![]() | 愛は自転車に乗って: 歯医者とスルメと情熱と (ドクターごとうの訪問歯科シリーズ) |
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大隅書店 |
東京新宿で、背中にデイパックをしょい、肩にはカメラバッグを引っ掛けて、自転車で訪問診療に走り回る歯科医の奮闘記、「愛は自転車に乗って: 歯医者とスルメと情熱と (ドクターごとうの訪問歯科シリーズ)」(五島朋幸:大隅書店)。
寡聞にして、これまで、歯医者には、外来診療しかないものと思っていたのだが、本書を読んで、訪問診療をしてくれる歯科医がいるということを初めて知った。なにしろ、歯医者に行けば、結構大掛かりな設備がある。だから、訪問診療ができるとは、なかなか想像ができない。しかし、考えてみれば、歯医者の治療は、削るのが基本だから、ドリルさえ動けばなんとかなりそうな気もする。
訪問が必要なくらいだから、患者は高齢者が多い。このような場合に、中心となる治療は、入れ歯の調整と、口内のケアのようだ。入れ歯はバランスで成り立っており、それが少し崩れただけで、痛みが出たり、がたつきが出たりするという。酷い場合は、物をろくに食べることができなくなるのだ。しかし、入れ歯をうまく調整したり、口内ケアを適切に行えば、そのような状態が劇的に改善する。寝たきりでほとんど反応のないような人が、会話ができたり、ものが食べられるようになったりするのだ。なお、副題にある「スルメ」は、患者がものを食べられるようになるための訓練に使うものである。
著者は、多くの患者の間を飛び回り、食べる喜びを取り戻すお手伝いをする。まさに、著者の言うように、「食べることは生きること」。高齢者で寝たきりの患者が多いので、たとえ歯科の治療は上手く行っていても、結局は病気で亡くなってしまうといったこともある。しかし、僅かの期間とはいえ、自分の口で。少しでもものを食べられ、生きる喜びを取り戻すということは、人間の尊厳の回復ということにも繋がることではないだろうか。
本書を読んで感じたのは、まさに「医は仁術」ということと、患者と直接向き合うことの大切さである。そして一番大切なのは、そこに愛がこもっていることだ。本書は、診療日記の形式で書かれているが、一応は体験に基づいたフィクションだということである。これは、医師の守秘義務が絡むので、実話は出せないということだろうが、かなり近い事例があっただろうことは想像に難くない。
自分の口でものを食べられるというのは、なんと幸福なことだろう。本書を読むと、歯の大切さと、口腔ケアの重要さといったことが良く分かる。歳を重ねてもなるべく自分の歯を残すように、今日から、一層気合いを入れて歯を磨こうと決意した。
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