![]() | 窓際OL人事考課でガケっぷち (新潮文庫) |
クリエーター情報なし | |
新潮社 |
どくとるマンボウこと故北杜夫さんの娘さん、斎藤由香さんのエッセイ集、「窓際OL人事考課でガケっぷち」(新潮文庫)。内容は、彼女の会社生活に題材を取ったもので、週刊新潮に連載されていたものから抜粋して、加筆を行ったものだという。
斎藤さんの愉快なOL生活が窺えて、とても面白いが、中でも、自身の人事考課に対する愚痴と、「キャバクラ課長」と名付けられた某課長とのメールのやり取りが秀逸である。
斎藤さんは、毎年人事考課の季節が終わると、鬱状態になるという。何しろ、評価は散々、同僚や後輩は、どんどん部長や課長になっているというのに、自分だけは相変わらずヒラのまま。遂には、関係会社に飛ばされてしまう。まさに、会社員の悲哀といったところだが、コメントしようとすると、少し難しい。
斎藤さんは、人事考課に関する部長との面談の中で、相当のダメ出しをくらう。曰く、「会社の求めているものと違う」。曰く「マネージャーには向かない」。これを、真面目にコメントしようとすると次のようになる。大体人事の基準なんてものは、かなりいいかげんで、恣意性が入りやすい。このステージの役割ならこうだからなんて書いてあっても、それはしょせん落すための口実であり、人によって適用される基準が違うのである。そもそも、人間には得意、不得意があるので、すべての基準を厳密に適用すれば、それに当てはまるような人間なんてどこにいるのか。結局は、不得意なところをうまくごまかし、得意なところで勝負する。これが会社生活の極意なのだ。斎藤さんの貢献した部分を見ずに、落すために必要な部分だけをあげつらうというのは、なんという狭了な会社だろう・・・と、普通ならこのように言いたいところである。
しかし、コメントが難しいといったのは、本書を読んでいると、本人もこの境遇をを愚痴りながらも、エッセイのネタにしてかなり楽しんでいるような節も見られるというところだ。おまけに出版社も読者も、人事ネタを楽しみにしているようなのだから、会社としても、宣伝になるので、そのネタを提供しようといったところなのだろうか。普通の会社では、人事考課のことなど、とてもエッセイになんて書けはしないので、案外この推測もありかなとも思ってしまうのだ。
ともあれ、齊藤さんが、スポニチの記者にマカの説明をしたところ、「愚息ムクムク!硬化バツグン!」と記事にしてもらえ、そのおかげで、売上前年比6000%になったという。それからは、すっかり、「マカの伝道師」となってしまったようで、今後も人事考課などにめげずに頑張ってほしいものだ。
そして、フランスのボルドーに飛ばされた、「キャバクラ課長」との楽しいメールのやり取り。齊藤さんが、そのキャバクラ課長の送別会に潜入したところ、出席者が豪華なことに驚く。その時の出席者のスピーチで明らかになったのは、酔っ払って触わられたりする代りに、その人のエッセイのコピーを色々なところに配って、PRしてあげたりするような優しい人でもあるということ。「私も触られた」と会場は盛り上がったようだが、決して嫌がられてはいなかったようである。そこで思わず出た、斎藤さんの科白が、
「私は一度もお尻を触られたこともないし、コラムをコピーしてPRしてもらったこともないんですが!!」
ん! お尻触って欲しかったのだろうか(笑)。でも、このキャバクラ課長、斎藤さんのメールに付き合って、ネタを提供してくれただけではなく、最後に「いやよ!いやいや!」と言いながら(いや、言ってないか(笑))、結局は実質的なあとがきまで書いてくれたのだから、本当に優しい人みたいだ。
この他にも、楽しいコラムが満載で、つい噴き出しそうになるようなことばかり。とても面白い。
☆☆☆☆
※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。