京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

「教授」がやってきた

2008年10月31日 | 日々の暮らしの中で
           

“教授”がはるばる東京からやって来られた。
世界文化遺産で『源氏物語』を公演するためだ。
雅楽の調べで開演。基調講演は冷泉貴実子さん。パネルディスカッションもある。

一学年後輩、柔らかな笑顔が素敵だった彼に、貫禄が備わっている。和服姿で、淡々とマイペースで講読もされるという、「静」の教授のようだ。
彼の風貌、声に学生時代が蘇ってくる。

当時の私は、中古の文学に傾倒しており、とりわけ王朝人の暮らしへの関心が高かった。四年間を『源氏物語』と共に過ごしたといっても決して過言ではない。民俗学を背景に据えて物語を考察していたのだった。
「折口学」、出雲神話「いろごのみの道徳」・「説話」・「須磨」「明石」の「貴種流離譚」…、忘れかけていた言葉の数々、懐かしい響きに思い出が重なる。

夏の合宿での餅つき、冬の源氏万葉旅行。春日大社の若宮の御祭りでは深夜の外気の厳しさに泣け、詠めずに苦心した歌会、奈良の日吉館、当麻寺、新薬師寺に泊まったこと…。
貴重な体験の数々の記憶と共に眼に浮かぶのが、「今の教授」ではなく、数十年前の彼の穏やかな笑顔であるのがやはり嬉しい。

『秋の深さが深まってくると、ああ、今年もまた万葉旅行の時期が近づいてきたな、と思う。十二月の下旬に、研究会の学生たち二、三十人と、一週間の旅をするのが二十年来の習わしになっている。』 
―中略―
『冬空の下に蒼く広がる琵琶湖を見ながら、近江万葉の世界を歩く日の近いことを思うと、私の胸はときめく。』

かなり以前のものとなってしまったO教授の文章。
万葉の和歌をいくつも挿入した大好きな随筆文だが、教え子たちを悩ます入試問題となってしまった。

もう一度、今度は情愛の機微に触れながらこの物語の世界に遊ぼう。
捨てがたい原文のリズム。
「そりゃあ、原文で読まなければ」と言うだろうか。“寂聴さん版”で良しと言ってくれるのだろうか。これからの楽しみ方を模索しよう。

予期せぬ出会いは、私に思いがけない可能性を感じさせてくれる機会となった。
自分と異なる日常を生きる人の力だ。
  ―「教授!」感射です。ご活躍を!―

      (百万遍に近い知恩寺境内にて、秋の古本まつり)


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6 コメント

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勝つ・・・かな~?,yattaro-さん (kei)
2008-11-02 01:18:45
上原のあの顔見たくなかったです!
まあ、見ていて下さい。勝ちますって!
私の感はよく当たる。…かな?何を根拠に?ですが。

1戦でも長く楽しみたいです。でも、ヒヤヒヤは…
(そんなにべったり見てません)
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できれば原文で、matsuさん (kei)
2008-11-02 01:11:35
「解釈する人の人生や心によって読み方は変わる」
聞きあきるような言い方ですが、本当ですね。
「機微」などと言うものにはまことにもってうとかったわけですが。「遊び人」、わかりますね。

当時は、駆け引きとか生霊など怨念の世界が面白かったですね。女性像の方に興味がありました。ですから、「雨夜の品定め」をはじめ、好まれた女性の描写などは関心大でした。女性と光源氏とのやりとり、和歌。
言っては見ても若かったです。
はるか昔のことに少しだけ再び引き寄せられたような。

彼のような方とお付き合いしていては、不安で不安で、妬けて妬けて…かもしれません。
六条御息所が、身と心がかい離することを自ら歌う、そのお気持ちお察しします~、でしょうか。

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巨人に……keiさん (yattaro-)
2008-11-02 00:03:28
ブログとは関係のないコメントで失礼。
泣いても笑っても、今日から始まった日本シリーズで今年のプロ野球が終わるのですから、巨人一辺倒で来られたkeiさんに喜んでもらいたいですよね。
そのためにも、最後の最後の声援を振り絞って応援して上げて下さい。

兎に角、王者の闘いの風格ある試合を見せてくれるといいですね。
源氏物語千年紀と共に第7戦までお楽しみあれ!
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Unknown (matsu)
2008-11-01 23:30:02
keiさんが「源氏物語」の何冊かを携えて大学に通う姿を想像します。
その頃って「光源氏」に反感めいたものを持ちませんでしたか。
私は「若紫」が可哀そうで何でこんな思いをさせるんだろうと、「光源氏」をただの暇人、遊び人ぐらいにしか思えませんでした。当時はまだ潔癖で「情愛の機微」なんて理解できないのは当然ですけど。
が、時代背景や光源氏の境遇など知り、作者の式部の生涯を読んだり、自分も歳を重ねてくるうちに、徐々に変わっていったんでしょうね。

高校の頃暗記させられたいくつか
「いづれのお御時にか女御、更衣あまたさぶらい給いける中に・・・・・・」
 「野分だちてにわかに肌寒き夕暮れのほど、つねよりもおぼし出ずることの多くて ユゲイ(どんな漢字だったか忘れました)の命部というを使わす……」
などは不思議と忘れないところをみると、keiさんのおっしゃる捨てがたい原文のリズムが今も引き付ける唯一のもののようです。

千年紀、お膝元です。大いに楽しんでください。
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ほどよい刺激に、yattaro-さん (kei)
2008-11-01 17:30:07
朝晩本当に寒くなりましたね。
これからは、家の中での寒さを乗り切るのが大変です、冬はつらい季節です。まさか家の中でコートを着ているわけにもいかないですからね(笑)。

一週間ほど前に新聞で講演の案内を発見しました。
こんな機会は2度とないと思いましたので出向いたわけです。
千年紀…催しものは盛んですが、なぜかさほど心も浮き立たずです。選びながら。
忘れかけていた、遠ざかっていた世界に向けて、ちょこっと扉にすき間を開けてくれたような、刺激にはなりました。この思いを何らかの形にできれば、私の世界もまた一つ広がるというものです。

ですので、今の思いを捨てることにならないことが肝心ですね。
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郷愁・懐古・出発… (yattao-)
2008-11-01 07:43:07
思いがけぬ教授との出会いになったのでしょうか、あらかじめ予期した出来事だったのでしょうか。
公演・講演・講読、色々楽しまれましたね。keiさんの青春・若かりし頃を、かいまのぞき見した感じです。 源氏物語千年紀、話題沸騰ですね。源氏物語などとは縁遠く生きてきましたが、原文はともかく、寂聴さん版は一度は手にすべきでしょうね。

貴重な体験の数々・数十年前の彼の穏やかな笑顔・今度は情愛の機微に触れながらこの物語の世界に遊ぼう……古き良き時代を背景にまた新たな出発の予感ですね。
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