森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

約8年 その7

2022-04-28 09:36:35 | ランダム自分史

・「約8年 その6」の続きです。

スノウさんの乳癌の辛い治療が終わって、私たち4人にとって、普通の穏やかな楽しい時間が戻ってきたように感じました。

今思うと、それは以前よりもずっと濃密な時間だったようにも思うんです。

 

それでも、それは私だけの感覚だったのかもしれませんが、私とスノウさんの間にはいつも川が流れていたように思うんです。

その川は小川のようなもので、いつでも跨いで行ったり来たり。だけど確かにその川はあったのです。

 

彼女は私にとっては美人でキラキラしている自慢の妹でした。

私は親バカならぬ家族バカなので、友達にも平気で遠慮する事もなく

「妹は美人なんだ。」と自慢していたのです。

だけどある時から、私は「姉妹が3人もいると、やっぱり相性が合わないのもいるよね。」などと言うようなことを言っていたと思います。

最初に書いてきた子供の頃の姉妹の確執みたいなものを引きずっていたかも知れませんが、それを言うには、それなりの理由があったのですが、それはまた別のお話です。

だから私とスノウさんが、二人だけで出掛けたと言うのは、本当に数が少なくて片手の回数あったか疑問です。

 

その中の、私にとってはちょっぴり大事な想い出のお話を聞いてください。

別に素敵なお話と言うわけではありませんが、彼女の人生にとってはかなり重要な分かれ道に、私は居たなと今でも私は思っている話です。

 

スノウさんは高校を卒業した後、けっこう名前のある劇団の養成所に行っていました。

研修期間が終わって、その劇団に残れるのはほんの一握りです。

スノウさんが、あの子が一番上手だよと言った人は、朝ドラを含めて毎シーズン見ない事はないと言う俳優さんになっているのですが、その人が同期で、卒業公演のお芝居に主役で出ていました。一番上手だよと妹が言っていたので、彼は残って、その劇団の人かとつい最近まで思っていたのですが、実は妹同様に落ちて他の所に移っていたのでした。

その劇団に残れなかったら、他の場所を探さなければなりません。

 

ある日スノウさんが、「ここを受けてみようと思うんだけれど、ひとりで行くのが不安だから一緒に行ってくれない ?」と言ってきました。

もちろん二つ返事です。

渋谷のちょっと裏に入ったところに、そのビルはありました。

別に暗い道とか言うのではなく、普通に人通りの多い明るい道にそのビルはあったのです。ところが私は、そのビルの前で止まってしまいました。

細い階段を上ると、「探偵事務所」と書かれていても不思議はないようなドアが見えました。

なぜ「見えた」と書いているのかと言うと、私はその細い階段を上っていくことが出来なかったからです。

あがっていく勇気が出なかったからです。

 

振り向くと、ちょうどいい所に喫茶店がありました。二階の窓際に人は見えなかったので、私はスノウさんに言いました。

「あそこに座って、しばらくここを観察しない?」

「うん、そうする。」とスノウさん。

 

私たちはあまり話もせずに、じっと窓の外を見ていたように思います。

すると男が出てきました。

その人は真っすぐ何処かに行くわけでもなく、降りてきたところで首を右と左に曲げました。肩が凝っているのでしょう。そして大きくあくびをし、

「サッ、行くか~。」と思ったかのように、けだるそうに歩きだして視界から消えて行ったのでした。彼は手持ちのポーチ型バッグを持っていたのですが、それがが如何にも怪しい感じがしました。

 

それをじっと見ていた私は言いました。

「なんかね、何の根拠もないけれど、あそこ止めた方が良いと思うの。」

いや、根拠はありました。あの人を見ていて嫌な予感がしたのです。だけどやっぱり「予感」では、「何の根拠もない」と言うのは正解ですよね。

「うん、私もそう思った。今日は止めておく。」と彼女も言いました。

 

だけどこの事は、後になってもずっと気になっていたのです。

私はただの引率です。劇団試験に落ちて気弱になっていた妹の背中を押す係だったのだと思います。それなのにむしろ彼女の足を引っ張ったのです。私が受けるわけでもないのに、その理由が「勇気がなくて」とか「いやな予感」とかだったと思うと、何かとんでもない事をしてしまったように思いました。

だからずっと日が経ってから、その事を言いました。

「あのドアを開けたら、違う道がもっと開けていたかも。一緒に行って、寧ろ申し訳なかったような気がする。」

「ううん。あの時、私もまったく同じような事を感じていたんだよ。ただ一人で行ったら、せっかく来たんだからと言ってドアを開けたかもしれない。あの時お姉ちゃんが『止める』と言ってくれて助かったよ。」とスノウさんは言いました。

 

その後彼女は、「アンパンマン」とか「くまのプーさん」とかのお芝居を主にするミュージカルの劇団に入り、楽しくお仕事をするようになりました。

 

お葬式に、その劇団の同期の人が来ていて花束も届いていました。

大変な時代でもあったけれど、一生付き合える良い友人をその場所で得る事が出来たのですね。

 

しばらく、下の歌がBGMです。(確認したら、この記事にはあわなかったように思いました(^_^;)) この記事も少々長くなってきましたので、歌の下にそれまでの記事をリンクしました。

 

思い出のアルバム 歌詞付き

 

約8年 その1

約8年 その2

約8年 その3

約8年 その4

約8年 その5

約8年 その6


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