一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「日レスインビテーションカップ」を見に行く(後編)

2010-08-10 00:55:09 | 観戦記
中倉彰子女流初段、☖9七竜と馬取りに引く。対して☗8七香がどうだったか。穴熊党の船戸陽子女流二段なら、ノータイムで☗7八銀と一枚入れると思ったのだが…。
本譜は☖8五桂の辛抱から☖8六歩~☖8七竜とその香を取られてしまい、しかも☖8七竜を取れないようでは(と金ができる)、かなり形勢が縮まってしまった。
中倉女流初段はとうに秒読み。しかし1手60秒は意外に長く、50秒すぎまで考えて、冷静に指し手を進めている。船戸女流二段は15分程度離していたが、意外と切れない食いつきに手こずり、徐々に持ち時間を消費していく。
「う~ん…」と、船戸女流二段の悩ましい声が漏れる。その手の場所で聞いたら私もドキドキしてしまうが、いまはそれどころではない。流れは完全に中倉女流初段のものだ。
石橋幸緒天河-鈴木悠子アマ戦は、意外と長引いている。駒の配置を見ると、どちらが勝ちか分からない。ということは、鈴木アマが善戦しているということだ。
その2つ先の中井広恵女流六段-渡部愛ツアー女子プロ戦は、渡部ツアー女子プロのみが秒読みになっている。しかし中井女流六段の表情は険しい。中井女流六段は戦前、「勝負の厳しさを教える」と抱負を述べていたが、いまはそんな余裕はないだろう。
中倉女流初段、勇躍☖9五桂と跳ね出す。飛車の王手にやむなく打った桂が活用できた。これは形勢逆転、完全に中倉女流初段持ちだ。船戸女流二段の自陣は、☗5八金、☗6八桂、☗6九金が固い壁を造っており、玉の逃げ道を塞ぐ、ただの邪魔ゴマと化している。
石橋-鈴木戦が終わったようだ。石橋天河が鈴木玉を見事に詰ましている。と思いきや、石橋天河が端を指さして、
「こう指されて詰んでましたよ」
と言う。
「あっ…!!」
と鈴木アマ。どうも、わりと簡単な詰みを逃したようである。これは鈴木アマ、大魚を逸した。それにしても石橋天河は、ここ最近、将棋の内容がわるい。やはり代表理事職が激務なのであろう。
両対局者は数秒言葉を交わすと、負けました、と石橋天河が頭を下げた。これは半分本心だったろう。
船戸-中倉戦に視線を戻す。後手の駒が生き生きと働き、船戸女流二段、いよいよ苦しくなってきた。☗7七馬と銀を素抜いた時点では船戸女流二段の角銀得だったが、いまは駒の損得がほとんどなくなっている。ただし駒の効率は中倉女流初段のほうが圧倒的によい。やむなく釣りだされた☖7四金も、船戸玉の上部脱出を防ぐ駒となっている。
船戸女流二段も秒読みになった。閉じた扇子を口元にあてる。しかしその姿勢はわるい。どうしてこうなっちゃったんだろう…という後悔の念が渦巻いているかのようだ。もう、中倉女流初段の勝勢といってよい。
船戸女流二段、着手したあと、チェスクロックのボタンを押すのを忘れた。30秒を切ったときの音で自分の押し忘れに気付き、ポン、と押した。明らかに我を忘れている。ちょっと、観戦しているのが辛くなってきた。
船戸女流二段、☗3六飛成。☖6三角の王手竜取りが見えるが、これは☗7四桂(王手)の返し技がある。それでも後手の勝ちだが、中倉女流初段は☖7八竜と、根元の香を取った。これが☖8四香までの必死。ここで船戸女流二段が投了した。12時51分。
繰り返すが、☗7七馬と銀を素抜いた局面では、船戸女流二段の勝勢だった。それをひっくり返されたのは、自身が弱いからだ。まだまだ修行が足りない、ということだ。最近の船戸女流二段は、対局で勝っても負けても泣くそうだから、きょうも家で泣きまくるのだろう。泣いて、泣いて、涙が渇くまで泣ききったら、顔を洗って出直してくればよい。
中井-渡部戦は熱戦が続いている。渡部玉が7三にいる。これは中井女流六段、下手な寄せをやったということだ。中井女流六段、6一に銀を打つ。さらに☖5一角、☖6二飛と自陣に大駒を打ち、渡部玉を押し戻す。
しかし序中盤ならいざ知らず、終盤で自陣に大駒を打つのは、局面が芳しくない証拠だ。これは渡部ツアー女子プロ、大殊勲か!?
中井女流六段、1手指すごとに小さくうめく。中井女流六段は現在女流公式戦19連勝中だが、その威光はここからはうかがえない。渡部ツアー女子プロ、口元に緑のフェイスタオルをあてて考えている。夏用の制服がまぶしい。
渡部ツアー女子プロ、☗7三金。中井女流六段、☖7二歩。この手は渡部ツアー女子プロ、読んでいなかったはずだ。ここに中井女流六段と渡部ツアー女子プロの棋力の差がある。渡部ツアー女子プロ、秒読みのなか、やむなく☗6二金と飛車を取る。中井女流六段、☖7三銀~☖6二銀。これが7一の飛車取りになっている。
渡部ツアー女子プロ、☗7二飛成。しかしここは、詰ましてみろ、と☗3一飛成と開き直る手はあった。…というのは第三者の無責任な意見であって、詰まされたらすべてが終わってしまうのだ。☗7二飛成はいい粘りだったといえる。しかし中井女流六段に☖5五角から☖7三銀と竜を外されては、大勢決した。
以下も渡部ツアー女子プロが粘ったものの、最後は中井女流六段が鮮やかに渡部玉を討ち取り、薄氷の勝利となった。終局時間13時25分。2時間40分の、濃密な師弟対決であった。
渡部ツアー女子プロ、敗れはしたものの、こうした将棋を続けていれば、女流棋士への道も夢ではないだろう。いっぽうの中井女流六段、それに石橋天河は、ちょっと自分の将棋を再点検する必要がありそうである。
ともあれいいものを見せてもらったと、私はここで失礼した。
しかし帰宅後、LPSAのサイトを見て、林葉直子さんのトークショーがあったことを思い出した。そうだ、これがあるんだった。どうも私は、ここ一番というときに失敗する。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする