ジャッジ! (幻冬舎文庫) | |
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幻冬舎 |
CM業界の裏側を極限までカリカチュアライズして描いた(と思われる)、「ジャッジ!」(澤本嘉光:幻冬舎文庫)。著者は、CM業界で、かなりの実績を持つ人物のようだが、ここに書かれていることが、本当にCM業界の裏側だったら、ちょっと怖い(笑)。妻夫木聡と北川景子の出演で映画化され、この1月11日にロードショー公開された。
主人公の太田喜一郎は、広告代理店・新広に勤務する30歳のCMプランナー。思い付きで何を言い出すか分からないクライアントや上司に振り回される毎日だ。そんな彼が、上司の大滝一郎から、サンタモニカ広告祭の身代わり審査員を押し付けられる。読み方がどちらも「オオタキイチロウ」だし、外人には日本人の顔の区別なんてつきはしないだろうと言う訳だ。
その広告祭にエントリーするのが、ちくわの老舗・竹和堂の社長の息子が作った、訳の分からないちくわのCM。この広告が金賞を受賞しないと、会社を首になってしまう。しかし、こんなひどいCMが賞をとれる訳がない。太田は貧乏くじをひかされたのである。それにしても、ちくわの会社が、どうしてこんなに力を持っているんだろう。
ということで、太田は、「できる方のオオタ」と呼ばれている、美女だがギャンブル大好きの大田ひかりと偽夫婦となって、サンタモニカに乗り込む。ちなみに、偽夫婦となったのは、クリエーターには、こっち系の人が多く、男一人で行くと危ないということらしい。
ところが、広告祭の裏側は、裏工作だらけ。どんな賞取りにも、裏工作が付き物と言う噂もあるが、いくらなんでも、ここまでのことはないだろうと思う。でも、もしかしたらと思ってしまうところに、この作品の面白さの一つがある。
英語ができないという太田に、大滝は資料保管室に住まう鏡という男に聞けばなんとかなるという。しかし鏡が教えてくれたのは、ペン回しと、敵を威嚇するためのカマキリのポーズ。そして、渡されたのは、「最高のご馳走にありつく英会話」という食べ物ガイド本。この鏡という男、昔は凄腕のCMマンだったらしいが、やはり竹和堂のCMのおかげで窓際族になってしまったらしい。大丈夫か太田。
ところが、このペン回しや、食べ物ガイドに書かれた表現が、作品の中で、本当に役に立っているというところに、もう一つの面白さがある。まったく場違いのところで使っている訳なのだが、それが却って何か深い意味がありそうだということで、聞いている方が勝手に妄想するのである。まさか、食べ物ガイドの表現に、これだけの汎用性があるとは(笑)。これは、ビジネスマン諸君も、会議の席で使ってみるとよいかも知れない。ただ、それが原因で窓際になっても責任は持てないが。
裏工作ばかりしている敵に対して、太田は、正々堂々と立ち向かう。自分のところのCMでも、クビ覚悟でだめなものはだめという。そのフェアな態度に、味方が増えて、遂には敵を打ち負かす。舞台は、CM業界だが、ストーリーはどこか既視感が漂う。しかし、読み終わった後は、ドタバタ喜劇にも関わらず、すがすがしい気持ちになる。そうだ、これは、現代のおとぎ話なのだ。
しかし、作品中に、いくつか企業の実名が出てくるが、大丈夫だったのだろうか。まあ、悪い扱いではなかったのだが。それとも、もしかするとタイアップしているのか?
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※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。