![]() | Anne of Green Gables |
クリエーター情報なし | |
Yearling |
少し前にNHKの朝ドラで有名になった、「赤毛のアン」の原書となる、「Anne of Green Gables」(L.M. Montgomery:Yearling; Dgs Rep版)。
「グリーン・ゲイブルズ」と呼ばれる家に暮らす、マシューとマリラは、孤児院から子供を引き取ることにした。マシューの手助けにと、男の子を頼んでいたはずだが、やって来たのは、やせっぽちで赤毛の女の子。この時の様子が、各章のタイトルに端的に表されているが、これが面白い。列挙してみよう。
1.Mrs.Rachel Lynde is Surprized
2.Matthew Cuthbert is Surprized
3.Marilla Cuthbert is Surprized
レイチェル・リンド婦人は、カスバート兄妹の友人だが、まず彼女が、カスバート家で孤児を引き取ることを知って驚き、次に、マシューは、やって来たのが女の子だったことに驚き、そして、マリラは、マシューが連れ帰ったのが女の子だったことに驚いた。そう、みんな、びっくらこいてしまったのだが、この物語はこんな、先の展開を予測させるような、ユーモラスさを感じさせる章建てから始まっていく。
結局は、グリーン・ゲイブルズで暮らす事になったアンだが、これがなかなか変わった女の子だった。おしゃべりで、空想好きで、やたらと周りのものにロマンチックな名前を付けたがる。おまけに、「アン」は、”Ann"ではなく、最後に”e"をつけてくれとか、ドレスの袖は、ふくらんでいる(puffed)のがいいだとか、色々とこだわりもある。
カスバート家は、マシューとマリラが二人で静かに暮らしていた家だった。それがアンが来たことで、がらりと雰囲気が変わる。おおげさで、芝居がかった物言いのうえ、喋り出したら止まらない。この作品の半分以上はアンのおしゃべりで占められているような観があり、マリラからはしょっちゅう”Hold your tongue!(おだまり)”と言われてしまうのだが、それでも時にマリラを笑わせる。想像力がありすぎて、妄想が暴走している様子はなんとも可笑しい。しかし、これはアンの本来の性格というのもあるのだろうが、恵まれない生い立ちの中で、ただ想像の翼を広げて、夢見ることだけが慰めだったということも連想させ、痛ましくもある。
この物語に面白身を与えているのが、アンが繰り広げる数々の失敗だ。「腹心の友」となったダイアナにワインを飲ませてへべれけにさせたり、ケーキにヘンなものを入れて台無しにしたり、黒髪になりたいと、怪しげな行商人から仕入れた毛染め剤で髪の毛をグロテスクな緑色に染めてしまったりと、彼女の日常は失敗だらけなのだ。
髪の毛を黒く染めようとしたのは、アンが自分の赤毛にものすごいコンプレックスを持っているからである。学校で、赤毛をからかったギルバートを一生許さないんだと、それ以来ずっと無視しているというのがすごい。あの年頃の男の子は、気になる女の子をからかったりするものだ。許してやれよと思うのだが、なんとも執念深いことである。数年後にアンの危ないところを助けたギルバートが和解を申し込んだ際にも拒絶してしまった。さすがに、このころになると、アンもギルバートのことを別の意味で意識し始めたようで、この拒絶は、アンの心に後悔の念をもたらす。結局和解が成立したのは、二人がクィーン学院を卒業した際に、ギルバートの示したある好意がきっかけだったのだが、それにしても仲直りするのになんと時間がかかったこと。ギルバートが、将来の夫になるということを考えると、なんともすごいツンデレぶりではないか。それにしても、ギルバート、あんたもよくがんばった。偉いよ(笑)。
赤毛、そばかす、やせっぽちだということで、アンは自分の容姿に自信がないようだが、著者がアンの容姿のモデルにしたのは、当時アメリカで人気だったというイヴリン・ネスビットという女性だそうだ。リンク先には、彼女の写真も載っているが、これで自信がないのなら、世の中の99%の女性は自分の容姿に絶望しなくてはならないくらい綺麗で可愛らしい人である。
ところで、マシューは、最初からアンにぞっこんのようだ。まるで孫娘ができたような感覚だったのだろうか。妹のマリラも、厳格で融通の利かないところはあるが、決して冷たい人間ではない。アンは彼女にとってもかけがえのない存在になっていくのだ。天涯孤独だった女の子が、グリーン・ゲイブルズで自分の居場所を見つけ、マシューやマリラの愛に包まれて、ダイアナという「腹心の友」、ギルバートという「ライバル兼将来の伴侶」を見つける。これは、そんな物語である。まさに笑いあり涙あり、今にも本の中から飛び出してきそうなほど、アンが活き活きと描かれている。結構厚い本なので、最初は読みとおせるかと思ったが、読み進むにつれどんどんアンの魅力に夢中になっていき、気がついてみると読み終わっていた。
☆☆☆☆☆
※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。