文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:三人の志士に愛された女 吉田松陰の妹

2015-01-08 21:06:56 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
三人の志士に愛された女 吉田松陰の妹
クリエーター情報なし
幻冬舎


 平成27年のNHK大河ドラマは、吉田松陰の末の妹・文を主人公にした「花燃ゆ」だ。吉田松陰と言ってすぐ思い出すのは、松下村塾である。ここからは、多くの英傑たちが巣だって行った。それは、まさに、日本が近代国家への道を歩みだす、激動期のなかで起きた奇跡だ。

 幕末の長州は、多くの英傑たちを生んだが、そのなかでも別格なのが、吉田松陰と高杉晋作である。萩市内を走るループバスがあるが、その愛称が、「松陰先生」、「晋作くん」となっていることからも窺える。しかし、二人の敬称の違いから、萩市民の二人に対する思いの違いも見えてくる。松陰は、死後神として祀られたことからもわかるように、限りない尊敬の対象なのだ。

 まず知らない者はないと思われる松陰に対して、彼の妹・文のことは、山口県においても、殆ど知られていない。同じ大河ドラマ「八重の桜」の新島八重のように、決して歴史に残るような女性ではなかったのだ。しかし、無名だからこそ、花の燃えるような時代の目撃者としてふさわしいと「花燃ゆ」の作者は考えたのだろう。

 ここで、本書に戻るが、この「三人の志士に愛された女 吉田松陰の妹」というタイトルを見ると、いかにも文のことを中心に書かれているようだが、実は本書に書かれているのは、主として、吉田松陰、久坂玄瑞、楫取素彦の3名についてだ。減塩みそ汁ではないが、「文度」は、意外と薄め、控え目なのである。思うに、文のことを記した資料が乏しかったのだろうか。このことからも、彼女が、いかに無名だったかということが窺える。

 ところで、文が最初に嫁いだのは、晋作と並び称される、松下村塾きっての秀才久坂玄瑞だった。師の妹に対して、かなり失礼なことだが、玄随は、文の器量があまり良くないのでと最初は断ったというのが定説になっているようだ。今残っているのは、晩年の写真だけなので、若い頃の器量は分からないが、これを見る限り、まあ普通のお婆さんだ。玄瑞亡きあとは、松陰の友人だった楫取素彦と再婚しているのだから、それほど不器量だったとも思えないのだが。もっとも、井上真央のようだったということまでは、期待できないだろうが(たぶん)。

 そうは言っても、久坂玄瑞について記された章は、本書の中では、一番「文度」の高いところだろう。玄瑞が文に宛てて書いた幾つもの手紙が紹介されているからだ。文は、この何倍も玄瑞に手紙を書いたというが、そちらの方は、残念ながら現存していない。もし残っていれば、貴重な資料になっていたと思うと、残念である。しかし、その一方で、玄瑞は、京都妻(というよりは愛人)に、子供を産ませているのだから、いったい京で何をしていたのやら(笑)。

 そして、本書に紹介されている3人目の志士、楫取素彦は、玄瑞が蛤御門の変で自刃した後文が再婚した相手である。元々は、姉の寿の夫だったが、姉が病死後、後沿いとして入ったものだ。初代群馬県令(県知事)で、群馬県の発展のためにつくした人物である。この人物も、山口県内ではあまり知られていない。あの時代、多くの人材が輩出しすぎたので、一部のスーパースター的な人物以外は、いちいち覚えきれないということもあるのだが、それにしても、帯の写真の素彦、タレントの温水洋一さんに似てるなあ。

 松陰、玄瑞については、何かにつけ語られることが多いが、楫取素彦については地元でもほとんど語られることはない。かくいう長州人の私も、今回初めて知った次第だ。本書を読んで、色々と知識をつけておけば、今年の大河ドラマも10倍くらいは楽しめるものと思う。

 長州には、おそらく、もっともっと隠れた人材もいたのだろう。本書により、わが郷土の偉大さを再認識したのだが、それにしても最近は人口も減る一方で生彩を欠いている。ドラマの放映で興味が湧いたら、ぜひ、文ゆかりの地である、萩市や、防府市などを訪れて欲しい。

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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