サイモン・アークの事件簿V (創元推理文庫) | |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
2000年近くを生き、悪魔を探し続けているという男、サイモン・アークが探偵として活躍するオカルト探偵シリーズの5巻目となる、「サイモン・アークの事件簿Ⅴ」(エドワード・D・ホック/木村次郎:創元推理文庫)。
シャーロック・ホームズの相棒にワトソンがいるように、このシリーズでも、サイモン・アークには、物語の語り手である「わたし」がいる。大手出版社「ネプチューン・ブックス」の編集者である「わたし」によって語られる奇妙な事件は、次の8篇。
・闇の塔からの叫び
・呪われた裸女
・炙り殺された男の復讐
・シェイクスピアの直筆原稿
・海から戻ってきたミイラ
・パーク・アヴェニューに住む魔女
・砂漠で洪水を待つ箱舟
・怖がらせの鈴
タイトルを眺めてみると、いかにもというような事件が並んでいる。確かに、被害者が魔女のように炙り殺されたり、ミイラにされたりと事件は一見怪奇性を帯びている。しかし、実際には、どの事件にもオカルティックなところなく、結局は犯人の欲によって引き起こされたようなものが多い。中には、国家規模の陰謀のようなものもあるが、事件そのものは、すべて理性をもって解決でき、なんの不可思議さもないのだ。
事件にオカルティックなものがない以上、サイモン・アークがオカルトに関する知識で事件を解決するといったようなこともなく、彼の2000年近くも生きているという奇妙な設定が、どう物語の中で生きているのかが良く分からない。長く生きていれば、それだけ賢くなって名探偵役が務まるということなのだろうか。サイモンをホームズに、「わたし」をワトソンにでも見立てて、普通の探偵小説として読めば、それなりに面白いのだが、この点だけは気にかかる。
☆☆☆
※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。