TUGUMI(つぐみ) (中公文庫) | |
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中央公論社 |
これが私のよしもとばなな初体験、「TUGUMI(つぐみ) 」(中公文庫)。まだ著者名の表記が「吉本ばなな」のころの作品で、1989年の山本周五郎賞受賞作であり、1990年には、牧瀬理穂主演で映画化もされている。病弱なためにわがままいっぱいに育てられた美少女・つぐみとのひと夏の体験を、1歳上の従姉である白河まりあを語り手として描いた青春小説だ。
まりあは、漁師町で旅館をやっている叔母夫婦の家に、大学の夏休みを利用して遊びに行く。ここは、以前まりあが、父親の愛人だった母親といっしょに住んでいた場所だったが、父親が先妻との離婚が成立したために、現在は、家族そろって東京で暮らしている。
叔母夫婦は、来年の春には、旅館を畳んでペンションを始めることを決めている。これは、まりあが、その漁師町で過ごしてた最後の夏の物語だ。
つぐみが病弱なのは生まれつきで、体の機能にあちこち欠陥を抱えている。だから、直ぐに熱を出して寝込んでしまう。町一番の美少女だが、驚くほど我儘で傍若無人でいじわるで毒舌だ。ただし外面だけは良いらしい。
しかし、まりあも、つぐみの1歳上の姉の陽子も、さんざんつぐみに振り回されているのに、決して彼女のことを嫌ってはいない。常に死に身近ながらも、ものすごいパワーを見せる。いたずらだって、仕返しだって、全力でやる。 悪知恵は働くわ、口は悪いわで、とんでもない性格なのだが、読んでいくうちに、彼女の我儘さのなかにも、まっすぐさがあることに気付くのである。それをまりあも陽子も感じているのだろうか。
強烈な個性ながら、不思議に可愛らしさを感じさせるつぐみ。そんなつぐみと彼女を取り巻く人々の物語は、どこかノスタルジックでもある。
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※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。