
ブッダの生涯についての本を読み始めたら、本当にたくさんある。
リーズナブルな価格のものだけ、いろいろ読んできたが、本書は、そのボリュームとわかりやすさで、一番かもしれない。
著者の渡辺照宏さんは、インド哲学を専攻された方で、仏教関連の著作がたくさんある。ただ、後書きによると、インドに行かれたことはなかったらしい。それで、これだけの研究をなさった。驚きだ。
渡辺さんは、語学堪能で、原書を徹底的に読み、1961年に、本書を著わした。
渡辺さんは、どう考えても、ありえない伝説にも、その裏に隠れた真実があるという観点から丹念に分析して、より実態に近い釈尊の姿、時代背景を描き出すのに成功しているようだ。
説法を続ける中での、宗教観の争いの部分が面白い。仏教が起こったのは、ジャイナ教と同時期で、その間と確執があった話は、先般インドに行った時に聴いたが、当時は、他にもいろんな宗教が乱立していたという。六師外道と呼ばれている。ほとんどの場合、その痕跡さえ失われてしまったが、アージーヴァカ教という宗教の痕跡は残されている。教えの内容はわからないものの、仏教より前から存在し、当時、仏教やジャイナ教と同様の勢力を有していたのだそうだ。
仏教は、インドでは衰退してしまったが、アジア全体ではまだまだ信仰されている。それだけでも、凄いことであることを、再認識した。ジャイナ教以外は、跡かたもなく忘れ去られてしまったのだ。
たぶん中村元さんの、ブッダ伝が一番オーソドックスなものと考えられているのだろうが、こちらの方が、ちょっと長いが、厚みがあって、かえってわかりやすいかもしれない。
だからこそ、これだけのロングセラーになっているのだろう。