また映画館では見る予定のない、映画のお話です。
映画館で「イキガミ」の予告編を見たときに、私はこういう話は苦手だなあと思いつつ、この話は「あれ」に似ているなと思いました。 「あれ」と言うのは、昔読んだ星新一のショートショートです。
その時はその物語のタイトルも忘れていました。また、あまり好きなお話ではありません。でも、星新一のショートストーリーを全部覚えているわけではないのに、なぜかその話のあらすじを語ることが出来るのです。とってもインパクトが強いストーリーでした。
昔と書いていますが、本当に昔です。私は高2の時に友人から「これ、面白いよ。」と言われて、「ボッコちゃん」と言う本を借りました。その時から星新一は、私の好きな作家の一人になりました。そのお話は、その「ボッコちゃん」の中にあるらしいのです。
こんなあらすじです。あまりに昔なので勘違いしている部分があるかも知れません。・・・・と、書き始めようと思ったら、期間限定で全文読めることが分かりました。この記事の下の方でリンクしておきますね。
ところで、予告編を見て似ているなあと私は思いましたが、実はこのことは、前からかなり言われていた事だったらしいのです。しかも、9月18日には星新一氏の次女のマリナさんが公式ホームページを通して抗議したとネットのニュースで知りました。 私の言っている「あれ」は「生活維持省」と言う作品でした。
そうなると俄然「イキガミ」と言う漫画に興味がわいてきました。私はもう、子供の本箱にあることを疑いません。
いきなり
「『イキガミ』を貸して。」と言いました。
―しかし、貸し本屋みたいなうちだな・・ー
すると、ラッタ君は「あるよ~~、あるけどさ、これ読むんだ~、ふーん。」と微妙な返事。どうも彼のお薦め本ではないらしい・・・。
そこで私が興味を持ったいきさつを話すと、彼もそのことには興味を感じたようです。
以下、その漫画一巻の感想です。
エピソード1-復讐の果て
エピソード2-忘れられた歌
素直な気持ちで読んでみると、非常に面白い漫画でした。
ただ、説明にもページを割いているエピソード1は、内容的には、あまりにも残酷で、如何にも感動的になるように上手く話を最後にまとめていますが、感じた怒りや嫌悪を拭い去れません。
高校時代に、激しいいじめにあっていた青年のお話です。彼は残された時間に、自分を追い詰め人生を変えた者達に復讐しようと思いますが・・・。
しかしエピソード2は、ちょっと感動します。「ちょっと」と言うより「かなり」かもしれません。涙が不覚にもこぼれました。
路上ミュージシャンだった青年のお話です。
読み終わって、私は「生活維持省」とは違うなと、感じました。だけれど、ラッタ君は(リサーチ入れていました。)
「まんまジャン。」と言い放ちました。
別に私は「イキガミ」を擁護するものではありませんが、この物語は、逝紙が届いてからの数時間を、如何に過ごしたかと言うことをメインに置いた、どちらかと言うと「ロス・タイム・ライフ」のようなお話でした。
酷似点について、星新一HPでその検証が載せられていましたが、それを読むと、星マリナさんが仰せのとおり、設定が酷似している印象は払拭は出来ません。
ただ、そのHP記事を読むまでは、あくまでも漫画を読んだ印象ですが、この程度のアイデァの被りは充分にあり得ると、私には思えました。なぜなら病気や事故などによる悲劇を、いつか近未来では克服できるかも知れないと、私たちは心の根底に淡い夢を持っていると思うのです。ところが同じ心の土俵で、そんな時代が来たら人は溢れかえり、どうなってしまうのだろうと不安も感じてしまうのです。そこで出てくる考えは、人為的に「間引く」と言う発想で、そこまでは、近未来の物語を考える人たちにとって、特別な発想ではないからです。
発想は普通でも、星氏の「生活維持省」は、わずかな文章で、とある国のとある時代のその思想、文化、人々の生活ぶり、その法律に対して人々がどんな風に思っているのか、どんな風に教育されてしまっているのかが、ぎゅっと凝縮されて完成度が高く、評価が高いのは当然だと思えます。
私の印象では、その被っていると言われている部分の「イキガミ」は、比べる必要のないほどの甘い設定です。
なぜなら、あまりにも「国家繁栄維持法」は意味のない法律です。なぜなら、その法によって、人々が受けている恩恵の場面は皆無。それなのに、家族をそれによって失ったものしか、その法に疑問を抱かないと言う、何も描かれないことによって、あまりにも人々が愚鈍に描かれていると言っていいかも知れません。
・・・、アレッ。ちょっと打ってみて気が付きましたが、そこが作者の狙い?
携わって、初めて主人公の「逝紙」配達人の青年も疑問を感じ始めるのですね。
人は命の重さを人の死によってのみ感じることが出来る―そうでしょうか?
その法があっても、今の時代と変わらない他者の痛みを何も感じないいじめがあったりするのです。
また、路上ミュージシャンだった青年の物語では、その相方だった青年が交通事故にあって、生命の危機を彷徨うシーンがあります。
このパラレルワールドでは、何も今の時代と変わっていないのです。病気や事故からの生命の損失の恐怖が存在している世界に、なんで新たなるランダム殺人の恐怖を加えなければならなかったのか、ぜんぜん分かりません。ゆえに、印象的には「生活維持省」とは「違う」と感じたのかもしれません。
だけど、間瀬元朗氏の絵は綺麗で、そんな事どうでもいいやと言う奇妙な説得力があります。漫画ゆえと言う所ですね。
私は何かを弁護するものでもなければジャッジするものでもありません。ただ、映画館で「似ている」と思われてしまう・・・ある意味、ある点において既にジャッジされていると考えることも出来るかも知れません。間瀬氏は「生活維持省」を読んだことがなかったそうですが、逆に読んでいたら良かったですね。もう少し設定を練ることもできたし、酷似している部分を無意識に回避することも出来たはずだからです。
映画は好評みたいです。機会があったらいつか見てみたいと思います。
星新一公式サイト「イキガミ」について
期間限定「生活維持省」全文 (12月18日までらしいです)