![]() | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた (角川文庫) |
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KADOKAWA/角川書店 |
北海道は旭川市を舞台にした、博物学ミステリー、「櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた」(太田詩織:角川文庫)。「旭川市を舞台にした小説なんて珍しいなあ」なんて思っていたら、検索してみると意外にあったにはびっくり。すっかり記憶から欠如していたが、「少女七竈と七人の可愛そうな大人 」(桜庭一樹)の舞台も旭川の郊外という設定だった。北海道で行ったのは、札幌、小樽、函館くらいだ(それもぜんぶ仕事がらみ)。旭川にも一度行ってみたいと思うのだが、寒いのが苦手なのと、距離がありすぎるので、きっと行く機会はないだろうなあ。
それはさておき、この作品はシリーズものとなっており、本書は、その4作目に当たる。いきなりこの作品から読んでも、そう困ることはないが、一部に以前の作品に出て来たことが詳しい説明もされずに出てくるので、できれば1作目から読んだ方が良いだろう。ヒロインの九条櫻子は、その名字からも想像がつくように、旧家の跡取りのお嬢様。ただし、旧家と言っても、現在では財産は殆ど残っていないらしく、やりくりじょうずのばあやと二人暮らしをしている。 美人で、ナイスバディだが、その職業はなんと標本士。動物の死体が大好きで、死んだ動物を見ると、標本にするために、いそいそと拾っていくという変わり者だ。口調の方も、良家の女子らしくなく、かなりぶっきらぼうである。最近はラノベのヒロインは、こんな感じの女子が多いような気がするが、これも男子が草食化してきた影響なのか(笑)。
語り手は、舘脇正太郎という普通の高校生。二人の関係がどのようなものなにかは、いきなりこの巻から読みだしたのでよく分からないのだが、正太郎の方は、櫻子さんに憧れを抱いているような節がある。しかし、語り手の名前が正太郎だからと言って、櫻子さんが別に「ショタコン」という訳でもないようで、彼女には警視庁に許嫁がいるらしい。収録されているのは、3つの中短編。面白いのは、それぞれの作品が第○話ではなく、第○骨になっているところ。さすがに、骨の大好きな櫻子さんのお話である。簡単に紹介してみよう。
○第壱骨 猫はなんと言った?
正太郎のクラスメートである鴻上百合子の叔母、園部椿の飼っている猫が残酷な方法で殺されていた。犯人の意外な正体が明らかになり。男を見る目がなかった叔母にも、とうとう春が来るのか。
○第弐骨 私がお嫁に行く時に
この作品は中継ぎのような作品で、語り手は鴻上百合子に変わっている。百合子が櫻子さんに、祖母の遺した言葉の謎を解いてもらおうとした時の話だ。
○第参骨 蝶は十一月に消えた
この三つ目の話はかなりおぞましい。櫻子さんは、かって仲が良かった女子3人組に関する、ぞっとするような事件を掘り起こすことになる。しかし、女の子の友達って、こんな感じなのだろうか。サブタイトルにもなっている作品のタイトル「蝶は十一月に消えた」というのは、モチーフに「クロヒカゲチョウ」が使われているからだ。なんと、死体を好むそうで、これだけでもあまり気持ちの良い話ではないことが想像できるだろう。そして、この中編では、不気味なソシオパスの影も見える。
櫻子さんのキャラが秀逸だが、主人公が、標本士というアイディアも面白い。櫻子さんが事件を推理する場合には、骨や標本に関する知識が使われている。心理学や民俗学などを取り入れたミステリーといったものは多いが、美女標本士が名探偵という設定は他にはないのではないだろうか。ところで、動物の剥製をモチーフにしているので、これはもしやと思い、巻末の参考文献リストを見ると、やはり、あの「僕らが死体を拾うわけ 僕と僕らの博物誌」もちゃんと入っていた。
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