先手・一公:1六歩、1九香、2九桂、3六歩、3七角、3八銀、3九玉、4七歩、4九金、5七歩、6八銀、7七桂、7八金、8六飛、8七歩、9六歩、9九香 持駒:歩4
後手・N五段:1一香、1四歩、2一桂、2二角、2三歩、3一王、3二金、3四歩、4二銀、5二金、5三歩、6二飛、6四銀、7三歩、8一桂、8三歩、9一香、9四歩 持駒:歩
ここで私の手番。私は当然のように▲8三飛成としたが、これがいま思えば次善手だった。
ここは▲7二歩が最善手と信じる。これで後手に指す手がないことを確かめられたい。勝負事は下駄を履くまで分からないが、将棋には絶対負けない形がある。こう指せば、先手は攻めの手に困らず、私の快勝で終わっていただろう。
実戦は▲8三飛成以下△8二歩▲8六竜となったが、やや局面が収まっている。この▲8六竜も緩手で、まだ▲8四竜と銀取りに当てるべきだった。
ここから先は、思い出すのも不愉快になる展開。こんなにいい将棋を、私の悪手連発とN氏の猛追で、大逆転負けとなったのだ。
私が投了すると、N氏が「どうもヒドイ将棋で…」と自嘲し、感想戦はなし。いやはや、この敗戦は痛かった。
呆然としつつ、船戸陽子女流二段の指導対局に目を転じる。現在は木村晋介将棋ペンクラブ会長が挑んでいる。しかし木村会長が頭を深く垂れ、盤面が見えない。もうちょっと顔を上げて、盤を広く見たらどうか。などと平会員の私が言ってはいけない。どの世界でも、会長の権威は絶大なのだ。
その傍らでは、女性同士の対局が行われている。ひとりは東京モンキーズ・Misakoさんだが、もう片方の超美人は誰だろう。タレントの梨沙帆と思いきや、よく見ると彼女ではない。将棋を見ると、ひねり飛車から攻勢を取って、立派な形になっている。いったい、彼女は何者なのか。
それにしても女性が多い。M幹事のブログによると、今回は多くの女性の参加が見込まれるとのことだったが、その記述に誤りはなく、現在は10名以上の女性が盤を挟んでいる。文章好きの集まりとはいえこれは椿事で、男ばかりの交流会を知る私には、目の前の光景が信じられない。「将棋女子」は、私の想像以上に増殖しているらしい。
まだ対局の時間はあるが、私と同程度の棋力の会員とは、あらかた指してしまったようだ。それを見かねて、某氏が練習将棋を申し込んできた。某氏には日頃からお世話になっており、もちろん快諾する。
その某氏は、将棋はあまり強くないようなことを言っていたが、いざ指してみたら、私の完敗だった。
ところが某氏は、私が手心を加えてくれたと取ったらしい。彼は感激の面持ち?で私の後ろに回ると、
「大沢さああーん!!」
と、抱きしめてきたのだった。
き…気持ちわりーナア、おい!!
そのまま交流対局は終了。この将棋は練習対局なので勝ち星は反映せず、結局私は、4勝4敗で終えた。
このあとは各人の成績発表と自己紹介である。ただ今年は参加人数が多かったため、自己紹介は割愛となった。
成績チェックの間、湯川博士統括幹事の小話。たとえ数分間でも、私たちを退屈させるようなことはしないのだ。
ただし声は小さい。隣の羽生善治名人・王座・棋聖と村山慈明五段の一戦は、中盤の難所だ。これから大広間はうるさくなるが、それをどこまで抑えられるのか。
私の前に座った方は、私のブログを愛読してくださっていた。コメントを書こうとしたこともあったが、気後れしてしまうという。しかしそんなにかしこまることはない。もっと気軽に書いてくれればいいのだ。
襖が開き、窪田義行六段が見える。窪田六段は将棋ペンクラブの古参会員であり、その個性的なキャラクターと芸術の香り漂う文章に、心酔するファンも多い。むろん私もそのひとりだ。
成績チェックが終わりいよいよ成績発表となったが、その前に本日の指導棋士が改めて紹介された。船戸女流二段は今年末の「将棋寄席」で、落語を披露してくれるそうだ。船戸女流二段の多芸多才は有名だが、その意欲はとどまるところを知らない。
成績トップは7戦全勝のN五段だった。私が8戦目に負けた相手だ。とすると、あれはけっこう重大な一戦だったのだ。返す返すも、惜しい将棋を落としたと思う。
私は4勝だったので、名前を呼ばれたのは後の方だった。早速賞品を選ぼうとすると、湯川統括幹事が私を捕まえて、
「彼は大沢さんといいまして、ペン倶楽部によく投稿してくれてます」
と、紹介してくれる。なんだか恥ずかしい。「それと、船戸陽子さんのファンです」。
とたんに、会場内に微苦笑が起こった。湯川統括幹事は私を紹介するとき、いつもこのフレーズを最後に付け加える。私はただただ、顔を赤くするしかなかった。
さて私がチョイスした賞品は、片上大輔五段(当時)の色紙。ただし落款が捺してなかったので、機会があったら頂戴したいと思う。
成績発表が終わると、テーブルを大広間に運び入れ、午後4時半、懇親会が始まった。参加者のほとんどがそのまま残り、その数は70名近くに上った。これは空前の数字である。ただ、肝心の船戸女流二段は、翌日に行われるLPSAイベントの準備があるとかで、ここで退席となった。私がいる意味が、半分なくなった。
乾杯のあと、私は部屋の隅でちびちびビールを飲む。ナナメ向かいに座った美人は磯部真季さんかと思いきや、落語家さんだった。いずれにしても美人なのだが、話しかける気力がない。
私が独りたそがれていたからか、先ほどの某氏が来てくれる。
「大沢さん、キャンプとか興味ある?」
「ないこともないですけど、まあ、ありますよ」
「今度いっしょに行かない?」
「ああ…いいですよ」
「じゃあ行こうよ」
「そうですね。あとは誰を呼ぶんですか?」
「うん? ボクとふたりだけだよ」
「ええっ? ふたりだけ!? それは…。ふたりで行って、何すんの」
「将棋を指すんだよ」
キャンプに行って、ふたりで将棋!? いやせっかくキャンプに行くのなら、もっと大人数でワイワイやるのがスジではないのか。某氏は結婚をしているはずだが、そっちのケがあるのだろうか。
ツーショットでのキャンプに臨む勇気は持ち合わせていないので、誠に申し訳ないが、某氏には丁重にお断りした。
(つづく)
後手・N五段:1一香、1四歩、2一桂、2二角、2三歩、3一王、3二金、3四歩、4二銀、5二金、5三歩、6二飛、6四銀、7三歩、8一桂、8三歩、9一香、9四歩 持駒:歩
ここで私の手番。私は当然のように▲8三飛成としたが、これがいま思えば次善手だった。
ここは▲7二歩が最善手と信じる。これで後手に指す手がないことを確かめられたい。勝負事は下駄を履くまで分からないが、将棋には絶対負けない形がある。こう指せば、先手は攻めの手に困らず、私の快勝で終わっていただろう。
実戦は▲8三飛成以下△8二歩▲8六竜となったが、やや局面が収まっている。この▲8六竜も緩手で、まだ▲8四竜と銀取りに当てるべきだった。
ここから先は、思い出すのも不愉快になる展開。こんなにいい将棋を、私の悪手連発とN氏の猛追で、大逆転負けとなったのだ。
私が投了すると、N氏が「どうもヒドイ将棋で…」と自嘲し、感想戦はなし。いやはや、この敗戦は痛かった。
呆然としつつ、船戸陽子女流二段の指導対局に目を転じる。現在は木村晋介将棋ペンクラブ会長が挑んでいる。しかし木村会長が頭を深く垂れ、盤面が見えない。もうちょっと顔を上げて、盤を広く見たらどうか。などと平会員の私が言ってはいけない。どの世界でも、会長の権威は絶大なのだ。
その傍らでは、女性同士の対局が行われている。ひとりは東京モンキーズ・Misakoさんだが、もう片方の超美人は誰だろう。タレントの梨沙帆と思いきや、よく見ると彼女ではない。将棋を見ると、ひねり飛車から攻勢を取って、立派な形になっている。いったい、彼女は何者なのか。
それにしても女性が多い。M幹事のブログによると、今回は多くの女性の参加が見込まれるとのことだったが、その記述に誤りはなく、現在は10名以上の女性が盤を挟んでいる。文章好きの集まりとはいえこれは椿事で、男ばかりの交流会を知る私には、目の前の光景が信じられない。「将棋女子」は、私の想像以上に増殖しているらしい。
まだ対局の時間はあるが、私と同程度の棋力の会員とは、あらかた指してしまったようだ。それを見かねて、某氏が練習将棋を申し込んできた。某氏には日頃からお世話になっており、もちろん快諾する。
その某氏は、将棋はあまり強くないようなことを言っていたが、いざ指してみたら、私の完敗だった。
ところが某氏は、私が手心を加えてくれたと取ったらしい。彼は感激の面持ち?で私の後ろに回ると、
「大沢さああーん!!」
と、抱きしめてきたのだった。
き…気持ちわりーナア、おい!!
そのまま交流対局は終了。この将棋は練習対局なので勝ち星は反映せず、結局私は、4勝4敗で終えた。
このあとは各人の成績発表と自己紹介である。ただ今年は参加人数が多かったため、自己紹介は割愛となった。
成績チェックの間、湯川博士統括幹事の小話。たとえ数分間でも、私たちを退屈させるようなことはしないのだ。
ただし声は小さい。隣の羽生善治名人・王座・棋聖と村山慈明五段の一戦は、中盤の難所だ。これから大広間はうるさくなるが、それをどこまで抑えられるのか。
私の前に座った方は、私のブログを愛読してくださっていた。コメントを書こうとしたこともあったが、気後れしてしまうという。しかしそんなにかしこまることはない。もっと気軽に書いてくれればいいのだ。
襖が開き、窪田義行六段が見える。窪田六段は将棋ペンクラブの古参会員であり、その個性的なキャラクターと芸術の香り漂う文章に、心酔するファンも多い。むろん私もそのひとりだ。
成績チェックが終わりいよいよ成績発表となったが、その前に本日の指導棋士が改めて紹介された。船戸女流二段は今年末の「将棋寄席」で、落語を披露してくれるそうだ。船戸女流二段の多芸多才は有名だが、その意欲はとどまるところを知らない。
成績トップは7戦全勝のN五段だった。私が8戦目に負けた相手だ。とすると、あれはけっこう重大な一戦だったのだ。返す返すも、惜しい将棋を落としたと思う。
私は4勝だったので、名前を呼ばれたのは後の方だった。早速賞品を選ぼうとすると、湯川統括幹事が私を捕まえて、
「彼は大沢さんといいまして、ペン倶楽部によく投稿してくれてます」
と、紹介してくれる。なんだか恥ずかしい。「それと、船戸陽子さんのファンです」。
とたんに、会場内に微苦笑が起こった。湯川統括幹事は私を紹介するとき、いつもこのフレーズを最後に付け加える。私はただただ、顔を赤くするしかなかった。
さて私がチョイスした賞品は、片上大輔五段(当時)の色紙。ただし落款が捺してなかったので、機会があったら頂戴したいと思う。
成績発表が終わると、テーブルを大広間に運び入れ、午後4時半、懇親会が始まった。参加者のほとんどがそのまま残り、その数は70名近くに上った。これは空前の数字である。ただ、肝心の船戸女流二段は、翌日に行われるLPSAイベントの準備があるとかで、ここで退席となった。私がいる意味が、半分なくなった。
乾杯のあと、私は部屋の隅でちびちびビールを飲む。ナナメ向かいに座った美人は磯部真季さんかと思いきや、落語家さんだった。いずれにしても美人なのだが、話しかける気力がない。
私が独りたそがれていたからか、先ほどの某氏が来てくれる。
「大沢さん、キャンプとか興味ある?」
「ないこともないですけど、まあ、ありますよ」
「今度いっしょに行かない?」
「ああ…いいですよ」
「じゃあ行こうよ」
「そうですね。あとは誰を呼ぶんですか?」
「うん? ボクとふたりだけだよ」
「ええっ? ふたりだけ!? それは…。ふたりで行って、何すんの」
「将棋を指すんだよ」
キャンプに行って、ふたりで将棋!? いやせっかくキャンプに行くのなら、もっと大人数でワイワイやるのがスジではないのか。某氏は結婚をしているはずだが、そっちのケがあるのだろうか。
ツーショットでのキャンプに臨む勇気は持ち合わせていないので、誠に申し訳ないが、某氏には丁重にお断りした。
(つづく)