月日が経つのは早いもので、もう2月の半ばである。拙宅は読売新聞を購読しているが、竜王戦の観戦記を読むことが毎日の楽しみとなっている。
ことに元日の観戦記は格別で、正月らしく、冒頭に「賀詞」が記される。元日の新聞で、読者にあらためてお祝いを述べる欄は意外に少なく、ほかは1面のコラムと社説ぐらいだろう。
観戦記では、古くは陣太鼓氏(山本武雄九段)が「ですます調」で執筆していたため、新年の挨拶がことのほかピッタリ決まっていた。山帰来(太期喬也)氏は「である調」だったが、この日ばかりは正月の挨拶に続けて、「ですます調」で通したこともあった。こちらも雅な気持ちになったのである。
ところが最近の読売観戦記は、元日でも賀詞がなく、ほかの日と同じように、淡々と観戦記が綴られる。なんだか機械的で面白くない。
多少弁護すれば、元日の観戦記は竜王戦七番勝負か6組ランキング戦なのだが、6組はまれに、自戦記が組まれることがある。こんな場合、執筆者はお祝いを述べる余裕などなくなってしまう。
しかし賀詞といったって、せいぜい2、3行である。何とか捩じ込めそうではないか。いまは賀詞を記すのは古いのだろうか。
ではお隣の囲碁欄、ひいては他紙の現状はどうなのだろう。やはり賀詞はないのか?
そう疑問に思った私は、元日の観戦記をひととおり調べてみた。それが以下のごとくである。棋戦名、対局者、観戦記者、冒頭の文章の順に記した。
読売新聞
「竜王戦」
▲五段 島本亮 △三段 宮本広志
池田将之「関西将棋会館の朝の控室には、対局を控えた棋士や研究会を行う若手が続々と集まってくる。」
「棋聖戦」
●九段 柳時熏 ○九段 高尾紳路
千暮良忠「囲碁ファンの皆様、明けましておめでとうございます。本年も棋聖戦へのご声援をお願い申し上げます。」
朝日新聞
「順位戦」
▲九段 屋敷伸之 △九段 深浦康市
後藤元気「あけましておめでとうございます。今年も本欄をよろしくお願いします。」
「名人戦」
●棋聖 張栩 ○七段 村川大介
松浦孝仁「新しい年とともに第38期リーグの観戦記がスタート。みなさん、今年もどうぞよろしくお願いします。」
毎日新聞
「順位戦」
▲八段 橋本崇載 △棋王 郷田真隆
上地隆蔵「新年、あけましておめでとうございます。本年も順位戦、名人戦をよろしくお願いします。」
「本因坊戦」
●九段 高尾紳路 ○九段 趙善津
石井妙子「新年おめでとうございます。本年も本欄をよろしくお願い致します。」
東京新聞
「王位戦」
▲四段 大石直嗣 △六段 稲葉陽
諏訪景子「謹賀新年。本年も王位戦と女流王位戦をよろしくお願いいたします。」
「天元戦」
●九段 片岡聡 ○名誉碁聖 大竹英雄
川熊博行「明けましておめでとうございます。天元戦を、今年もよろしくお願いいたします。」
日本経済新聞(1月4日夕刊)
「王座戦」
▲九段 久保利明 △七段 畠山鎮
上地隆蔵「久保にとって、昨年は悪夢の1年だった。王将、棋王と立て続けに失い、さらにA級降級。」
「王座戦」
●八段 河野貴至 ○九段 杉内雅男
表谷泰彦「現役最高齢、92歳の杉内雅男が4連勝でC予選とB予選を突破したのでA予選の本局を特選譜として紹介する。」
産経新聞
「棋聖戦」
▲五段 菅井竜也 △九段 久保利明
本間博「新年おめでとうございます。今年も棋聖戦をよろしくお願いします。」
「十段戦」
●九段 趙善津 ○九段 結城聡
甘竹潤二「謹賀新年。平成25年が皆さまにとって幸多き年になりますように。また盤上にも夢をはせられる年でありますように。本年も「十段戦」をよろしくご愛読ください。」
いずれも新年から第1譜が始まっている。王座戦は夕刊掲載なので4日からのため、さすがに賀詞はなかった。そのほかは元日掲載だが、5紙10観戦記中、賀詞がなかったのは読売新聞の竜王戦のみだった。
やはり私の違和感は錯覚ではなかった。読売だけが、元日のお決まり文を無視していたのだ。
ちなみにスポーツニッポン主催の王将戦は、観戦記を休止中。スポーツ報知主催の女流名人位戦は、前日の12月31日に、鈴木宏彦氏の観戦記で第1譜が始まっていた。これではお話にならない。
また地方新聞に掲載される棋王戦は調べがつかなかったが、対局から観戦記掲載までのタイムラグが激しく、ために、季節の描写は入れてはならない、という話を聞いたことがある。
さらに毎日新聞は夕刊に「順位戦熱戦譜」を掲載しており、4日からは加藤昌彦氏の観戦記が始まっていたが、こちらはスペース自体が小さいので、賀詞が入る余裕はまったくなかった。
元日の観戦記の余談になるが、毎日新聞は、サブタイトルが「ピエロに拍手」で、観戦記者の上地隆蔵氏は、対局者の橋本八段が、NHK杯将棋トーナメントにおける冒頭のインタビューで、あの佐藤紳哉六段の笑撃的コメントを一字一句模写したことを、激賞していた。
また今回の観戦記で最もていねいな新年の挨拶を記したのは、将棋観戦記でもお馴染みの甘竹潤二氏で、囲碁十段戦では実に、74文字もあった。このくらい読者に熱く語りかけてくれると、今年も1年、観戦記を読もうという気になるものだ。
さて、来年の竜王戦はどうなるのだろう。果たして賀詞は書かれるのか。いまから注目している。
ことに元日の観戦記は格別で、正月らしく、冒頭に「賀詞」が記される。元日の新聞で、読者にあらためてお祝いを述べる欄は意外に少なく、ほかは1面のコラムと社説ぐらいだろう。
観戦記では、古くは陣太鼓氏(山本武雄九段)が「ですます調」で執筆していたため、新年の挨拶がことのほかピッタリ決まっていた。山帰来(太期喬也)氏は「である調」だったが、この日ばかりは正月の挨拶に続けて、「ですます調」で通したこともあった。こちらも雅な気持ちになったのである。
ところが最近の読売観戦記は、元日でも賀詞がなく、ほかの日と同じように、淡々と観戦記が綴られる。なんだか機械的で面白くない。
多少弁護すれば、元日の観戦記は竜王戦七番勝負か6組ランキング戦なのだが、6組はまれに、自戦記が組まれることがある。こんな場合、執筆者はお祝いを述べる余裕などなくなってしまう。
しかし賀詞といったって、せいぜい2、3行である。何とか捩じ込めそうではないか。いまは賀詞を記すのは古いのだろうか。
ではお隣の囲碁欄、ひいては他紙の現状はどうなのだろう。やはり賀詞はないのか?
そう疑問に思った私は、元日の観戦記をひととおり調べてみた。それが以下のごとくである。棋戦名、対局者、観戦記者、冒頭の文章の順に記した。
読売新聞
「竜王戦」
▲五段 島本亮 △三段 宮本広志
池田将之「関西将棋会館の朝の控室には、対局を控えた棋士や研究会を行う若手が続々と集まってくる。」
「棋聖戦」
●九段 柳時熏 ○九段 高尾紳路
千暮良忠「囲碁ファンの皆様、明けましておめでとうございます。本年も棋聖戦へのご声援をお願い申し上げます。」
朝日新聞
「順位戦」
▲九段 屋敷伸之 △九段 深浦康市
後藤元気「あけましておめでとうございます。今年も本欄をよろしくお願いします。」
「名人戦」
●棋聖 張栩 ○七段 村川大介
松浦孝仁「新しい年とともに第38期リーグの観戦記がスタート。みなさん、今年もどうぞよろしくお願いします。」
毎日新聞
「順位戦」
▲八段 橋本崇載 △棋王 郷田真隆
上地隆蔵「新年、あけましておめでとうございます。本年も順位戦、名人戦をよろしくお願いします。」
「本因坊戦」
●九段 高尾紳路 ○九段 趙善津
石井妙子「新年おめでとうございます。本年も本欄をよろしくお願い致します。」
東京新聞
「王位戦」
▲四段 大石直嗣 △六段 稲葉陽
諏訪景子「謹賀新年。本年も王位戦と女流王位戦をよろしくお願いいたします。」
「天元戦」
●九段 片岡聡 ○名誉碁聖 大竹英雄
川熊博行「明けましておめでとうございます。天元戦を、今年もよろしくお願いいたします。」
日本経済新聞(1月4日夕刊)
「王座戦」
▲九段 久保利明 △七段 畠山鎮
上地隆蔵「久保にとって、昨年は悪夢の1年だった。王将、棋王と立て続けに失い、さらにA級降級。」
「王座戦」
●八段 河野貴至 ○九段 杉内雅男
表谷泰彦「現役最高齢、92歳の杉内雅男が4連勝でC予選とB予選を突破したのでA予選の本局を特選譜として紹介する。」
産経新聞
「棋聖戦」
▲五段 菅井竜也 △九段 久保利明
本間博「新年おめでとうございます。今年も棋聖戦をよろしくお願いします。」
「十段戦」
●九段 趙善津 ○九段 結城聡
甘竹潤二「謹賀新年。平成25年が皆さまにとって幸多き年になりますように。また盤上にも夢をはせられる年でありますように。本年も「十段戦」をよろしくご愛読ください。」
いずれも新年から第1譜が始まっている。王座戦は夕刊掲載なので4日からのため、さすがに賀詞はなかった。そのほかは元日掲載だが、5紙10観戦記中、賀詞がなかったのは読売新聞の竜王戦のみだった。
やはり私の違和感は錯覚ではなかった。読売だけが、元日のお決まり文を無視していたのだ。
ちなみにスポーツニッポン主催の王将戦は、観戦記を休止中。スポーツ報知主催の女流名人位戦は、前日の12月31日に、鈴木宏彦氏の観戦記で第1譜が始まっていた。これではお話にならない。
また地方新聞に掲載される棋王戦は調べがつかなかったが、対局から観戦記掲載までのタイムラグが激しく、ために、季節の描写は入れてはならない、という話を聞いたことがある。
さらに毎日新聞は夕刊に「順位戦熱戦譜」を掲載しており、4日からは加藤昌彦氏の観戦記が始まっていたが、こちらはスペース自体が小さいので、賀詞が入る余裕はまったくなかった。
元日の観戦記の余談になるが、毎日新聞は、サブタイトルが「ピエロに拍手」で、観戦記者の上地隆蔵氏は、対局者の橋本八段が、NHK杯将棋トーナメントにおける冒頭のインタビューで、あの佐藤紳哉六段の笑撃的コメントを一字一句模写したことを、激賞していた。
また今回の観戦記で最もていねいな新年の挨拶を記したのは、将棋観戦記でもお馴染みの甘竹潤二氏で、囲碁十段戦では実に、74文字もあった。このくらい読者に熱く語りかけてくれると、今年も1年、観戦記を読もうという気になるものだ。
さて、来年の竜王戦はどうなるのだろう。果たして賀詞は書かれるのか。いまから注目している。