ポータル (ポータル・クロニクルズ) | |
クリエーター情報なし | |
ワイルドソーン出版 |
イモジェン・ローズの「ポータル」。「ポータル・クロニクルズ」というシリーズの最初の作品にあたるようだ。
主人公は、アリゾナという女子高生。SAT(大学進学適性試験)の後、迎えに来た父親の車に乗り込んだはずなのだが、気がついてみると、別れて暮らしている母親の運転する車の中にいた。自分の名前も、アリゾナ・スティーブンスから、アリゾナ・ダーレイになっており、住んでいるところも、プリンストンからマウンテンビューに。それも8か月も前の。
父親として現れたのは、自分の父とは全然違う人で、おまけにいないはずの兄まで存在している。自分自身も、栗色の髪のホッケー選手から、プラチナブロンドのバービー人形のようなチアリーダーに変わっていたのだ。
いうなれば、タイムトンネルとパラレルワールドものを組み合わせたような作品なのだが、なかなか評価が難しい。長いシリーズの導入部のような位置づけだからだろうか、おそらくこのような作品につきものである、色々な矛盾は残されたままだ。
アリゾナは、妹のエラといっしょに、こちらの世界につれてこられたのは、8年前のこと。それ以来、彼女は家族とずっと幸せに暮らしていたと言う。それではなぜ、アリゾナが、突然8か月後までの向こうの世界での記憶を持つようになったのか。
アリゾナの父親のディラードは、こちらの世界にも存在している。母親のオリビアと結婚していたらしいが、もう20年も前に分かれているので、こちらの世界では、アリゾナの父親ではない。それでは、オリビアは、いったいどちらの世界の人間なのか。こちらの世界でディラードとの結婚に失敗しているのに、懲りもせず、あちらの世界でも彼と結婚して、アリゾナとエラを産んだのだろうか。
そもそもは、オリビアが、現在夫としているルバートに、「二年前の僕に会いに来て」と言われたことから始まっているようだが、「二年前」ということにどんな意味があるのかも、この巻では良く分からない。
これらをうまく説明できれば、なかなか面白い作品になる可能性はある。まさか、もうひとつのパラレルワールドがあって、そちらとも混線してましたというオチではないと信じるが。
本作だけ読むと、ヤングアダルト向けということだからだろうか、全体的に軽い感じで、物語の山場というようなところが見られないのは残念。しかし、最後に、敵役のような存在が出てくるので、これから何か大きな事件が起きそうな予感はある。
☆☆☆
※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。