<『ハロウィーンモンスターの独り言』『ハロウィーンモンスターの独り言(続き)』と『バイバイ』の続編です>
サワサワサワ・・・
おいらは、風が森の木々の梢を揺らして歌っているのを聴いていた。
なんて気持ちが良いんだろう。
みんなおいらの事を、覚えているかい。
あれから何年たったのか。
おいらはハロウィーンの夜に、森に捨ててあったゴミたちに魂を宿して町に繰り出していた、ハロウィーン・モンスターだったのだけれど、本当は、そのゴミたちに日の光を遮られ、芽を出せないでいた、森の若木だったんだよ。
そんなおいらも、少しは成長したんだ。もちろん、まだまだひょろひょろの細い木で、今ではすっかり友人になったカラスの巣さえも作らせてあげることが出来ないんだけどね。
そのカラスも、今では何羽も子供たちを育て上げ、森では結構みんなに頼られている存在になっているんだから、たいしたものさ。
そのカラスの噂話では、やっぱり森には時々人間がやってきて、ゴミを捨てていくらしい。流石においらの周りは、人がやってくるたびにカラスがそいつらを追っ払ってくれるので、助かっているんだよ。
だけど夏になる少し前のある日の夕方、森にヨロヨロと猫が迷い込んできた。その猫は本当に疲れ果てていて、歩くのだって大変そうだった。鼻のところにブチがある、そうだ、あれは不細工ブチ猫じゃないか。あんまり薄汚くなっているので分からなかったよ。
ブチ猫はおいらの近くに立っている、古い大木の割れた根元なんかをチェックしている。だけど、ふとおいらの方に目をやると、少し嬉しそうな顔をして近寄ってきた。
ーやあ、おいらの事が分かったのかい。
と、おいらはそう語りかけたけれど、どうもそうじゃなかったみたいだ。前にカラスが言っていた。おいらとカラスが話せるのは、同じ森の運命共同体だからだって。だから不細工ブチ猫には、言葉は通じないらしい。それでも、ブチ猫はおいらの傍に吸い寄せられるようにやってきた。
「なんだか、この木は懐かしいわ。おかしいわね、こんな若木なのに。それに、この木はアタイが探している木じゃないわねぇ。どうしようかしら・・・。」
ちょっと猫は悩んでいた。その仕草は相変わらず可愛かったが、その目には目やにがいっぱいで、毛も所々で纏まってツンツン立っていた。つやつやしていたその毛は、全体的にくすんで、猫は前に会った時よりも二周りも小さく見えて、おいらはなんだかもの凄く切なくなってしまった。
―どうしたんだよ。お前はあんなに優しくて、あんなに幸せそうに見えたのに。あの後、苦労とかしちゃったのかい。
実はおいらは泣き虫で、ハロウィーンモンスターの時は涙なんかを出すことが出来なかったけれど、木の姿になってからは、幹を通して泣けるんだ。おいらは思わず泣いてしまったよ。
「 なんだかこの木は優しい音がするわねぇ。アタイの理想の木じゃないけれど、この木の根元にしようかな。
ねぇ、若い木さん。アタイをこの根元でちょっと眠らせてね。そのうち動かなくなってしまうけど、それも気にしないでね。いつかアタイは土になり、その養分をあんたにあげることが出来るから、それがお礼と思ってね。」
どうしたんだろうと、友だちのカラスがやって来て、隣の木に止まったのを見つけると、ブチ猫はまた言った。
「ああ、カラスさん。気が早いわね。アタイを突くのは生きているうちは止めておくれ。」
「オイ、猫。このまま黙って逝かれちゃあ、俺様の友だちの涙が止まらないぜ。お前だって、まだ話す気力ぐらいあるだろう。それに何か話したいこともあるだろう。森のみんなが聞いてやる。言いたいことを言ってみろ。」
「まあ、親切なカラスさん。こんなちっぽけな一匹の猫に、大層な話なんかがあるわけないじゃないですか。でも、聞いてくれるというのなら、今、アタイが思っている叶わぬ願いのことを言ってもいいかしら。言ってもしょうがないことなんだけどね。」
ザワザワザワ・・・
森の木々がざわめいて、猫の話に耳を傾けはじめた。
「あのね、アタイは会いたいの。・・・」