![]() | 魔使いの呪い (創元推理文庫) |
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東京創元社 |
ジョゼフ・ディレイニーによる大人気「魔使いシリーズ」の第2弾、「魔使いの呪い」(創元推理文庫)。単行本では既に本編9巻と外伝1巻が翻訳・発売されているが、これは文庫化されたものの2巻目となる。
主人公はトム。ジョンという魔使いの弟子で、7番目の息子の7番目の息子だ。この作品世界では、7番目の息子の7番目の息子というのは、なにか特別な力があるらしいが、この巻では良く分からない。
ジョンの兄で司祭のグレゴリーが、ボガード(精霊)退治に失敗して、命を落とす。その葬儀のために、ジョンとトムは大聖堂の町プリースタウンを訪れるのだが、彼らにはもう一つの目的があった。大聖堂の地下にあるカタコンベに封じられている古代の悪霊ベインが復活しかかっており、それを倒さねばならないのだ。
ところが、魔女狩り長官の一行が、哀れな犠牲者たちを連れて町にやってくる。捕まった人たちの中には、トムの友達の少女・アリスの姿も。放っておけば、アリスが火あぶりになってしまう。しかし、彼らに見つかれば、自分たちの身も危ない。そして今度は、ジョンまでも、彼のいとこのケアンズ神父の裏切りにより、魔女狩り長官の手に落ちてしまう。
魔使いは、魔術ではなく技術で、魔女や悪霊のような闇の魔物と対決する。だから華麗なる魔法合戦というようなシーンはない。自分たちの持っている知識と道具を使って、危険と隣り合わせで魔物たちと戦っていく。そこが、読者をはらはらさせて面白い。
この作品には、二つのアイロニーが潜んでいるように思える。一つ目は、本来人を魔物から救わなければならないはずのキリスト教が、まったく役に立っていないところだ。それどころか、「魔女狩り」と称して、罪の無い人を苦しめる。この「魔女狩り」というのはキリスト教最大の黒歴史のひとつで、多くの人たちが拷問の結果、いわれの無い罪を着せられて殺された。そして、魔物たちと戦っている魔使いまでも「魔女」として殺そうとするのだ。どんな宗教でも、世俗の権力を持たせると、結局は堕落してしまうということだろうか。
もう一つは、魔使いと魔女との関係。魔使いは、魔女を捕まえると穴に放り込んで封じてしまうようだ。しかし、今回はその魔使いが魔女に助けられている。アリスは魔女だが、トムの友達で、今回ジョンの救出やベインを退治するのに大きな役割を果たした(もっとも、これはかなりあぶなっかしかったのだが)。
トムを導いてくれた母親もどうも魔女のようだ。なにしろ、トムの父親と出会った時には、銀の鎖により岩に裸で縛りつけられていたのだ。彼女は、太陽の光を恐れる。トムの父親は、そんな彼女を助けて夫婦になった。トムは、母親からアドバイスをもらい、かって彼女を縛っていた銀の鎖を渡される。この銀の鎖というのは、この物語では、魔物を拘束するために必須のアイテムだ。魔物は、銀に弱いのである。
ところで、師匠のジョンにも、かって銀の鎖で拘束されていた、美しいラミア魔女・メグを助けたことがあったらしい。ジョンの持っている銀の鎖は、その時のもののようだ。この巻では、ジョンの日記の中でしか出てこず、その後どうなったかも不明であるが、今後物語に関わってきそうで、少し気になる。
この巻は、前巻の話を受けている部分も多少はあるが、一応独立した話になっており、前巻を読んでいなくても十分に面白く読めるだろう。まだまだ物語は始まったばかり、これからトムやアリスがどのように成長していくのか楽しみである。
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※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。