11月7日 国立新美術館(東京・六本木)にて「ハプスブルグ展」を見てきました。
一番のお目当ては、 この皇女エリザベートの絵です。
フランツ・クサファー・ヴィンターハルター
オーストリア皇妃エリザベート
昨年の秋、「エリザベート」のお芝居を観ました。演劇に関してはほとんどレビューを書いてきましたが、そのお芝居だけは、書きそびれてしまったのです。 お芝居がつまらなかったわけではないのです。このハプスブルグの美しき嫁エリザベート自体に非常に魅せられて、その背景からその生涯をネットで調べていたら、疲れてしまって書きそびれたのでした。
ちょっとそのお芝居の感想ですが、死神にすら愛されたシシィの愛称で呼ばれた美しき女性の物語は、涙を友にして生きている私の目にそれをもたらさず、劇場内があまりに乾燥していて、目が痛くなってしまった記憶が残りました。
それでも、つまらないと言うわけではないと申し上げなくてはなりません。多くの人に愛される「エリザベート」の物語。ただ、私は彼女のあれやこれやついでにそれやも、ぜんぜん共鳴できないのです。美しさを保つ為に、国内のミルク不足を招きながらも、牛乳風呂に入るシシィ。嫁姑の確執から逃れる為に、旅から旅へと宮廷に戻らないシシィ。自分を失望させた夫が歩み寄ってきても、許さないシシィ。子供の孤独にすら顧みなくて、その死を招いてしまうシシィ。
それなのに、なぜか彼女に魅せられてしまうのでした。 その人の一部を見て、すべてを見たと思ってはいけないと彼女は私に教えます。
国民から絶大な支持と人気を誇っていたシシィ。 お芝居の物語は、その彼女を愛した死神との物語。その死神トートの武田真治が素敵でした。息子ルドルフ(伊礼彼方)の嘆きのシーンだけは目が潤いました。ちなみエリザベートは朝海ひかるさんでした。
そして舞台でも、このエリザベートの肖像を意識した登場シーンがありました。 この絵はそれほどまでにインパクトがあり、絵でありながら平面にあらずと言う感じがします。四角い枠の向こうから迫ってくる存在感を感じるのです。
それはこの絵画のみにではなく、この展覧会の絵画全体にも言えたように思います。ハプスブルグのコレクションは、ほとんどのものに質感がありリアルに感じました。
ちなみに音声ガイドの案内者は、「エリザベート」の中の暗殺者ルイジ・ルキーニの高嶋政宏さんで、雰囲気満点と言ったところです。
素敵な絵はたくさんありましたが、やはり心に残ったのは今度の「ハプスブルグ展」の目玉になっている作品達でした。
アンドレアス・メラー
11歳の女帝マリア・テレジア ウィーン美術史美術館蔵
ディエゴ・ベラスケス
皇太子フェリペ・プロスペロと白衣の王女マルガリータ・テレサ
ウィーン美術史美術館蔵
イタリア黄金期の作品です。
ジョルジョーネ 矢を持った少年
黄金期のドイツ絵画
アルブレヒト・デューラー若いヴェネツィア女性の肖像
オランダ絵画の傑作
ペーテル・パウル・ルーベンス
悔悛するマグダラのマリアと姉マルタ
ウィーン美術史美術館蔵
ルーラント・サーフェリー
「動物のいる風景(背景にオルフェウスとトラキアの女たち)」
1628年頃 ウィーン美術史美術館蔵
この絵、ただの動物の絵かと思っていました。オルフェウスがいるんですって。奥の方に5ミリぐらいで。HPでチェックしておけば良かったです。
あ~あ、見逃しました。残念。
でも下の絵は、そのHPを見ていかなくても、同じテーマなのに気がつきました。
「ユディット」はこの時代の男達の心を掴んで放さなかったのかもしれません。
「ユディット」って誰と思われた方は→コチラです。
ヴェロネーゼ
「ホロフェルネスの首を持つユディット」
1580年頃
ウィーン美術史美術館蔵
ヨーハン・リス
「ホロフェルネスの首を持つユディット」
1595-1600年頃
ウィーン美術史美術館蔵
この絵の比較は、HPにも「斬首対決」として載っています。
HPはコチラ
そしてその「斬首対決」にも取り上げられていますが、意外にも心に残った作品は、下のサロメの絵でした。
ルーカス・クラナッハ(父)
「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」
1535年頃
ブダペスト国立西洋美術館蔵
そこには、戯曲「サロメ」の預言者ヨカナーンの首を欲しがった、妖しく艶かしいサロメとはまったく違うサロメが描かれていました。
たぶん今までのイメージは、戯曲「サロメ」の中のビアズレーの挿絵のインパクトの強さゆえだと思います。この絵のサロメには
「ああ、お前の首が欲しいよ。」とか「お前の唇に口づけさせておくれ。」と言うセリフは似合いそうもありません。でも、清純で無垢なるがゆえに残酷。そんな表情がこのサロメからは伝わってくるのでした。
思わず、絵葉書を買ってしまいましたが、だからと言って壁にピンで貼る気にはなれませんね。
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ハプスブルグの歴史を調べたい時には、とりあえずコチラ
オマケです。
今回の「ハプスブルグ展」には何も関係がありません。「ユディット」のあれこれです。首・首・首のオンパレードです。お嫌いな方はご注意下さい。
ルーカス・クラナッハ
こ、これは・・・・「サロメ」と構図が同じですね。
ジョルジョーネ
「矢を持った少年」のように優しそうな顔をしているのですが・・・
ホロフェルネスの顔は、作者の自画像らしいです。
ボッティチェリ
意気揚々という感じで、民衆を守ったと言う気持ちの高揚感みたいなものを感じました。
カラヴァンジョ(1595-1596頃)
アルテミジア・ジェンティレスキ(1620年頃)
この女流作家は、カラヴァンジョの影響を受けているといわれています。
新しくは1901年、クリムトの作品
ユディットコンプレックスと言う言葉もあるらしいのですが、これらの首などを見ていると、交尾の後に蟷螂の雌に食われてしまう雄は果たして不幸せなのかと言う、そちらのテーマに気持ちが揺れました。実際に首を切られたらたまりませんが、絵に描くぶんには痛くも怖くもありませんから、その首に自画像を描く作者達の(ヴェロネーゼも自画像らしい・・)そこに、男と女の「何か」をふと思ってしまったのでした。
以上オマケでした。