精神分析の理論と実際について書かれた入門書、
「精神分析で何がわかるか―無意識の世界を探る」(福島 章:講談社ブルーバックス)。
精神分析はフロイトによって始められた。彼の理論によれば、大人の愛情は自分たちが幼児期に受けた<原型>のコピーであるという。つまり大人は、その<原型>を目の前にいる人に<転移>するのである。これは人間をコンピュータに例えれば分かりやすいのではないか。誰でも生まれたときには脳は基本的なOS以外は持たない真っ新な状態だ。成長と共に周りから受けた様々な刺激が蓄積され、その人の行動原理が作り上げられていくのだろう。自分が受けた愛情が自らのDBに蓄積されていてこそ、自分も他人に愛情を示すことができるようになるのである。
しかし人生必ずしも良いことばかりではない。嫌な記憶は
<抑圧>され、
「無意識」の領域へ沈められていく。フロイトは
「幼児期に生じた葛藤や外傷的体験が無意識に抑制されること」が、神経症の原因になると考えた。だから、抑圧された記憶・願望を
<無意識>から
<意識>の世界に引きずり出すことができれば、症状は、軽快、消失することが多いといるのだ。その手段としてフロイトが考えたのが
<自由連想法>である。
もっとも心の世界は一筋縄ではいかない。古典的な精神分析療法により治癒が可能なのは、その原因がエディプス・コンプレックスが問題となる時期にあるとみられるような患者で、それ以前に原因がある場合には、伝統的な精神分析療法では完治が困難だという。これは人の発達段階とも関係しており、言語と記号の体系である精神分析療法では、言語が十分に発達していないエディプス・コンプレックス以前の問題には対応が難しいということのようだ。
本書は、フロイトの精神分析を中心に、彼の理論の骨子や実際の精神分析のやり方、臨床例などを示し、さらには、フロイトの後継者たちについてもその概要を紹介している。心理学を勉強している人、精神分析について深く学びたい人には、専門書に入る前に読むべき入門書としていいのではないだろうか。また、私たちのような本読みにとっても、一読しておけば小説などを読む際に、より深く理解していくための視点を与えてくれるだろう。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ
「風竜胆の書評」に掲載したものです。