文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:独学という道もある

2014-02-02 08:54:55 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
独学という道もある (ちくまプリマー新書)
クリエーター情報なし
筑摩書房


 柳川範之氏の、「独学という道もある」(ちくまプリマー新書)。

 著者の経歴は、かなりの異色だ。現在は東大大学院教授(本書執筆時は准教授)だが、高校には行っておらず、大検を受けて、慶應の通信教育で学んだ後に、東大大学院に進んで学者になったのだから。

 柳川氏が高校に行かなかったのは、父親のブラジル勤務について行ったためだ。ブラジルの学校に行くと言う選択肢もあったのだが、ポルトガル語の問題もあり、ブラジルで一生生きていくつもりもなかたので、日本から持ち込んだ参考書等で独学を始めたという。

 大学についても、会計士になることを決めていたので、大学はどこでもよいからと、最初から通信制に決めていたそうだ。しかしそのうちに、経済学がだんだん面白くなり、東大大学院から学者の道に進んだ。 氏の勉強方法には、ノートは作らない、テキストは2回読む、問題集は、問題を解くためではなく、問題を把握するために使う等、色々と参考になることが多い。

 氏は、独学のメリットとして、自分のペースで進められることと、あまり人に聞かないでまず自分で考える癖がつくということを挙げている。最初のやつは、ともすれば怠けがちになりやすいということの裏返しでもあるのだが、2番目のことは大切だと思う。

 今はマニュアル人間が増えているという嘆きを聞く事が多い。マニュアルに書かれたことしかできず、応用が利かない。良く笑い話で出てくる、ファーストフード店で10人前くらいの注文をしても、「こちらでお召し上がりですか」と聞いて来るというのは、この典型例だろう。小さいころから塾に通って、自分の頭で考えるのではなく、何でもかんでも教えてもらう習慣がついてしまっているからだろうか。

 実験など、設備がないと出来ないものはともかく、テキストを学ぶだけなら、大学学部程度の学問は独学で十分可能だと思う。しかし、世の中では、独学ということを少し大げさに考えているように思える。たとえ、学校に通っていたにしても、勉強の肝心なところを本当に会得しようと思えば、そこは所詮は独学でしかできないのだ。人から教えてもらった知識だけ身につけても、歩くノートブックみたいなもので、そこには殆ど価値はない。

 日本では、就職の新卒優遇という変な風習があることもあり、学校を卒業して就職するまでは、多くの人間が決まりきったレールの上を走っている。しかし、人の生き方には、色々な道があるのだ。本書は、そのような人生の多様性に、改めて気づかせてくれる。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。

コメント (2)
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