きのうは上野のヨドバシカメラに、年賀状ポストカードの申し込みをしに行った。私の年賀状は、その前年(つまり2011年)に撮ったベストショットを1枚貼り、余白に「私の10大ニュース」を手書きするもの。桐谷広人七段ほどマメではないが、私の年賀状も、結構手が込んでいるのだ。
そろそろ今年の10大ニュースを選定しなければならないが、今年はいささか、気が重い。
6日(火)に東京・将棋会館で行われた女流王座戦第4局・清水市代女流六段×加藤桃子奨励会1級の一戦は、清水女流六段が勝ち、2勝2敗のタイとなった。
本局、7手目に加藤1級が▲7七角と上がりながら、11手目に▲2二角成と角を換えたのが、波乱の発端となった。
かなり進んで、43手目▲5五角の金取りに、清水女流六段が△1二金と耐えたのが、驚愕の一手だった。何なのだこの手は!? △3三桂と跳ねればツブレるから仕方ないともいえるが、私なら分かっていても指せない。香損覚悟で△3二金と寄る。芹沢博文九段なら、こんな手(△1二金)を指すくらいなら…と投了しているだろう。
本局、△2二金は長いこと、ここにいた。いつでも△3二金と戻す機会はあったのだ。しかも先手はいったん▲7七角と上がってから、▲2二角成と交換している。ここで後手が一手費やして、△3二金と戻しても腹は立つまい。
しかるに清水女六段は、別の手を優先させ、△1二金と耐え難きを耐えた。清水女流六段の将棋には、形にこだわらない屈辱の一手がときどき出るが、これはその典型的な例である。そして女流棋士でこの手を指せるのもまた、清水女流六段しかいない。その意味では、清水将棋が如実に表れた、興味深い局面だったといえる。
とはいえ現実的には△1二金が泣きの辛抱だったことに違いなく、先手が早々に▲3二飛成と成りこんでは、加藤1級のタイトル獲得も時間の問題と思われた。
ところがここから将棋はもつれ、加藤1級が微差ながら有利、という状況のまま、局面は終盤になだれ込んでいく。
103手目中合いの▲5四歩。清水女流六段は△同飛と取り、加藤1級は▲5五歩と打つ。
これが一局を棒に振った、ココセ級の大悪手だった。よろこんで△同金と取られ、一手で大逆転となってしまった。
しかしよく分からない。ポカや見落としの原因で、角や桂馬の利きをうっかりしたとか、読みの中で△4四の歩が消えていた、というのはある話だが、△6四金は、▲5五歩のすぐナナメ前にあったのだ。加藤1級にこの駒が見えないはずがない。歩を打てば△同金と取られるのは分かっていたはずだ。
よって、駒の利きをうっかりしたということはない。で、別の可能性を考えてみる。
その前に、102手目の△5一飛にも言及したい。この王手に、加藤1級は意外とド肝を抜かれたのではないだろうか。
というのもこの飛車は、40手目に「8一」に引いてから、ずうっと8筋を狙っていた。それが突然横を走り、「王手!」と来たのだ。まるで物陰から獣が飛び出してきたようで、加藤1級がパニくって、読みを停止させてしまった可能性はあった。
話を戻し、△5五同金の局面で、加藤1級が後手玉に詰みがありと見た可能性はどうか。しかしこれは後手玉の上部が広く、容易に詰むとは思われない。少なくとも、優勢のほうが考える手ではない。
では別の錯覚があったか。
例えばここで、▲8一角と打ってみる。△4六金なら▲5四角成と飛車を取って先手勝ち? しかしそれは△5七銀成で、先手玉が先に詰んでしまう。
そんな錯覚があるか、と言われればそのとおりだが、錯覚とは得てしてそういうものである。
つまるところ、錯覚の原因は本人がつまびらかにするしかないが、加藤1級は口をつぐみそうな気がする。
ただどうなのだろう。▲5五歩を見る前まで私は、加藤1級はしっかりした将棋を指す、と評価していたのだが、▲5五歩を境に、奨励会1級も人の子、大したことはないんじゃないか? と、その実力に疑問符を付けてしまったことは否定できない。
次の対局で加藤1級が私の疑念を晴らし、やはり加藤1級は強かった、と唸らせてくれるようなら、彼女はホンモノである。そしてそうなったとき、「女流王座」のタイトルも転がり込んでくる。
注目の女流王座戦最終局は、あさって12日(月)。
そろそろ今年の10大ニュースを選定しなければならないが、今年はいささか、気が重い。
6日(火)に東京・将棋会館で行われた女流王座戦第4局・清水市代女流六段×加藤桃子奨励会1級の一戦は、清水女流六段が勝ち、2勝2敗のタイとなった。
本局、7手目に加藤1級が▲7七角と上がりながら、11手目に▲2二角成と角を換えたのが、波乱の発端となった。
かなり進んで、43手目▲5五角の金取りに、清水女流六段が△1二金と耐えたのが、驚愕の一手だった。何なのだこの手は!? △3三桂と跳ねればツブレるから仕方ないともいえるが、私なら分かっていても指せない。香損覚悟で△3二金と寄る。芹沢博文九段なら、こんな手(△1二金)を指すくらいなら…と投了しているだろう。
本局、△2二金は長いこと、ここにいた。いつでも△3二金と戻す機会はあったのだ。しかも先手はいったん▲7七角と上がってから、▲2二角成と交換している。ここで後手が一手費やして、△3二金と戻しても腹は立つまい。
しかるに清水女六段は、別の手を優先させ、△1二金と耐え難きを耐えた。清水女流六段の将棋には、形にこだわらない屈辱の一手がときどき出るが、これはその典型的な例である。そして女流棋士でこの手を指せるのもまた、清水女流六段しかいない。その意味では、清水将棋が如実に表れた、興味深い局面だったといえる。
とはいえ現実的には△1二金が泣きの辛抱だったことに違いなく、先手が早々に▲3二飛成と成りこんでは、加藤1級のタイトル獲得も時間の問題と思われた。
ところがここから将棋はもつれ、加藤1級が微差ながら有利、という状況のまま、局面は終盤になだれ込んでいく。
103手目中合いの▲5四歩。清水女流六段は△同飛と取り、加藤1級は▲5五歩と打つ。
これが一局を棒に振った、ココセ級の大悪手だった。よろこんで△同金と取られ、一手で大逆転となってしまった。
しかしよく分からない。ポカや見落としの原因で、角や桂馬の利きをうっかりしたとか、読みの中で△4四の歩が消えていた、というのはある話だが、△6四金は、▲5五歩のすぐナナメ前にあったのだ。加藤1級にこの駒が見えないはずがない。歩を打てば△同金と取られるのは分かっていたはずだ。
よって、駒の利きをうっかりしたということはない。で、別の可能性を考えてみる。
その前に、102手目の△5一飛にも言及したい。この王手に、加藤1級は意外とド肝を抜かれたのではないだろうか。
というのもこの飛車は、40手目に「8一」に引いてから、ずうっと8筋を狙っていた。それが突然横を走り、「王手!」と来たのだ。まるで物陰から獣が飛び出してきたようで、加藤1級がパニくって、読みを停止させてしまった可能性はあった。
話を戻し、△5五同金の局面で、加藤1級が後手玉に詰みがありと見た可能性はどうか。しかしこれは後手玉の上部が広く、容易に詰むとは思われない。少なくとも、優勢のほうが考える手ではない。
では別の錯覚があったか。
例えばここで、▲8一角と打ってみる。△4六金なら▲5四角成と飛車を取って先手勝ち? しかしそれは△5七銀成で、先手玉が先に詰んでしまう。
そんな錯覚があるか、と言われればそのとおりだが、錯覚とは得てしてそういうものである。
つまるところ、錯覚の原因は本人がつまびらかにするしかないが、加藤1級は口をつぐみそうな気がする。
ただどうなのだろう。▲5五歩を見る前まで私は、加藤1級はしっかりした将棋を指す、と評価していたのだが、▲5五歩を境に、奨励会1級も人の子、大したことはないんじゃないか? と、その実力に疑問符を付けてしまったことは否定できない。
次の対局で加藤1級が私の疑念を晴らし、やはり加藤1級は強かった、と唸らせてくれるようなら、彼女はホンモノである。そしてそうなったとき、「女流王座」のタイトルも転がり込んでくる。
注目の女流王座戦最終局は、あさって12日(月)。