まず乗るべきは札沼線である。現在は学園都市線の愛称が付いている同線は数年前からベッドタウン化が進み、沿線に複数の大学もあることから札幌始発の列車は多くなっており、現在57本。しかし北進するごとに本数が少なくなり、終着新十津川は1日に3本の発着しかない(ちなみに1979年4月現在のそれは、札幌発14本、新十津川着7本であった)。この数字、始まりは日本将棋連盟&女流棋士会、終わりはLPSAというべきか。このアンバランスが札沼線の魅力といえる。私が最も好きな路線である。
さてそのまま札沼線に乗ってもいいのだが、新十津川への直通列車は1本もなく、石狩当別で乗り換えを余儀なくされる。それで逆算すると、次は7時ちょうど発の列車に乗ればいいということが分かった。
軽食を摂りたいが、朝が早いので、キオスクの類はまだ開いてない。私はいったん改札を出て、北口前のコンビニに入る。何か飲み物を…と探していたら、「グレープフルーツカツゲン」があったので、おにぎりと一緒に買った。
7時の電車に乗り、発車。なお説明が前後するが、「周遊きっぷ」について補足しておくと、北海道内のそれは「北海道ゾーン(20,000円)」「道南ゾーン(9,000円)」「道東ゾーン(12,000円)」「道央ゾーン(9,000円)」「道北ゾーン(9,000円)」の5種類があり、今回の旅行では「道北ゾーン」が適していた。ただしこのゾーンには札沼線が含まれていないので、もしこのゾーン券を利用していたら、この路線のみ別に買い足すことになっていた。
夜が明けたから車窓を愉しみたいが、眠気には勝てず仮眠する。7時38分、石狩当別着。
ここからディーゼル車に乗り換える。北海道ではおなじみの「キハ40」である。中はボックスシートだが、その片方は2人掛けになっていた。最近はこのパターンが多いが、座席を減らしてどのくらい経費節減になるというのか。やはりボックス席は4人掛けにしてもらいたい。
乗客はけっこう多く、10人以上はいた。この中に、私のような「札沼線を愉しむ」鉄道オタクが紛れているのは明らかである。
今年の北海道は雪が多いらしい、と大野八一雄七段から威されてきたが、ここまではとくに差異は感じられない。列車はたんたんと平地を走る。周りに特筆すべき景色もなく、この退屈極まりない時間が札沼線の醍醐味である。
8時17分、石狩月形着。ここで数人の客が降りる。発車は40分なので、時間がある。私も降りて、列車の写真などを撮る。毎年の恒例行事である。
8時40分、発車。乗客は6人になっていた。たった6人のために列車が運転される。最高の贅沢である。
左手に何かの名前がついているであろう山、右手に国道275号を見やり、列車はゆっくりと進む。こんなところでスピードを出してオカネをかけたくありません、の意思も窺える。
9時28分、新十津川着。私は運転手さんに、東京からのこの切符を、記念に欲しい旨を申し出た。運転手さんも応じてくれ、「東京都区内→新十津川」の使用済切符は、めでたく私のコレクションとなった。普通切符から周遊ゾーンに替えなかった理由のひとつがこれだったから、うれしかった。
そのまま駅舎に入ると、各種パンフレットなど、展示物が充実していた。地味な列車ながら、熱烈なファンが全国にいるのだと思った。これにて札沼線の旅は終了。
なおこれから札沼線を愉しみたい方は、島田荘司著「奇想、天を動かす 札沼線5つの怪」を事前に読むのがいいと思う。札沼線の魅力が詰まった、推理小説の傑作である。
次に乗るべきは、これもお馴染み、JR北海道バス深名線である。函館本線の深川と宗谷本線の名寄を結ぶローカルバスで、以前は同区間に鉄道が走っていた。しかしご多分にもれず超赤字で、国道の整備が完了されるとともに鉄道は廃止になった。
しかしバスになっても山間を走る秘境ムードに変わりはなく、現在も時間を作っては乗っているのだ。なおここはJRバスなので、道北ゾーンでも使える。これが道北ゾーンの「売り」と信じる。
連絡バスで、滝川駅前に向かう。滝川バスターミナル着。ここから深川まではJRの特急に乗ってすぐなのだが、ここでは深川までバスで行くしかない。
滝川バスターミナルで、中央バスのデザイン付バスカードを買う。しかし深川行きのバスに乗ったら、これは使えないとのこと。このバスは「空知中央バス」だった。ちょっと紛らわしい。
11時24分、終着・深川市立病院前着。昨年もこのバス停で降りたが、どうも駅までが遠い。よく考えたら、その2つ手前の「深川十字街」が駅の最寄だったようだ。
ここからバス深名線に乗るが、11時45分発である。もう少し待ち時間があれば喫茶店で時間を潰せるのだが、仕方ない。
バスには10人前後の客が乗った。このくらい乗ればオンの字であろう。
私は1,000円の回数券を2冊買う。運転手さんは感じのよさそうな人で、これなら自分の命を預けられると思った。
バスは市街地をしばらく走り、山道に入った。深名線は豪雪地帯を走るから、定点調査ができない。例年より多いと思えば思えるし、同じといえばいえる。しかし私の前方の景色は由紀…じゃなかった雪一色で、ちょっと「きている」かな、と思う。
運転手さんの運転は確かだ。このドライブテクニックを堪能して全線2,500円前後なら安いと思う。
13時02分、幌加内バスターミナル着。ここで15分の休憩である。ターミナル内には「せい一」なる蕎麦屋があり、ここの幌加内そばを一度食してみたいと思ったのだが、15分以内で済ませることができるか。私は逡巡し、いつも見送っていたのだが、今回は運転手さんに発車時間を確認したのち、蕎麦屋に入った。
「15分で(この店を)出たいんですけど、できます?」
「はあ、おそばなら早いですよ」
おば…おねえさんが返す。
「じゃあ、もりそば」
蕎麦の味を堪能するなら、もりそばがベストと信じる。店内にはほかにも客がいたが、食事は供されていた。これならすぐに出て来るはずだ。
先に会計を済ませ、数分経つと、もりそばが出てきた。まさにゆでたてで、見ただけで美味いのが分かる。
そばつゆにネギを入れ、わさびは蕎麦のワキに置く。それをちょっと蕎麦に付けて、そばつゆに落とし、ズルズルッ。美味い!!
ここ幌加内の蕎麦はひきぐるみで香りが高く、蕎麦粉そのものを食すような満足感がある。
あっという間に平らげ、そばちょこにそば湯を入れて一服。幸せだ…。と、店のおねえさんが、「ちょ、ちょっと! ここにお客さんがいますよッ!!」と、頓狂な声を挙げ、ドアのほうへ走り寄った。
!? まさか、バスが発車しちゃったのか!?
(つづく)
さてそのまま札沼線に乗ってもいいのだが、新十津川への直通列車は1本もなく、石狩当別で乗り換えを余儀なくされる。それで逆算すると、次は7時ちょうど発の列車に乗ればいいということが分かった。
軽食を摂りたいが、朝が早いので、キオスクの類はまだ開いてない。私はいったん改札を出て、北口前のコンビニに入る。何か飲み物を…と探していたら、「グレープフルーツカツゲン」があったので、おにぎりと一緒に買った。
7時の電車に乗り、発車。なお説明が前後するが、「周遊きっぷ」について補足しておくと、北海道内のそれは「北海道ゾーン(20,000円)」「道南ゾーン(9,000円)」「道東ゾーン(12,000円)」「道央ゾーン(9,000円)」「道北ゾーン(9,000円)」の5種類があり、今回の旅行では「道北ゾーン」が適していた。ただしこのゾーンには札沼線が含まれていないので、もしこのゾーン券を利用していたら、この路線のみ別に買い足すことになっていた。
夜が明けたから車窓を愉しみたいが、眠気には勝てず仮眠する。7時38分、石狩当別着。
ここからディーゼル車に乗り換える。北海道ではおなじみの「キハ40」である。中はボックスシートだが、その片方は2人掛けになっていた。最近はこのパターンが多いが、座席を減らしてどのくらい経費節減になるというのか。やはりボックス席は4人掛けにしてもらいたい。
乗客はけっこう多く、10人以上はいた。この中に、私のような「札沼線を愉しむ」鉄道オタクが紛れているのは明らかである。
今年の北海道は雪が多いらしい、と大野八一雄七段から威されてきたが、ここまではとくに差異は感じられない。列車はたんたんと平地を走る。周りに特筆すべき景色もなく、この退屈極まりない時間が札沼線の醍醐味である。
8時17分、石狩月形着。ここで数人の客が降りる。発車は40分なので、時間がある。私も降りて、列車の写真などを撮る。毎年の恒例行事である。
8時40分、発車。乗客は6人になっていた。たった6人のために列車が運転される。最高の贅沢である。
左手に何かの名前がついているであろう山、右手に国道275号を見やり、列車はゆっくりと進む。こんなところでスピードを出してオカネをかけたくありません、の意思も窺える。
9時28分、新十津川着。私は運転手さんに、東京からのこの切符を、記念に欲しい旨を申し出た。運転手さんも応じてくれ、「東京都区内→新十津川」の使用済切符は、めでたく私のコレクションとなった。普通切符から周遊ゾーンに替えなかった理由のひとつがこれだったから、うれしかった。
そのまま駅舎に入ると、各種パンフレットなど、展示物が充実していた。地味な列車ながら、熱烈なファンが全国にいるのだと思った。これにて札沼線の旅は終了。
なおこれから札沼線を愉しみたい方は、島田荘司著「奇想、天を動かす 札沼線5つの怪」を事前に読むのがいいと思う。札沼線の魅力が詰まった、推理小説の傑作である。
次に乗るべきは、これもお馴染み、JR北海道バス深名線である。函館本線の深川と宗谷本線の名寄を結ぶローカルバスで、以前は同区間に鉄道が走っていた。しかしご多分にもれず超赤字で、国道の整備が完了されるとともに鉄道は廃止になった。
しかしバスになっても山間を走る秘境ムードに変わりはなく、現在も時間を作っては乗っているのだ。なおここはJRバスなので、道北ゾーンでも使える。これが道北ゾーンの「売り」と信じる。
連絡バスで、滝川駅前に向かう。滝川バスターミナル着。ここから深川まではJRの特急に乗ってすぐなのだが、ここでは深川までバスで行くしかない。
滝川バスターミナルで、中央バスのデザイン付バスカードを買う。しかし深川行きのバスに乗ったら、これは使えないとのこと。このバスは「空知中央バス」だった。ちょっと紛らわしい。
11時24分、終着・深川市立病院前着。昨年もこのバス停で降りたが、どうも駅までが遠い。よく考えたら、その2つ手前の「深川十字街」が駅の最寄だったようだ。
ここからバス深名線に乗るが、11時45分発である。もう少し待ち時間があれば喫茶店で時間を潰せるのだが、仕方ない。
バスには10人前後の客が乗った。このくらい乗ればオンの字であろう。
私は1,000円の回数券を2冊買う。運転手さんは感じのよさそうな人で、これなら自分の命を預けられると思った。
バスは市街地をしばらく走り、山道に入った。深名線は豪雪地帯を走るから、定点調査ができない。例年より多いと思えば思えるし、同じといえばいえる。しかし私の前方の景色は由紀…じゃなかった雪一色で、ちょっと「きている」かな、と思う。
運転手さんの運転は確かだ。このドライブテクニックを堪能して全線2,500円前後なら安いと思う。
13時02分、幌加内バスターミナル着。ここで15分の休憩である。ターミナル内には「せい一」なる蕎麦屋があり、ここの幌加内そばを一度食してみたいと思ったのだが、15分以内で済ませることができるか。私は逡巡し、いつも見送っていたのだが、今回は運転手さんに発車時間を確認したのち、蕎麦屋に入った。
「15分で(この店を)出たいんですけど、できます?」
「はあ、おそばなら早いですよ」
おば…おねえさんが返す。
「じゃあ、もりそば」
蕎麦の味を堪能するなら、もりそばがベストと信じる。店内にはほかにも客がいたが、食事は供されていた。これならすぐに出て来るはずだ。
先に会計を済ませ、数分経つと、もりそばが出てきた。まさにゆでたてで、見ただけで美味いのが分かる。
そばつゆにネギを入れ、わさびは蕎麦のワキに置く。それをちょっと蕎麦に付けて、そばつゆに落とし、ズルズルッ。美味い!!
ここ幌加内の蕎麦はひきぐるみで香りが高く、蕎麦粉そのものを食すような満足感がある。
あっという間に平らげ、そばちょこにそば湯を入れて一服。幸せだ…。と、店のおねえさんが、「ちょ、ちょっと! ここにお客さんがいますよッ!!」と、頓狂な声を挙げ、ドアのほうへ走り寄った。
!? まさか、バスが発車しちゃったのか!?
(つづく)