STAP細胞のネイチャー論文の問題。
世紀の大発見であり、医学分野の応用が、今後大いに期待されるところです。
ところが今、テレビなどマスコミでは、様々な批判や意見が出されています。
形式面のみをとらえてはいるものの、実質的にそれが内容面において問題となるのか疑問を持ちたくなるマスコミ報道も散見されます。
表現の自由、学問の自由があるからこそ、それら言論も許されるし、言論の自由市場の中で淘汰がなされ、真実が発見されていきます。
よって、マスコミのかたが科学テーマを取り上げてくださるのは、ウェルカムです。
それら報道で、私達は、難しい生命科学分野の基礎知識を得ることができるし、日の目を見ない地道な研究活動にスポットがあたります。また、研究が至らぬところを市民感覚で教えて下さり、倫理面など特に自己反省や自浄作用のきっかけにもなります。
ただ、論文の内容面に踏み込むのであるならば、真の批判は、その分野の専門家が根拠データをそろえた上で、科学論文の中や学術会議の討論の中でなされて初めて意味を持つと思います。
小保方晴子氏ら研究チームには是非ともこの難局を乗り切っていただきたいです。
科学的根拠があるのであれば、それは可能なはずです。
なお、マスコミの皆様には、STAP論文で行っている科学的な批判をどうか他の科学技術分野でも、これからもお願いしたいと思います。
例えば、築地市場の移転候補地 豊洲土壌汚染対策に関連して、東京都によりなされてきたことが、本当に科学的根拠に基づいてなされてきたことだったのでしょうか。かつて、土壌汚染問題に関連してネイチャー誌に東京都に対する批判がなされたことまでありました。
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http://www.mbsj.jp/admins/statement/20140311_seimei.pdf
2014 年3 月11 日
理事長声明『STAP 細胞論文等への対応についての再要望』
特定非営利活動法人 日本分子生物学会
理事長 大隅 典子
日本分子生物学会はSTAP 細胞論文等に関わる問題について憂慮し、3月3
日付けで、理事長声明と言う形で理化学研究所に今後の規範となるような対応
の要望を出したことは周知の通りです。
その後、著者の一部から、プロトコールという形で3月5日に実験方法の一
部詳細が発表されました。しかし、その内容はむしろ論文の結論に新たな疑義
を生じるものでした。その結果、ここ数日、研究者コミュニテイーだけでなく
社会的にも著しい混乱を招いております。そのような状況の中、昨日3月10
日付で共著者である山梨大学の若山照彦教授から「STAP 細胞の存在について確
証が持てない」という趣旨の発表がありました。
科学論文は実験結果に基づき、その正当性が初めて保証されます。残念なが
ら、今回の論文等に関しては、データ自体に多くの瑕疵が有り、その結論が科
学的事実に基づき、十分に担保されているものとは言えません。また多くの作
為的な改変は、単純なミスである可能性を遙かに超えており、多くの科学者の
疑念を招いています。当該研究の重要性は十分に理解していますが、成果の再
現性は別問題として、これら論文に対しての適正な対応を強くお願いします。
日本分子生物学会は、以下のことを理化学研究所に強く要望します。そのよ
うな対応が研究の公正性を維持し、日本の生命科学のさらなる進展に繋がると
考えられ、また今後の規範になることを信じています。
1 Nature 論文2報(Nature 505, 641-647, 2014; Nature 505, 676-680,2014)
に関する生データの即時、かつ、全面的な開示、および、同論文に対して
の迅速かつ適切な対応(撤回、再投稿などを含む)
2 このように公正性が疑われるような事態を招いた原因に対する詳細な検証
と報告
我々、日本分子生物学会は、今回の件を決して一案件として捉えている訳で
なく、科学者を取り巻く環境を含めた、研究に内包する喫緊の問題として、自
省、自戒を持って、過去の同様なケースと共にこの問題を注視しています。今
後の報告を含め、様々な事案を検討することで、我々、研究者が今一度、研究
の公正性を含む研究倫理の問題として再度真剣に把握、分析し、システムの改
善の努力に取り組む所存です。責任ある健全な研究成果を社会に対して発信す
るためにも、我々も襟を正してまいります。
******理化学研究所******
http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140311_2/
STAP細胞論文の調査について
新たに判明した疑義(博士論文の画像がNature誌に流用されているという指摘)について、理化学研究所として重く受け止め、調査を開始しました。事実関係をしっかりと把握した上で結論を導き、しかるべき段階で報告致します。
また、これまで指摘されている疑義については、現在継続して行っている調査により結果が明らかになるものと考えていますが、最終的な報告にはまだしばらく時間を要する予定です。
一方、調査中ではあるものの、論文の信頼性、研究倫理の観点から当該Nature誌掲載の論文(2報)について論文の取下げを視野に入れて検討しています。
なお、3月14日(金)の午後に東京都内にて、メディアの方を対象にした現段階の経過報告を行う予定です。3月13日(木)15:00頃までにお問い合わせいただいたメディアの方には、時間や場所などの詳細を別途お知らせ致します。
※場所は理研東京連絡事務所ではありません。変更となっています。
独立行政法人理化学研究所 広報室報道担当
******沖縄タイムズ******
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=64639
社説[STAP細胞]疑惑への説明が必要だ
2014年3月13日 05:30
医療の新たな可能性に道を開くものと、大きな期待を集めた万能細胞「STAP細胞」の論文について、数々の疑問が噴出しており、その信頼性を大きく揺るがす事態となっている。
研究を発表した理化学研究所が14日、内部調査の状況を報告するという。先端科学への信頼に関わる問題だ。指摘に真摯(しんし)に答え、科学的根拠に基づいて納得できる説明を行ってもらいたい。
STAP細胞の論文は、理研の小保方晴子・研究ユニットリーダーら計14人の連名で1月30日付の英科学誌ネイチャーに発表された。
皮膚や神経など体のさまざまな細胞になることができる万能細胞の一種が、マウスのリンパ球を弱酸性の溶液にさらすという簡単な手法で作製できることを発見したという内容だ。
しかし発表後間もなく、画像や表現に不自然な点があるなどと指摘が出始めた。
例えば、「画像の使い回し」への疑惑だ。STAP細胞が胎盤に変化したことを示す画像が別の実験による画像と似すぎている、との指摘。さらに、DNA分析の画像に加工したような跡があることや、実験方法を説明する文章で他人の論文とほぼ同じ記述もあった。
研究者としての倫理観を問われかねない疑惑である。理研はこれまで、指摘について「調査中」を理由に明確な回答をしていなかった。対応が後手に回ったと言わざるを得ない。事は科学への信頼性を左右しかねない。理研はもっと迅速な対応をすべきだ。
■ ■
ネイチャーの論文に掲載された画像が、小保方さんが3年前に書いた博士論文の画像と酷似していることもネット上で指摘された。ネイチャーの写真は、STAP細胞がさまざまな細胞に変化できることを示すデータで、STAP細胞ができた根拠となるものだ。しかし、博士論文の画像は骨髄の細胞から変化したことを示すデータである。
この指摘に対し、共著者の一人である若山照彦・山梨大教授が、小保方氏を含む他の共著者に論文撤回を呼び掛ける事態に発展した。
若山教授は「論文の根幹に関わる写真なのでショックだ。信じたい気持ちもあるので、いったん論文を取り下げ、誰からも非難されない論文を出したほうがいい」と話した。
小保方氏は、この疑念に自らの言葉で答え、多くの科学者が抱く不信を払拭(ふっしょく)する責務がある。
■ ■
日本分子生物学会は、「今回の論文に関してはデータ自体に多くの瑕疵(かし)があり、結論が科学的事実に基づき、十分に担保されているとはいえない」として、理研に対し論文の生データの開示と撤回を含めた対応を求める理事長声明を出した。
一方、共著者の米ハーバード大教授は「撤回すべき理由は見当たらない」と主張しており、疑惑の真偽は定かではない。しかし、生物学の常識を覆す「画期的発見」と世界が称賛した論文である。理研や小保方氏は、一刻も早く真実を明らかにしなければならない。
******高知新聞*****
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=316882&nwIW=1&nwVt=knd
【STAP論文】立ち止まり厳密な検証を
2014年03月12日08時08分
世界を驚かせた画期的な論文発表から1カ月半、日本の先端科学にとっても残念な事態の展開だ。
英科学誌に発表した、新たな万能細胞「STAP細胞」論文に不自然な点があると指摘された問題で、研究者の所属する理化学研究所は論文の取り下げを検討することにした。
取り下げには共著者の同意が必要だが、疑念には正面から真摯(しんし)に向き合うのが科学者の姿だ。ここは一度立ち止まって論文の内容を多角的に精査してほしい。
1月末、理化学研究所の小保方晴子氏らの研究チームが発表した論文は、生命科学の通説を覆す内容だった。
体細胞を弱い酸性の溶液に入れて刺激を与えることで、さまざまな組織、細胞になる万能細胞を作ることができたとした。
同様の能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)とは異なる世界初の手法だ。作るのも簡単とされ、再生医療への応用に期待が高まった。
ところが発表の直後からこの論文の画像や表現に不自然な部分があるとの指摘が相次いだ。
軽視できないのは小保方氏が過去に提出した博士論文の画像と酷似していたことだ。博士論文に載った細胞はSTAP細胞とは別の手法で作られており、画像の使い回しが事実ならSTAP論文の本質に関わってくる。
この問題はSTAP論文を共同執筆した日本人研究者の一人が、「信用できなくなった」と他の著者に論文撤回を呼び掛ける事態に発展。理化学研究所は論文の取り下げを検討していることを文書で発表した。
STAP論文の共著者は全部で14人いる。論文撤回には全員の同意が必要だが、米国の研究者は「いくつかの誤りがあっても、結論に影響はない」として撤回には応じない構えだ。
今後は国をまたいだ調整が必要になるとはいえ、疑念には精査で応えるのが科学の姿勢であろう。
10年前、韓国では大学でES細胞の捏造(ねつぞう)事件が起きた。先端科学の成果をめぐる競争が背景にあったが、STAP論文は現時点でそこまで疑われているわけではない。
結論が正しいということを証明するためにも、疑念を一つ一つ解きほぐす作業が必要ではないか。問われているのは科学への信頼性だ。
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*******国立国会図書館******************************
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/77F1MH3H3BCYEA172763FMLR2AGC5UKFSFVCR9MD43U824KB5U-00490?func=item-global&doc_library=NDL01&doc_number=002626856&year=&volume=&sub_library=KSBU
UT51-2011-E426 :
Isolation of pluripotent adult stem cells discovered from tissues derived from all three germ layers / Haruko Obokata [著].
[Haruko Obokata], [2011]
1冊.
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学位論文 一部:http://stapcells.up.seesaa.net/image/Background.pdf
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http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/36341/5/Shinsa-5627.pdf
早稲田大学大学院先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論文題目
Isolation of pluripotent adult stem cells
discovered from tissues derived from all
three germ layers
三胚葉由来組織に共通した
万能性体性幹細胞の探索
申請者
Haruko OBOKATA
小保方晴子
生命医科学専攻環境生命科学研究
2011 年2 月
体性幹細胞は, 生体の恒常性を保つため, 老化細胞の代替となる若い細胞を生
み出し, 炎症などの生体反応に応答して失われた細胞を補充する役割を担ってい
ると考えられている。現在までに, 造血幹細胞, 間葉系幹細胞, 神経幹細胞は多
種の分化可塑性を有する体性幹細胞として研究が進められている。また, 前駆細
胞との区別が難しいが, 各種生体組織にはそれぞれの組織幹細胞が存在している
と考えられており, 多くは培養系においてその存在が認められている。間葉系幹
細胞研究に代表されるように, 体性幹細胞の研究は発生学的な観察に基づき展開
されている。哺乳類の発生において三胚葉分化は決定的な過程であり, 体性幹細
胞の多くも三胚葉分化の後に存在が確認されることから, 三胚葉分化が起こった
後は, 例えば外胚葉系組織に存在している幹細胞が中胚葉や内胚葉由来組織の細
胞に分化する, あるいは中胚葉系に存在している細胞が外胚葉・内胚葉由来組織
の細胞に分化するなど, いわゆる胚葉を超えた分化は起こりえないと考えられて
いる。しかしながら, 近年, 分子生物学的解析手法の発展により間葉系幹細胞の
一部は外胚葉系の細胞から構成されることや, 間葉系幹細胞が生体内で神経形成
に関与するなど, いわゆる胚葉を超えた分化が三胚葉形成の後にも起こっている
ことが報告されている。これらの報告により, 体性幹細胞の起源や分化能の限界
についての大前提に疑問がもたれるようになってきている。
Vacanti らは, 200 0 年に, 全身の生体の組織内には三胚葉由来によらず非常に
強いストレスに耐性を有するspor e -l ike s tem c e ll が存在し体性幹細胞の補充に
寄与している可能性を提唱した。その後, 他の研究グループからも同様な概念に
基づいた研究報告が相次いだ。2002 年には骨髄中に万能性幹細胞MAPC が存在
することが報告され, 2004 年には間葉系幹細胞の一部に分化万能性を有する
MIAMI c e l l が存在することが報告され, 2006 年には造血幹細胞の小さいサイズ
の分画の中にVSELS c e ll s が存在することが報告され, 2010 年には間葉系細胞
の一部にストレス耐性のmus e c el ls が存在することが報告されている。
本論文では,spor e- l ike s t em c e ll の学説を証明する第一歩として,全身の組織
に共通の性質を持つ幹細胞が存在することを証明することを目標とし, 幹細胞の
採取, 解析, 再生医療研究応用への可能性を検討している。以下に各章の審査概
要を述べる。
第1 章では,生体組織由来のpluripot ent s t em c el l に関する研究の動向を概説
し,本論文の背景をまとめると共に,本論文の意義及び目的を明らかにしている。
第2 章では,spor e- l ike s t em c e ll の採取法を検討すると共に,幹細胞マーカー
の発現を解析した結果をまとめている。spor e- l ike st em c e ll は細胞直径が非常に
小さいという特徴を有しているため, 大きい細胞塊を壊して小さい細胞を採取す
る必要がある。そこで, 低浸透圧の溶液で細胞を短時間処理する方法, および先
端径1 0μ m 程度のパスツールピペットで吸引と吐出を繰り返して細胞を粉砕す
る方法を考案し,小さな細胞のみの回収に成功している。これらの手法を用いて,
2
マウスの骨髄から回収された微小な細胞群を無血清培地で培養すると, 浮遊した
球形のコロニー( 以降sphe re と呼ぶ)が形成されることを見出している。特に,
粉砕処理を行った場合, 高頻度にspher e 形成が観察されることを明らかにして
いる。つぎに, 間葉系幹細胞や造血幹細胞など広範な体性幹細胞に発現が報告さ
れているc -kit とSca-1,およびES 細胞や発生初期の受精卵に発現が観察される
万能性幹細胞マーカーであるSSEA-1 とE- cadhe rin の発現を調べた結果, いず
れも多くのsphe r e で発現が確認されたことを報告している。さらに, 個々の
spher e を顕微鏡下で採取し遺伝子発現解析を行った結果,万能性幹細胞に特異的
に発現が見られるOct4, Nanog, Sox2, Ecat1, Cr ipt o, Es g1 などの遺伝子マーカ
ーが高頻度に発現していることも確認している。これらの実験結果は,spher e 形
成が幹細胞の強い自己複製増殖能の結果として現れる現象であることを支持する
ものであり,sphe r e が特殊な幹細胞の集合体であることを物語る極めて意義深い
成果である。
第3 章では, sphe r e の分化能をin vi t ro およびin vivo の双方で調査した結果
をまとめている。ES 細胞から三胚葉由来の細胞へ分化させるための培養条件を
参考に, 培養条件を設定し分化誘導実験を行った結果, spher e 由来の細胞は神
経・筋肉・肝実質細胞などの代表的な三胚葉由来組織細胞へ分化できることを確
認している。続いて, 生体内での分化能と増殖能を検討するために移植実験を行
っている。細胞を接着させるためにPGA( po ly glyc ol i c ac id) 上で2-3 日間培養
した後,sphe r e をNOD/SCID マウスの皮下に移植し,4-6 週間後に組織学的,免
疫組織化学的な解析を行った結果, 直径3mm 程度の内腔構造を持つ塊の形成を
確認し, 内部には上皮, 神経, 筋肉, 管といった三胚葉由来すべての組織形成が
起こっていることを明らかにしている。以上の結果は, 粉砕処理後にspher e を
形成する細胞は, 無血清条件下で培養すると, 培養系, 生体内双方において三胚
葉系由来組織への分化能を有することを示しており, 非常に幼弱なタンパク質・
遺伝子を発現している事実と併せて考えると, 幹細胞の中でもES 細胞に近い分
化万能性を有することを示唆する興味深い知見である。
第4 章では, 同様の細胞群がその他の組織にも存在しているかを確認するため
の種々の実験結果をまとめている。三胚葉由来組織の代表的な組織である脊髄( 外
胚葉), 筋肉( 中胚葉), 肺( 内胚葉) から細胞を単離し, 粉砕処理後, 無血清培
養条件下で浮遊培養を行い, タンパク質マーカーの発現および遺伝子発現解析を
行っている。その結果,骨髄と同様に,c-ki t, Sca-1, SSEA-1, E-cadhe r in 陽性の
細胞が確認され, またES 細胞に特異的な遺伝子の発現が多数確認されることを
見出している。つぎに, 培養系での分化誘導実験を行うと, 骨髄の場合と同様に
各特異的なマーカーで陽性を示す三胚葉由来組織の細胞へと分化することを確認
している。さらに, PGA に播種しNOD/SCID マウスの皮下に移植すると, 骨髄
の場合と同様に上皮, 神経, 筋肉, 軟骨, 腺といった三胚葉系の組織へと分化す
3
ることも確認している。以上の結果から, 骨髄中から発見された広範な分化能を
有する幹細胞群は, 脊髄, 筋肉, 肺といったすべての三胚葉由来組織を粉砕して
形成されるspher e からも取得できることが示され, 全身の組織に共通の性質を
持つ幹細胞の存在が強く示唆された。
第5 章では,sphe r e を用いて,幹細胞の万能性を証明するための最も重要な証
明方法であるキメラマウスの作成を試みた結果をまとめている。ICR マウスの受
精卵とsphe r e を用いた凝集法によってキメラ卵を作成し, 24 時間培養した後,
子宮に移植した結果, 20 日後に産まれた新生児の毛皮にはspher e 由来の毛が観
察されず, 新生児の数は移植した受精卵の数よりも少なかったことを報告してい
る。キメラマウスの胎生致死, あるいは特定の組織へのキメラの偏在という可能
性が考えられたため, 胎生12.5 日目の胎児の解析を行った結果, 全身にs phe re
由来の細胞が散在していることを確認している。以上の結果は,sphe re 由来の細
胞は, 増殖速度は遅いものの全身の組織形成に寄与できる能力を有していること
を示している。
第6 章では本論文の総括と展望について述べている。
本論文では, これまでの常識を超えた体性幹細胞の起源と分化可能性について
の新しい学説をもとに, 体性幹細胞の創生の可能性を探る実験の結果をまとめた
ものである。本研究でES 細胞に近い分化万能性が認められた幹細胞が実際に生
体内に存在するかどうかは, これから明確にすべき大きな課題である。しかしな
がら培養法をさらに効率化することによって大量培養を可能とし, 組織工学をは
じめとする再生医療研究の新たな細胞源として期待できる。また, これまでiPS
細胞をはじめとした万能性幹細胞の創生の研究が盛んに行われているが, 再生医
療研究に必要なのは安全に機能する体性幹細胞であり, 万能性幹細胞からの体性
幹細胞の分化誘導は難しい。そこで本研究の第4 章で検討したような体性幹細胞
を体細胞から創出する試みが成功すれば細胞生物学的にも発生学的にも非常にイ
ンパクトのある研究成果となり, 再生医療応用に最も適した細胞ソースを提供で
きるようになるものと期待される。よって, 本論文は博士( 工学) の学位論文と
して価値あるものと認める。
2011 年2 月
審査員( 主査) 早稲田大学教授博士( 工学) 東京大学常田聡
早稲田大学教授工学博士( 早稲田大学) 武岡真司
東京女子医科大学教授理学博士( 東京大学) 大和雅之
ハーバード大学教授MD( Nebraska 大学)
Ch a r l e s A. Va c a nt i