森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

月は赤く、森は緑  ③

2008-10-28 23:01:42 | 詩、小説

「月は赤く、森は緑  」の続きです。

 

 猫は驚いて、体をまた起こして言った。

「恋人なんか、もう居ないわ。」

「だって、黒猫とかいたんだろ。あんたとは不釣合いのハンサム猫がサ。」

「不釣合いって何よ。会いたいのは猫じゃないんだけど、だいたいなんであんたは彼を知っているの。」

カラスはちょっととぼけてカァと言った。まさかおいらから聞いたって言えないし、言ってもらっちゃ困るよ。

「あの黒猫は、恋人だった時もあったけれど、どちらかと言うと兄弟みたいな友だちだったわ。でも、雌猫を追いかけて車に引かれて死んじゃった・・・。そう言えば、あの時アタイは泣いたなぁ。それでその時も、あの人に会いたかったわ。」

 猫はまた黙って、目を瞑った。その顔が寂しそうで、おいらはどうして良いのかわからなくなってしまったよ。

するとカラスが、そんなおいらを見かねたのか、羽をばさばさバタつかせ、クエクエーと変な鳴き方をして、森中のカラスに合図を送った。すると、カラス達は力を合わせて、森の入り口に捨ててある、ゴミをおいらの傍に運んできた。

おいらは吃驚してしまった。だけど、カラスは済ました顔をして言った。

「ねぇ、若くなってしまっただんな。アッシは、若くなってしまっただんなが泣きっぱなしなのが気に入らないですぜ。そんなことで枯れでもしちゃ、アッシの子供の子供のまた子供が、困っちまう。どうかそれで体を作って、その猫を抱きしめてあげてくださいよ。」

 

―エッ、だけど今日は月も出ているし、ハロウィーンの日ってわけでもないじゃないか。

「嫌だなあ、若くなってしまっただんな。何にも知らないんだから。今日の月を見て御覧なさい。あんなに不気味に赤いんですよ。赤い月は、不思議を許すと言う許可書なんですぜ。」

―そうだったのか~。
と、思った途端に、おいらはゴミが組み合わさったガラクタモンスターになっていた。

「ブチ猫よ。」とおいらはそっと猫を揺さぶった。目をうっすらと開けた猫はおいらを見た途端、本当に嬉しそうな顔をした。

「ああ、お月様。願いが叶いました、ありがとう。」と、ブチ猫が言った。
「願い?」
「そうなの。アタイはあんたに会いたくて会いたくて、ずっと会いたいと思っていたのよ。」
「エッー。会いたいっておいらにかい。」
「そうなのよ。」
「だって、おいらと会ったのは、少し昔のほんの一晩の事なのに・・・」

でも、そういった途端に気が付いた。おいらもずっと会いたかった。少し昔のほんの一晩会っただけなのに。不細工ブチ猫にもハンサム黒猫にも、ずっとずっと会いたかったんだよ。

ブチ猫は、さっきまであんなにはっきりと喋っていたのに、だんだん声が小さくなってきた。

「そうなのよ。」とブチ猫は言葉を繰り返した。
「あの時、さよならって手を振ったわ。だけどすぐに気が付いた。あの人は・・・、ああ、そうね、人って言うのは間違いだったわね。でも、『あれは』というのも変じゃない。それであんたはアタイの大事な人になるって言う予感がしたの。アタイの一番大事な日に必要な人になるという予感だったわ。だからいつでも会いたかった。
アタイ、わかったわ。今日がその一番大事な日だったのね。」

 

おいらはブチ猫が何を言っているのか、良く分からないでいた。ただ、切なくて悲しかった。喋ったかと思うとまた眠る、その猫の背中や頭をそっと撫ぜてあげていた。

ブチ猫はまた目を覚まし、さっきよりも小さい声で言った。
「ねぇあの歌、歌ってよ。」
「あの歌よ。
『寂しくなんかなかったら~・・・』」

そうだ、おいらは思いだしたよ。

―さみしくなんかなかったら、
 昔別れた人たちを思い出すことなんかないだろう。

―さみしくなんかなかったら、
 詩も歌も生まれない。

―さみしくなんかなかったら、
 自分の事なんか見つめない。

―さみしくなんかなかったら、
 誰も愛することをしないだろう。

 

おいらは音痴だけど、歌ったよ。
「ねえ、ブチ猫。あの夜は本当に楽しかったね。」
ブチ猫はうっすらと笑って何か言った。
「エッ。」とおいらは本当に小さくなってしまったブチ猫の声を、耳を澄まして聞いたのよ。

「アタイはいつだって、本当に寂しかった。
だからいっぱいいっぱい愛したの。」

「うん。」おいらは応えた。

「アタイはいつだって、本当に寂しかった。
だからいっぱいいっぱい友だちができたのよ。」

「うん、うん。」とおいらは頷いた。

「アタイはいつだって、本当に寂しかった。
だからいっぱいいっぱい・・・・・・・・・。」

「おい、」とおいらは呼びかけたが、もう猫は何にも喋らなかった。

 

           月は赤く、森は緑 ④ に続く
 


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月は赤く、森は緑  ②

2008-10-28 00:18:25 | 詩、小説

月は赤く、森は緑  ①」の続きです。

 

「 アタイが、ある朝目を覚ますと、そこからアタイの人生が始まった。その前のことは覚えていないもの。そこには人間のママという人がいたの。ママは優しくて、アタイにご飯をくれたり一緒に遊んでくれたり、午後には一緒にお昼寝したりしたの。いつだって森にも遊びに行けて、とっても幸せだったのよ。

でもある日家中の荷物が運び込まれ、家の中は空っぽになってしまったの。最後にアタイが運び出されて連れて行かれたのは、箱のような部屋だった。昼間は仕事とかいう所に出かけママはいなくなり、アタイはその箱の部屋に閉じ込められた。夜のママは疲れ果ててすぐに眠ってしまうし、アタイはすっかり嫌になってしまったの。

 それである日ドアが開いたその隙間をかいくぐり、もと居た家を目指して逃げ出したの。そこに行けば、きっと前のママが待っていてくれると思ったの。

 だけど、もと居た家には遠すぎて帰れなかったわ。アタイが途中の家の庭の隅で休んでいたら、青い髪飾りの少女が親切にしてくれたのよ。毎日ご飯をくれて、それを喜んで食べていたら、そのうち家の中に、ふかふかの寝床を作ってくれて、さらさらの砂のトイレも作ってくれたの。青い髪飾りの少女はおしゃべりで、夜になるとアタイを抱いて一日のあったことを話てくれたの。

少女の声は歌うように気持ちよくて、アタイはとっても幸せだったのよ。」

 

 ―不細工ブチ猫よ、幸せだったんだね。
おいらは、その話が聞けて嬉しいよ。だけど、そんなに一気に話したら疲れてしまうよ。おいらは心配になってしまった。だけど、ブチ猫の話は終わらない。何かにせかされているように話を続けた。

 

「だけど、ある日の夜。少女が空気を入れ替えようと窓を開けたの。そこから見上げると、空には今日のような真っ赤な月が出ていたわ。」

―見上げると、空にはいつの間にか月が出ていた。

「夜風はひんやり冷たくて、風が家の周りの木々を揺らしていたの。私は突然ワクワクして、窓から外に飛び出した。家の中から、少女が驚いてアタイの名前を呼んでいるのが分かったけれど、どうせすぐに戻ってくると思ったから、少女の優しい呼び声を無視したの。だけど、あんなことが起きるなんて・・」

「あんなこと?」
珍しくカラスが聞き返した。

「そうよ、恐ろしかったわ。
アタイはすぐに家に戻る気でいたから、本当に家の門(かど)の所に居たのよ。少女も分かっていたから、追いかけてはこなかった。キマグレ猫の戯れ散歩だと思っていんだと思う。

でも、木の陰から大男が飛び出してきたの。その男は手に大きな網を持っていて、アタイを追い回した。もう、アタイは吃驚して、メチャクチャ走って逃げ回ったの。」

―なんだい、その網を持った大男って、一体誰なんだ。オイ、カラスよ、聞かないのかい?
だけどカラスは黙っている。

「そしたら、近所に流れている川に落ちちゃって、アタイは流されてしまったの。その時もう死ぬんだと思ったけれど、けっこうアタイはしぶとくて、何処かの町の浅瀬で這い上がり、そこの町に居ついたの。だってもう少女の家には帰れなかったから。でも、新しい町でも、アタイに親切にしてくれる人がいたわ。だから今まで町のストリートのあちらこちらの暖かい所をネグラにして、自由に楽しく生きてきたの。アタイはとっても幸せだったわ。

だけど、今になったら会いたいの。アタイは今まで何にも考えてこなかった。今までは、帰りたいって言ったって帰れないものは仕方がない。今を生きていければいいんだと思っていたの。

だけど、やっぱり会いたいの。会えなくなって悲しかったのは、アタイばかりじゃないのよね。きっと、ある日突然アタイが居なくなってしまって、ママも青い髪飾りの少女も、悲しんで泣いたよね。

きっと、泣いたよね。ごめんね、悲しませて。」

 

 猫は本当に悲しそうな顔をした。だからおいらの涙も止まらない。だけど、猫はフゥーっと、息をつくと、少しホッとしたような顔をして言った。

「ありがとう、聞いてくれて。なんだか心が軽くなったわ。」

そう言って、猫は眠った。猫の寝息は荒くて、おいらはその背中を撫ぜてあげたくて仕方がない。だけど、今のおいらには撫ぜてあげる手がないんだよ。

「ねえ、カラスさん。まだそこに居る?」

しばらくすると、猫は目を瞑ったままでカラスに声をかけた。

「アタイ、本当はもう一人会いたい人がいるの。」

―あのハンサム黒猫かい。それならカラスに呼びに行かせるよ。

カラスは面倒くさそうな顔をちょっとしたが、

「恋人の猫かい。」と、聞いていた。

 

       「月は赤く、森は緑 ③」に続く

 


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