村上海賊の娘 下巻 | |
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新潮社 |
上巻を読んでから、大分間があいた「村上海賊の娘」(和田竜:新潮社)の下巻。織田家と毛利家が初めて戦った木津川合戦をモチーフに、戦国の世を思いのままに生きた海賊の姫を描いた歴史小説である。上巻では、表紙イラストにすらりとした後ろ姿で描かれていた主人公の景だが、この下巻では正面からの景が描かれており、「ほらやっぱり可愛いじゃないか」ということが分かる。誰やねん、「悍婦醜女」(じゃじゃうまのブス)なんて散々言っていた奴は(笑)。
戦に憧れていた景だが、本願寺と信長の戦いを目にして、その悲惨さを知り、自分の甘さを思い知り、落ち込んでしまった。能島にかえった景は、イケメンの児玉就英に嫁入りを決心して、なんと、おしゃれに精出すようになってしまうのだ。日に二度も着物を着替えたり、白粉を塗って、化粧をしたり。これまで散々ブス扱いされてきた景だが、馬子にも衣装、おしゃれをすれば、ナイスバディと相まって、独特の美しさが顕になってきたようだ。景も、今に生まれていれば、弾き手あまただと思うが、でもやっぱり、そんな姿は本当の景じゃない。
ところで、景の嫁入り話が進んでいる、児玉就英だが、最初は、イケメンだけど、アホで気ぐらいばかり高い男として描かれていた。なんぼなんでも、こんなところに嫁にいかさんでもと思っていたのだが、下巻では、次第に案外と良い奴だということが分かる。人には色々な面がある、一面だけ見ても分からないということだろう。そして、景にしても、敵に対しては獰猛だが、優しい面も多い。本書では、その景の優しさが、大きな物語を創りだしていると言えるだろう。
この下巻では、村上水軍は、毛利に味方して、本願寺に兵糧を運ぶことになる。しかし、信長配下の眞鍋海賊と泉州侍たちが、木津川河口を塞いで、本願寺に兵糧を届けるためには、彼らと一戦交えなければならない。小早川隆景の密命により、毛利軍は、眞鍋海賊たちとにらみ合いを続けた末に、引き上げようとする。しかし、景は、本願寺門徒を見捨てることは出来なかった。父親から隆景の真意を聞いた景は、門徒を助けるために再び戦いに乗り出す。
この時の様子が何とも景らしい。これまで来ていたおしゃれな小袖を脱ぎ捨て、真っ裸で海を泳いで兵たちの許に行き、そのうちの一人が来ていた小袖を取り上げる。次に「褌」と命ずると、兵はあわてて、自分の褌を解き始めるのだが、さすがにこれは景のお気には召さなかったらしく、「真っ新(まっさら)なのを持って来い」と怒られている。
ともあれ、海賊の姫の一途な思いは、大名たちの思惑など吹き飛ばして、男たちを動かす。その姿は、まさに瀬戸内のジャンヌ・ダルクだ。しかし、敵の頭である眞鍋七五三兵衛は、まさに怪物。不死身のバーサーカーだ。最後の方では、無敵のバーサーカー対戦闘派美少女の死闘が続く。景は満身創痍だ。果たしてこの怪物を倒す事ができるのか。この作品は、基本的には、歴史小説だが、二人の戦いは、ヒロイックファンタジー(魔法は出ないが)とも相通じるものがあるだろう。忙しくてなかなか下巻を読めなかったが、読みだすと面白くて、まさに一気読みだ。
☆☆☆☆☆
○関連過去記事
・村上海賊の娘(上)
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