旅者の歌 中途の王 (幻冬舎単行本) | |
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幻冬舎 |
東京バンドワゴンの作者が描くハイファンタジー、「旅者の歌 中途の王」(幻冬舎)。この物語の主人公ニィマール(リョシャ)は、シィフルの地で、「話者」を目指していた。「試の日」に、許嫁と兄、姉が人の心を残したまま、動物になってしまう。彼らを元の姿に戻すためには、誰も行ったことの無い<果ての地>へ行かなければならない。試練の旅に出た一行は、途中、人の心を宿した雌雄の獅子を仲間に加えた。ここまでが前巻の物語のようだ。
この巻では、美少女戦士、〈タルホアルワン〉のカポックが加わり、向かうべき地も明らかになる。この旅の一行には、元きれいどころというのは多いのだが、今は残念ながら、みんな野獣の姿。作者は、やはり人間の姿をした美少女をパーティに加えたかったのだろうか(笑)。
そして、〈白の森〉という不思議な場所で、ヒュルギアンズ国のドュランドセットルン王と出会い、「リョシャたちの目的地は、〈深淵の谷〉の向こうにある。〈深淵の谷〉を超えるためには、〈白の森〉を抜ける必要がある。そして、〈白の森〉を抜けるためには〈中途の王〉を倒さなくてはならない」ということが分かる。この〈中途の王〉というのが、この巻の中ボスかと思ってしまいそうだが、そう思っていると、かなり当てが外れるだろう。それにしても、この〈中途の王〉というのは、もうひとつ良く分からない存在だった。いったい彼は何者だったのか。
残念ながら、この物語には、あまり深みというようなものが感じられない。あまりにもパーティの一行が仲良しで、裏切り、思惑、陰謀などもなく、意外な展開といったようなものもない。立ち寄った先もみな親切で、話がどうにも素直過ぎるのだ。文章も、せいぜい中学生くらいまで向けで、少年、少女が読むにはちょうど良いのかなと思うが、読書経験を積んだ大人には物足りなく思えるのではないだろうか。
この物語を一言で表せば、旅の仲間を集め、立ち寄ったところで、情報を得て、装備を整え、多くのモンスターを倒して、中ボスやラスボスと対峙する。描かれるのは、友情、勇気、チームワーク。まるで少年ジャンプ的な性格の強いRPGの世界を、そのまま小説にしたような感じだ。ただ、この巻は、まだまだ物語の序盤のようで、謎も多く、それが今後どのように展開するのかは、まだ分からないのだが。
また、2巻から読み始める読者のために、前巻のあらすじと、作品中で使用される言葉の説明くらいは欲しい。登場人物の紹介ページも前巻で登場する人物が中心で、この巻に出てくる人物では、ドュランドセットルンは描かれているのに、カポックは描かれていないというような偏りがある。2巻を読んで興味が湧き、1巻を読むという読者もいると思うので、その当たりの配慮を望みたいものだ。
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