“文学少女”の野村美月と竹岡美穂のコンビによる、源氏物語をモチーフにした学園ミステリー、
「ヒカルが地球にいたころ」。この
「若紫」(ファミ通文庫)は、その3作目に当たる。
シリーズの主人公は、赤城是光という少年。実はなかなかの好人物なのだが、その一見ヤンキー風の外見に、周りはびびりまくり。その結果どんどん不良伝説が作られていくのだ。そんな彼が、最近亡くなった帝門ヒカルという学園きってのプレイボーイの幽霊に取り憑かれてしまった。是光は、ヒカルを成仏させるために、彼の心残りとなっている、果たせなかった女の子たちとの約束を叶えようと奮闘する毎日。ところが、相手の女の子は、それぞれが訳ありで、これがなかなか大変なのだ。
今回のヒロインも訳あり度ではトップクラスだろう。なにしろ相手は小学4年生の美少女、若木紫織子。よりにもよって、ヒカルは、彼女の処女を6千4百万円で予約していたらしい。さすがにそれは、人間としてどうかと思うのだが、この紫織子、小学4年生とは思えないクセモノで、オヤジ相手に、色仕掛けの詐欺を働くとんでもない幼女だったのだ。是光は、はずかしい写真を撮られてしまい、あとは脅されて犬扱い。でも、いくらしたたかとはいっても、さすがに小学4年生。紫織子の行動は、子供らしく、短絡的である。そして、彼女がそんなことをしていた動機は、とてもいじらしいものだった。是光は、そんな紫織子のために力を尽くす。
ところで、小4美少女と凶悪ヤンキー風少年の取り合わせは、まるで幼女と変質者。是光は、彼女を心配して見張っていたら、警察に通報されて連行されるわ、学校でもロリコンヤンキーとの噂を立てられるわで散々だ。是光のことを気にかけている式部帆夏からも、
「ロリコンだけは許せない!」と軽蔑される始末。
もちろん、この巻のモチーフは源氏物語の「若紫」の巻だ。光源氏は、愛しい藤壺の面影を持った身寄りのない少女を、自分の理想の女性に育てようと引き取る。この作品でも、紫織子は、是光の家に引き取られることになるのだが、何しろ、彼の一家は、泥棒も入ったことを後悔するような、凶悪な面構えである。そんな家庭環境で、紫織子は、いったいどのように成長していくのだろう(笑)。
それにしても、是光の周りには、巻が進むにつれて美少女が集まっている。これは、見た眼の凶悪さとと心根の優しさとのギャップ萌えが原因なのだろうか。野村美月と竹岡美穂のコンビというだけでも、もうお気に入りの作品なのだが、あえてひとつだけ、欠点を挙げてみよう。竹岡さんの描く絵が、可愛らしいので、ヤンキーキング是光の一家が、それほど凶悪には見えないというところだ。
☆☆☆☆☆
※本記事は、書評専門の拙ブログ、
「風竜胆の書評」に掲載したものです。