2月初旬、将棋ペンクラブの湯川博士幹事から封書が来た。そのクセのある字で、すぐ分かった。湯川幹事からの手紙は、あの鬼瓦が想起されてビビる。でも意を決して開けてみた。
その中身は、私が先月「将棋ペン倶楽部」に投稿した原稿(「将棋寄席」レポート)に触れたものだった。
将棋寄席では神谷広志七段が高座に上がったのだが、私がボーッとしていて、そのとき名乗った高座名を忘れてしまった。それを編集部で補足してくれるようお願いしたのだが、湯川幹事の判断は、その高座名は記す必要ナシ、というものだった。
そのほかに、拙稿を「一つ二つ、校正した」と、手紙には書かれていた。
機関誌「将棋ペン倶楽部」では原稿の直しなしに活字化されることは稀で、だいたい編集部の校正が入る。
ちなみに拙稿はこれまで20回近く掲載されたが、あまり直された記憶はない。これは私の文章がうまいとかそういうことではなくて、いつも〆切後に投稿するから、校正の時間がなかったからだと思われる。
今回は余裕を持って投稿したので、直しが入ったものであろう。
ただ、補足された箇所が問題である。「将棋ペン倶楽部」は掲載スペースに限りがあり、原則的に4頁までである。今回は湯川幹事に「3頁で」とお願いされていたのでそれに従ったのだが、このときにちょっと文章を削り過ぎた。それはどこか。
今回湯川幹事が演じたのは「藪入り」である。奉公先から3年振りに帰ってくる倅の心情を情感豊かに描くものだ。
寝床の中でオヤジは、明朝帰ってくる倅を待ち切れず、倅が食べたそうなものを、カカアにつぶやく。納豆から始まり、蜆汁、鰻、刺し身、中華料理や西洋料理――。将棋寄席ではこのくだりを湯川幹事(仏家シャベル)が実にうまくやっていた。
私はそれに感心して、その模様を原稿にしたためたのだが、しばらく経つと、それは藪入りの粗筋であって、レポートとはあまり関係がないと思えた。そこで思い切って削除したのだが、これがどうだったか。けっこう、キモの文章だったのではあるまいか?
もしそこを補足されたとしたら、私もやり切れないところである。いったいどこが校正・補足されたのか…。まあこれは、最新号を見るまでのお楽しみとするしかない。
余談ながら、上記の寝床での会話は、映画「男はつらいよ・望郷篇」で、柴又に帰ってきた寅が、おばちゃんに翌朝の食事を所望するところに似ている。
寅、最初は温かい味噌汁があれば十分と言っていたのに、「おしんこと海苔とタラコ一腹」「辛子の利いた納豆」と続き、「塩こんぶに生卵も添えてくれりゃ、もう何もいらないよ、おばちゃん」と締めた。ここまで来れば立派な朝食である。
山田洋次監督は落語好きと聞いたことがあるが、どんどん料理の品数を増やすところなど、明らかに「藪入り」をモチーフにしていると思う。
…と、このあたりも原稿に書きたかったのだが、これは完全にレポートから逸脱しているので、さすがにボツにした。
話を戻すが、封筒の中には、ある物も同封されていた。
将棋寄席では仲入りのときに、将棋書籍や色紙などが当たる抽選会があるのだが、私が「これに当たったことがない」と原稿の中で不満を書いたら、湯川幹事が気の毒に思ったのか、貴重な品物(非売品)をプレゼントしてくれたのだ。これは涙が出るほどうれしかった。
私の好きな作家は推理作家の島田荘司、紀行作家の宮脇俊三、それに湯川幹事である。湯川幹事の淡々と進む味わい深い文章は、読む返すたびに新たな発見がある。そんな湯川幹事と交流が持てるのはありがたいことだ。
湯川幹事は顔が恐いので面と向かって言えないけれど、ここで厚く御礼を申し上げる次第である。
「将棋ペン倶楽部」次号の発行は3月下旬だそう。自分の原稿が載ると思えば、楽しみも倍加する。私はその日が来るのを指折り数えて、待っている。
その中身は、私が先月「将棋ペン倶楽部」に投稿した原稿(「将棋寄席」レポート)に触れたものだった。
将棋寄席では神谷広志七段が高座に上がったのだが、私がボーッとしていて、そのとき名乗った高座名を忘れてしまった。それを編集部で補足してくれるようお願いしたのだが、湯川幹事の判断は、その高座名は記す必要ナシ、というものだった。
そのほかに、拙稿を「一つ二つ、校正した」と、手紙には書かれていた。
機関誌「将棋ペン倶楽部」では原稿の直しなしに活字化されることは稀で、だいたい編集部の校正が入る。
ちなみに拙稿はこれまで20回近く掲載されたが、あまり直された記憶はない。これは私の文章がうまいとかそういうことではなくて、いつも〆切後に投稿するから、校正の時間がなかったからだと思われる。
今回は余裕を持って投稿したので、直しが入ったものであろう。
ただ、補足された箇所が問題である。「将棋ペン倶楽部」は掲載スペースに限りがあり、原則的に4頁までである。今回は湯川幹事に「3頁で」とお願いされていたのでそれに従ったのだが、このときにちょっと文章を削り過ぎた。それはどこか。
今回湯川幹事が演じたのは「藪入り」である。奉公先から3年振りに帰ってくる倅の心情を情感豊かに描くものだ。
寝床の中でオヤジは、明朝帰ってくる倅を待ち切れず、倅が食べたそうなものを、カカアにつぶやく。納豆から始まり、蜆汁、鰻、刺し身、中華料理や西洋料理――。将棋寄席ではこのくだりを湯川幹事(仏家シャベル)が実にうまくやっていた。
私はそれに感心して、その模様を原稿にしたためたのだが、しばらく経つと、それは藪入りの粗筋であって、レポートとはあまり関係がないと思えた。そこで思い切って削除したのだが、これがどうだったか。けっこう、キモの文章だったのではあるまいか?
もしそこを補足されたとしたら、私もやり切れないところである。いったいどこが校正・補足されたのか…。まあこれは、最新号を見るまでのお楽しみとするしかない。
余談ながら、上記の寝床での会話は、映画「男はつらいよ・望郷篇」で、柴又に帰ってきた寅が、おばちゃんに翌朝の食事を所望するところに似ている。
寅、最初は温かい味噌汁があれば十分と言っていたのに、「おしんこと海苔とタラコ一腹」「辛子の利いた納豆」と続き、「塩こんぶに生卵も添えてくれりゃ、もう何もいらないよ、おばちゃん」と締めた。ここまで来れば立派な朝食である。
山田洋次監督は落語好きと聞いたことがあるが、どんどん料理の品数を増やすところなど、明らかに「藪入り」をモチーフにしていると思う。
…と、このあたりも原稿に書きたかったのだが、これは完全にレポートから逸脱しているので、さすがにボツにした。
話を戻すが、封筒の中には、ある物も同封されていた。
将棋寄席では仲入りのときに、将棋書籍や色紙などが当たる抽選会があるのだが、私が「これに当たったことがない」と原稿の中で不満を書いたら、湯川幹事が気の毒に思ったのか、貴重な品物(非売品)をプレゼントしてくれたのだ。これは涙が出るほどうれしかった。
私の好きな作家は推理作家の島田荘司、紀行作家の宮脇俊三、それに湯川幹事である。湯川幹事の淡々と進む味わい深い文章は、読む返すたびに新たな発見がある。そんな湯川幹事と交流が持てるのはありがたいことだ。
湯川幹事は顔が恐いので面と向かって言えないけれど、ここで厚く御礼を申し上げる次第である。
「将棋ペン倶楽部」次号の発行は3月下旬だそう。自分の原稿が載ると思えば、楽しみも倍加する。私はその日が来るのを指折り数えて、待っている。