一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「Bins Gate Cup」を見に行く(後編)・大盤解説に物申す

2010-01-15 01:10:20 | LPSAイベント
顔を上げると、柔和な顔の紳士氏が、私を見ている。
「はあ、どうも」
「今朝のブログ読みました。リアリティがあって良かった」
「ああ…それはありがとうございます。リアルタイムの現地での執筆でしたからね」
私は緊張しつつも応える。この紳士氏、あとで分かったのだが、将棋サイトの至宝「駒音掲示板」の論客のひとり、寅金氏だった。わざわざお声を掛けていただくとは、光栄である。
寅金氏の建設的な主張の数々にくらべ、私のブログはといえば、誰々が綺麗だとか、どこどこへ行って何を食べたとか、毒にも薬にもならない記事ばかりで、恐縮してしまう。
(またよろしくお願いします)と心で述べて入室し、最後尾の席にすわる。と、後方の指導対局コーナーで、午前中のじじいふたりが、将棋を指していた。この駒と盤は、これから始まる指導対局用だ。勝手に使っていいのだろうか。
解説室である研修室の前方右には、パソコン中継スタッフがスタンバイしている。怪訝に思ったが、準決勝からはこちらで対局が行われるらしい。
2階の対局室で、じじいらに好き放題動かれるよりは、そのほうが数段いい。しかしじじいらも、じっとはしていないだろう。やはり対局中に写真は撮るだろうし、立ち上がることもあり得る。
準決勝第1局の対局者、石橋幸緒女流四段、大庭美樹女流初段が登場する。解説の安用寺孝功六段、聞き手の中井広恵天河もあとに続く。どうも解説室のスクリーン横で対局することは急遽決められたようで、大庭女流初段は直前の挨拶で困惑していた。
ふたりが対局席に着くと、じじいらは最前列にすわる。またもいやな予感がする。
対局開始。その10分後、1回戦敗者の中倉宏美女流二段と島井咲緒里女流初段の4面指し指導対局が、後方で始まった。と、じじいらも動く。ひとりが指導対局の抽選に当たったらしい。あまりじじい、じじいと書いても胸クソ悪いので、じじいらの記述はここで留めるが、先ほどの私の予想は概ね当たったことを付記しておく。
さて、日本将棋連盟所属の棋士がLPSAイベントの解説に協力するのは、ありがたいことである。しかし安用寺六段が、解説の冒頭で1回戦の将棋の内容はもちろん、組み合わせすら知らなかったのは、どういうわけだろう。
安用寺六段が昼過ぎに現地入りしたのなら分からぬでもない。しかし同六段は、開会式に列席していたのだ。1回戦の将棋が気にならなかったのだろうか。たとえ外で食事を摂ったとしても、パソコンで自動再生をすれば、わずかな時間で2局の内容が分かる。解説でその将棋の寸評をしてくれれば「厚み」が出たに違いなく、ちょっと残念だった。
石橋-大庭戦は、石橋女流四段の「糸谷流右玉」がバッチリ決まって、石橋女流四段の快勝。作戦勝ちから一方的に押し切った。
準決勝第2局は、中井天河と、地元大阪在住・鹿野圭生女流初段の一戦である。
聞き手は、快勝で気分がいい石橋女流四段が務めた。しかし石橋女流四段のしゃべりが、やや脱線気味だった。
常勝の中井天河が敗れることを期待して笑いを取るのはいいが、マイクの音量も大きく、ちょっとしつこかった気がする。大阪だから、というサービスがあったのかもしれないが、本局は一応、LPSAの公認棋戦である。ふつうに聞き手を務めて、なんの問題もなかったと思う。
中井-鹿野戦も、中井天河の圧勝。石橋-大庭戦もそうだったが、1手違いにもならなかった。この内容では、中井、石橋の両巨頭が出場する公認棋戦は、観客のみんなが両者いずれかに優勝の票を入れてしまう。これではいけない。LPSAのほかの女流棋士は、もっと危機感を持つべきである。
決勝の中井-石橋戦は、序盤の解説を中倉女流二段、島井女流初段が担当した。しかしこのコンビならば、解説ではなくトークショーの趣である。
局面は先番・石橋女流四段の中飛車に、中井天河が三間に飛車を振るという、変わった展開。中井天河は相振り飛車も好きな戦法のようで、最近、ときどき採用している。
中井天河は女流棋士界の重鎮だが、いまもって芸域を拡げているのだ。何度も書くが、ほかの女流棋士も見習うべきである。
「トークショー」は局面に関係なく進む。ちょっとは将棋の内容に触れてほしいが、NHK杯将棋トーナメントと囲碁・将棋ジャーナルの前司会者に登場されては、こちらも目尻を下げて聞くしかない。おふたりとも、生々しいエピソードを披露してくれた。
話が一段落して、安用寺六段・鹿野圭生女流初段と交代。しかしまたイチャモンをつけるようで申し訳ないが、安用寺六段は、対局者の指し手予想を、「☗7八玉」とか、「☖8二王」とか、指し手を具体的に発言してしまう。ふつうは「あれ」とか「これ」とか、指し手をボカすのだが、関西ではこうした言い方が主流なのだろうか。
局面は中盤の難所。石橋女流四段が、☗2八飛と、再び居飛車に戻す。むかし升田幸三-大野源一戦で、似たような飛車の動きがあったことを思い出す。
ところで私は先ほどから安用寺六段の解説や姿勢に文句を言ってばかりだが、言葉は明瞭、弁は滑らかで、とても好感を持ったことは強調しておく。日本将棋連盟とLPSAの関係が現在どうなっているかは知らぬが、連盟所属の棋士がこうやって解説を務めることに、私はあらためて、大きな敬意を払う。
決勝戦は、中井天河に☖3六歩の妙手が出て、1dayトーナメント新記録の、3回連続優勝となった。
終局後の表彰式の間に、中倉女流二段と大庭女流初段が、LPSAグッズのPRをする。中倉女流二段は、わざわざ「これから演技をします」と宣言して、「どうぶつしょうぎを買うパパ」役を演じたのだが、これがバカウケだった。ここまでキャラを壊してしまって、大丈夫だろうか。いや、将棋同様、芸域を拡げるのはいいことである。これでますます宏美ファンが増えたことは疑いない。
優勝者の色紙が当たる勝者予想クイズは、全問正解者がわずか2名だった。やはりみんな、1回戦の2局に手古摺ったのだ。そして全問正解者のひとりが、鹿野女流初段の御子息だったのにはたまげた。
自分の母を優勝に挙げなかったのか! 情や信義より実利を取るケースは、世の中にいくらでもある。やはりこのくらい「非情」でなくてはいけないのかもしれない。
閉会式も滞りなく終わり、タイムテーブルの午後5時より早い時間に、散会となった。振り返ってみて、不良じじいが目障りだったが、それ以外の観客のマナーはとても良く、準決勝の2局がちょっとアレだったものの、私も大いに満足した。
LPSAの来場を期待している地域は、全国にいっぱいある。LPSAも、資金が潤沢でないのは想像がつくが、これからはもっと、他府県での活動も充実させてほしいと思った。もちろん大阪でも、またイベントが開かれることを切に願った。
女流棋士には顔を合わさず、私は会場をこっそり出る。私にはまだ、やり残していることがあった。喫茶店で、コーヒーとケーキを食すことである。そして今回訪れる店は、すでに決めていた。
(つづく)
コメント (10)
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