もし父が私の傍に立っていたら、お前はあんなに優しいと思っていたのに、なんで今はそんなに薄情なんだと言うだろうか。
父の一周忌。
だけれど私はどこにも父を感じることが出来ず、父はここにはいないと思っていた。
祈っていても形ばかりだ。
私はフワフワした気分で、そして多弁だった。
心の何処かがキシキシと音を立てていた。寂しいというには似合わない賑やかな一周忌。
私は久しぶりにあった叔父さん夫婦や山梨の叔母さん、また姉などを相手に、つまらないことや父の思い出なんかをたくさん話し、狭い車の中でも家族相手にはしゃいでいた。
今日、私の心の中に父は居なかった。
それが私には後ろめたかった。
あっという間の一年が私には幻のように感じたし、あの一年前の出来事自体が霞の向こう側にあるような気がしてしまっていた。
でもそれは「今日が」そうであるというだけで、「いつも」というわけではない。
さあ、これで解散だということになって、帰る前にトイレに行っておこうと思って行くと、そこから大伯母さんが出てきた。
大伯母さんはトイレのドアの所にたちハラハラと泣いた。
「あんたたちは皆親切で、こんな風に優しくしてもらえるなんて嬉しい。」と彼女は言った。
―なんと、こんなところで!!!
と、私は心のなかで思ったが、それでもこの大伯母さんの涙は嬉しかった。
山梨の親戚が帰る時には姉と手を振って見送った。その時かつては遠い親戚でしかなかった人たちがすごく身近に感じたし、やかましくはしゃいだようにおしゃべりしていた私は姑とも一歩踏み込んだ話を何気なくしていたように思う。
最近はあまり会わなくなってしまった大好きな叔父さんが帰る時には
「バイバイ、またねー。」と昔のような気軽さが戻ってきた。
そう言えば、お寺で法要をしていた時、たまたまそこに来ていた方々が共に祈ってくれたのだった。なんと優しい人なのかと思い、お墓では風の吹く中、佇み祈る私達一族の絆のようなものを感じたのだった。
私に中に、今日父は居なかった。
だけれど彼はいつだって私達に何かを残してくれているのだと、そんなふうに私はぼんやりと感じて、深夜の静寂の音を聞きながら今日という日を終わらせようとしているのだった。
〈お食事〉