去る11月10日の竜王ランキング戦6組5位決定戦で、大野八一雄七段は加藤一二三九段を破り、見事5組昇級を果たした。そのとき私が当ブログで、「もし大野七段が勝ったら、焼肉パーティーを開きましょう」と書いたのだが、この何げない一文を、大野教室の生徒は見逃さなかった。その後私は何も言ってないのに、とんとん拍子で焼肉パーティーの話が進行した。
私たちはジョナ研の席で、日にちはいつがいいか、話し合った。焼肉だから「11月29日(イイニク)」案が出たが、火曜日なので却下。で、大野教室のある12月3日(土)になった。対戦相手が一二三九段だったから、ゴロ合わせ的にもちょうどいい。
ところがその後のリサーチでは、あまり生徒が集まらなかった。このパーティーは私たちのごちそうなので、頭数はひとりでも多い方がいい。そこで、翌4日で再検討すると、これはかなりの生徒が手を挙げた。そうか…。ま、一二三を越えたのだから、4日がベストだ、という考え方もできる。
「物事は何でもいいほうにいいほうに考える」
は、私が敬愛する長崎県の喫茶店のマスターの言葉である。かくして12月4日に、「大野七段・竜王戦5組昇級祝い・焼肉大パーティー」の開催が決定した。
当日4日。大野教室も早めに切り上げ…といっても、午後6時半を過ぎてしまったのだが、参加者はほぼ揃い、あとは中井広恵女流六段の到着を待つだけとなった。
と、W氏が私に、中井女流六段に電話をするよう促した。しかしそれは困る。私にとって女流棋士は雲の上の存在で、電話はもちろん、メールさえ自分から出すのは畏れ多い。中井女流六段にはとくにそうで、中井女流六段とは一応メル友ではあるが、いままで自分からメールを出したことは1度もない。中井女流六段と私は、エセメル友なのだ。その中井女流六段に、私から電話を掛けられるわけがない。だがW氏は、業務上必要だからとうるさい。
そこで私は渋々? スマホから電話を掛けた。しかしこの心臓の鼓動は何なのだ。ただの業務連絡じゃないか、落ち着け。ああ、あああ、緊張する!
9回目のコールで、中井女流六段が出た。うわっ!! 私は平静を装い、様子を聞く。いまクルマの中で、もうすぐ大野教室に着くという。中井女流六段はそう簡潔に言うと、電話を切った。
ふぅー。女流棋士と電話で話すことが、こんなに息苦しいものだとは思わなかった。しかしとりあえずまあ、私の任務は終わった。さあ、もう少し待ちましょう、と思いきや、またW氏が、
「じゃあ、ボクたちは先に行くから、大沢さんは後から中井先生を案内して来てよ」
と言った。
焼肉屋は6時半に予約を取っているが、もう7時を過ぎている。みなが一刻も早く行きたい気持ちは分かる。しかし私が中井女流六段と夜道を歩くのはマズイ。ドキドキして、心臓が爆発してしまう。
ちょっと待ってくれと私は抵抗するが、W氏は私に焼肉屋の場所を教えると、みなを従えて、そそくさと焼肉屋へ向かってしまったのだった。
仕方がない。私は植え込み近くの「喫煙席」に腰をおろし、中井女流六段が来るのを待つ。辺りはとうに真っ暗だ。夜風が身にしみる。ここに、あと少しで、中井女流六段が来るのだ。ああっ、緊張する!! 来たら、何か気の利いた一言でも言わねばならない。しかし何を言えばいいのだろう。店までの道すがら、間がもつのだろうか。うああ、ダメだこれ!!
と、スマホに電話が入った。出るとW氏からで、たまたま中井先生のクルマと鉢合わせして、いま先生がいつものパーキングに駐めてるから、大沢さんはそちらに行ってくれ、とのことだった。
何だかあっちこっち振り回すなあ…。
私は釈然としないながらも、いつものパーキングに向かう。しかし中井女流六段と思しき女性はいない。怪訝に思っていると、またまたW氏から電話があり、中井女流六段は別のパーキングに駐めたらしいから、大沢さん、いますぐ焼肉屋へ来て、と言われた。
何だそりゃ。何だそりゃ何だそりゃ何だそりゃ!
中井女流六段との夜道のツーショットは回避されたが、それはそれで複雑な気持ちだった。
私はとぼとぼと焼肉屋へ向かう。と、向こうから中井女流六段が小走りにやってきた。一足早く店に入った中井女流六段が、私を迎えに来てくれたのだ。
ちょっとうれしい。しかし大野七段の姿も見える。大野先生、余計である。ここは気を利かして、私と中井女流六段のふたりにしてほしかった。
さっきまでは中井女流六段とのツーショットにビビッていたのに、勝手なものである。
まあいい。私たちは苦笑いしながら、焼肉屋に入ったのだった。店内の時計は7時30分を指していた。いよいよ、焼肉大パーティーの始まりである。
(つづく)
私たちはジョナ研の席で、日にちはいつがいいか、話し合った。焼肉だから「11月29日(イイニク)」案が出たが、火曜日なので却下。で、大野教室のある12月3日(土)になった。対戦相手が一二三九段だったから、ゴロ合わせ的にもちょうどいい。
ところがその後のリサーチでは、あまり生徒が集まらなかった。このパーティーは私たちのごちそうなので、頭数はひとりでも多い方がいい。そこで、翌4日で再検討すると、これはかなりの生徒が手を挙げた。そうか…。ま、一二三を越えたのだから、4日がベストだ、という考え方もできる。
「物事は何でもいいほうにいいほうに考える」
は、私が敬愛する長崎県の喫茶店のマスターの言葉である。かくして12月4日に、「大野七段・竜王戦5組昇級祝い・焼肉大パーティー」の開催が決定した。
当日4日。大野教室も早めに切り上げ…といっても、午後6時半を過ぎてしまったのだが、参加者はほぼ揃い、あとは中井広恵女流六段の到着を待つだけとなった。
と、W氏が私に、中井女流六段に電話をするよう促した。しかしそれは困る。私にとって女流棋士は雲の上の存在で、電話はもちろん、メールさえ自分から出すのは畏れ多い。中井女流六段にはとくにそうで、中井女流六段とは一応メル友ではあるが、いままで自分からメールを出したことは1度もない。中井女流六段と私は、エセメル友なのだ。その中井女流六段に、私から電話を掛けられるわけがない。だがW氏は、業務上必要だからとうるさい。
そこで私は渋々? スマホから電話を掛けた。しかしこの心臓の鼓動は何なのだ。ただの業務連絡じゃないか、落ち着け。ああ、あああ、緊張する!
9回目のコールで、中井女流六段が出た。うわっ!! 私は平静を装い、様子を聞く。いまクルマの中で、もうすぐ大野教室に着くという。中井女流六段はそう簡潔に言うと、電話を切った。
ふぅー。女流棋士と電話で話すことが、こんなに息苦しいものだとは思わなかった。しかしとりあえずまあ、私の任務は終わった。さあ、もう少し待ちましょう、と思いきや、またW氏が、
「じゃあ、ボクたちは先に行くから、大沢さんは後から中井先生を案内して来てよ」
と言った。
焼肉屋は6時半に予約を取っているが、もう7時を過ぎている。みなが一刻も早く行きたい気持ちは分かる。しかし私が中井女流六段と夜道を歩くのはマズイ。ドキドキして、心臓が爆発してしまう。
ちょっと待ってくれと私は抵抗するが、W氏は私に焼肉屋の場所を教えると、みなを従えて、そそくさと焼肉屋へ向かってしまったのだった。
仕方がない。私は植え込み近くの「喫煙席」に腰をおろし、中井女流六段が来るのを待つ。辺りはとうに真っ暗だ。夜風が身にしみる。ここに、あと少しで、中井女流六段が来るのだ。ああっ、緊張する!! 来たら、何か気の利いた一言でも言わねばならない。しかし何を言えばいいのだろう。店までの道すがら、間がもつのだろうか。うああ、ダメだこれ!!
と、スマホに電話が入った。出るとW氏からで、たまたま中井先生のクルマと鉢合わせして、いま先生がいつものパーキングに駐めてるから、大沢さんはそちらに行ってくれ、とのことだった。
何だかあっちこっち振り回すなあ…。
私は釈然としないながらも、いつものパーキングに向かう。しかし中井女流六段と思しき女性はいない。怪訝に思っていると、またまたW氏から電話があり、中井女流六段は別のパーキングに駐めたらしいから、大沢さん、いますぐ焼肉屋へ来て、と言われた。
何だそりゃ。何だそりゃ何だそりゃ何だそりゃ!
中井女流六段との夜道のツーショットは回避されたが、それはそれで複雑な気持ちだった。
私はとぼとぼと焼肉屋へ向かう。と、向こうから中井女流六段が小走りにやってきた。一足早く店に入った中井女流六段が、私を迎えに来てくれたのだ。
ちょっとうれしい。しかし大野七段の姿も見える。大野先生、余計である。ここは気を利かして、私と中井女流六段のふたりにしてほしかった。
さっきまでは中井女流六段とのツーショットにビビッていたのに、勝手なものである。
まあいい。私たちは苦笑いしながら、焼肉屋に入ったのだった。店内の時計は7時30分を指していた。いよいよ、焼肉大パーティーの始まりである。
(つづく)