃寺になるまでは、道俗男女の参詣で栄えていたということですが、ここまで参拝に来るのはさぞや大変だっただろうと信仰の力に驚くばかりです。



その狛坂寺も今は石垣の一部が残るだけとなっており、往年の面影はなく、ただ摩崖仏だけが残っている状態です。
「狛坂磨崖仏」の高さは450mの地点で、最も高度の高い龍王山からは150mほど低い。
降りてくる時は夢中でしたので苦にならなかったのですが、国見岩の辺りまで続く悪路の急登を登り返すのは一苦労しそうです。



ゴロゴロとした岩だらけの道で息は切れ、汗が噴き出してくる。
山登りの気分を味わうというよりも、早く登り切って尾根筋に戻りたい。



おそらく大量の雨が降ったら道が川のようになるのかと思いますが、落ち葉も積もっている窪みなどもあり、滑りやすい道です。
こういう場所を登っていて不思議なのは、息切れが落ち着いてくると気分がハイになっていくのを感じることでしょうか。
うまくは言えませんがシンドイのが心地よいといった心境になるのかと思います。



途中には巨岩の間を通り抜けていく結界のような岩場があり、間を抜けていきます。
滋賀の霊山にはこのように挟まれそうになる巨岩がある山が幾つかありますが、この先にあるのは金勝寺で後方にあるのは狛坂寺跡と磨崖仏ですから、両方に対する結界と言ってもよいのではないかと思います。





他にも巨岩・奇岩があちこちにありますので、つくづくこの山は岩の山なんだと思うことしきり。
岩の下の土砂が流れて、そのうちにずり落ちてきそうな大岩もありますが、それはそれで新たな景勝地となりそうです。





最後は出発点となった馬頭観音堂前の駐車場からの光景です。
何年も前から一度目にしたかった「狛坂磨崖仏」へ行くことができて感慨もひとしお。
次に金勝山に登る時は「天狗岩」のピークに登ってみたいですね。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 金勝山の狛坂磨崖仏を目指せ... | トップ | 雪の元旦 舎那院さんへ初参り... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

御朱印蒐集・仏像・磐座・巨樹・古墳・滝・登山」カテゴリの最新記事