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第5図以下の指し手。△5五角▲同角△同銀右▲同銀△同銀▲4五角△5四歩▲7五歩△8八歩(第6図)
△5五角が強手だった。私たちがヤケクソで指しそうな手だが、果たして藤森哲也五段が、「良い子はマネしちゃダメですね」と言った。
これを▲5五同角は、△同銀右▲同銀△同銀▲4五角で、「これが利いているのかどうか」と鈴木大介九段。以下△5四銀▲3四角△6六歩▲2三角成△同金▲同飛成△1二角でどうか。
本譜も▲4五角まで進んだが、豊島将之二冠は△5四歩と穏やかに突いた。
「ふわっふわの手ですね。佐藤名人が角を手放したので、△5四歩でした」
佐藤天彦名人▲7五歩。これを△同歩は「▲7四歩△同金▲5四角で後手投了です」と鈴木九段。
そこに玄妙な△8八歩が飛んできた。
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第6図以下の指し手。▲8八同銀△4七銀▲同金△3八角▲4八金△2九角成▲7四歩△6六歩▲7三歩成△同玉(第7図)
「この手は82分の考慮です」
と藤森奈津子女流四段。鈴木九段は
「アマ七段までは▲8八同玉と取ってください」
と言った。
「でもアマ七段っていったら、相当強い人まで含まれますよね」
と、藤森五段。
「プロと名人は▲同銀と取ってもいいです」
要するに▲8八同銀は壁銀になるのがイヤなのだ。よって鈴木九段は▲同玉を推奨する。「▲8八同玉△8五桂▲8六銀△7五歩くらいが相場でしょう。だけど▲8八同銀とどちらがいいのか、これは一生かかっても分からないでしょう」
本譜は▲8八同銀と取った。これがホントの「名人に定跡なし」である。
豊島二冠は△4七銀。持駒に角銀があると生じる手筋だ。「自然ですかね。ほかには△6六歩もありました」
これを佐藤名人は▲同金と取った。「これがいい手です」と鈴木九段。まさに名人か初級者が指しそうな手で、私レベルだと▲4九金と引く。しかしそれは「△4六角▲4八銀△5六銀上(参考2図)」で、先手の投了まであるという。「よく分からないけど、後手にこんな気持ちのいい手を指させたら負けなんです」
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また▲4七同金で▲4九飛も、「△4八銀成▲同飛△5九角▲3八飛△4七金▲1八飛△3七角成で後手優勢です」と鈴木九段。「この▲3七桂は、あまり利いてるようには見えませんけど、先手の命綱なんです」。
本譜▲4七同金となれば、△3八角▲4八金△2九角成はワンセット。佐藤名人は▲7四歩と取り込み、ここで現局面に追いついた。
ややあって指し手が入り、△6六歩▲7三歩成△同玉。ここで懸賞次の一手となった。
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時間が迫っているとはいえ、ずいぶん手の広い局面で次の一手にしたものだ。恒例の予想だが、鈴木九段は「▲5二銀」。以下△5三金なら▲7七桂と跳ねる。しかし正解可能性は「20%」とのことだ。
藤森五段は「▲3四角」。とにかく角を働かせないと話にならん、というわけだ。しかしこれには△2八飛の攻め合いも難しく、藤森五段の自信も「10%」。何と、棋士2人がそろって自信がないのだ。
ほかにも▲7七桂や▲7四歩、▲7五歩など、いっぱい候補手がある。それで、第3の候補手は「その他」になった。つまり今回は指し手を書くのではなく、「将棋の日・次の一手名人戦」のように、3択の番号を記入することになった。
私は▲7四歩と思ったので、「3(▲7四歩)」と書いて提出した。
「私も25年、次の一手を出題しているけど、これは最も難しい局面です」
と鈴木九段。
今回の賞品は、名人戦扇子2本に、日本将棋連盟とKit-Katがコラボしたチョコレート。都合3人に当たる。
まだ豊島二冠は考えている。ここにきて鈴木九段が「▲7七銀」を候補に挙げた。
えっ、今さら!?
「うん、そうですね、これだ。長考すればするほど、▲7七銀に思えてきました。
私は私で考えているうち、▲7四歩は△同馬と取られることに気付いた。これは馬が手厚い。ただ、「その他」であることに変わりはない。
注目の指し手が入ってきた。
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第7図以下の指し手。▲3四角△2八飛▲5九銀(第8図)
次の一手は▲3四角!! 藤森五段の当たりで、会場から拍手が起こった。
「▲3四角!! 藤森君強くなったよねー」
と、鈴木九段が複雑な表情で褒める。
藤森女流四段の報告によると、▲5二銀=10人、▲3四角=5人、その他=53人だった。藤森手に乗ったのは、わずか5人だった! これには藤森五段も苦笑いである。
早速藤森五段による抽選が行われ、3人の男性に当たった。と、鈴木九段が懐から扇子を取り出した。今日某所から持ってきちゃったもので、それなりに価値のある扇子らしい。
これを残り2人の中から抽選して進呈する。それは女性に当たり、最良の結果となった。残った1名はかわいそうだが、運を次に持ち越したと思えばいい。
「▲3四角……。敗着にならなければいいけどね」
と鈴木九段がまた憎まれ口を叩いた。「次は△2八飛でしょうね」
果たして豊島二冠は△2八飛と反撃する。「当たりましたね。▲4九銀△3九馬▲7七桂△4八馬▲同銀△同飛成▲6五桂打△6四玉(参考3図)。この△6四玉があったかい手です」
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桂先の玉は寄せにくいので、ぬくぬくと過ごせるという意味だろう。
そこで▲4九銀では▲5九銀が検討された。4九で駒を取られる手を防ぐ。すなわち△4九馬▲同金△7八飛成のようなトン死筋を防いでいる。
果たして佐藤名人の指し手は▲5九銀!
「ほら2連続で当たりましたよ! なんだ次の一手を出す場所を間違えたな!」
鈴木九段、予想を外したことがよほど悔しかったらしい。
しかしここで次の一手も難しい。
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鈴木九段「角成を防ぐ△6二玉は、▲7五桂△6四金▲6三歩△5三玉▲4五桂△4四玉▲3五銀(参考4図)まで先手勝ち。ゆえに後手は、何かの時に△8三玉とできれば勝ちなんです」
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△6二玉では△3九馬の攻め合いもある。豊島二冠が長考に入ったので、鈴木九段は大内延介九段の思い出話を始めた。
(つづく)