生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2) | |
クリエーター情報なし | |
角川書店 |
本の虫たる私は、積読の山にも関わらず、常に新しい作家との出会いを探している。なにしろ作家は、星の数ほどいる(いや、そんなにはいないか・・・)。いちいち買っていたのでは、たちまち財布はパンクだ。すべて作家の作品を読んでいる時間もない。だから、ある作家の作品を読むようになるには、何らかのきっかけがあったのである。
法月綸太郎という作家は、名前だけはよく聞くのだが、まだ作品を読んだことがなかった。しかし、あまりの積読の多さに、良く知らない作家まで、手を回す余裕はない。ところが、うまいことに、近所の書店の108円古書コーナーに、作品が、たまたま並んでいた。それが、この「生首に聞いてみろ」(角川文庫)だ。この厚さで、この値段、世間でも知られた作家でもある。おまけに、学部は違えど、私が通っていた大学の後輩ではないか。変な作風で知られる作家の多い、わが大学の同窓生。これは期待できるかも(←どんな期待だ!)と、試しに購入してみたというのが、私の法月綸太郎作品とのファースト・コンタクトである。
物語は、探偵役の法月綸太郎が、高校の後輩である田代周平の写真展で、美しい娘と知り合ったことから始まる。その娘は川島江知佳といい、知り合いの翻訳家川島敦志の姪だった。彼女の父は、川島伊作という有名な彫刻家だ。彼の彫刻の特徴は、モデルから型取りして、それに石膏を流し込んで作るというものだ。しかし、人体から直接型取りした石膏像には、目が開いていないという欠点がある。そんな作品に嫌気がさしていた伊作が、自分の娘をモデルに、久しぶりに直接型取りの石膏像を制作したという。それは、死期の迫った彫刻家の最後の作品だった。
ところが、その石膏像の首が切り取られて持ち去られ、更には、江知佳が行方不明になる。そして、伊作の回顧展を計画していた美術評論家・宇佐見彰甚のもとに、江知佳の生首が送りつけられる。江知佳の元恋人で、ストーカーだった堂本峻という男の仕業と目されたが、果たして真相は。江知佳の母親である律子は、彼女を捨てて、亡くなった妹・桔子の元夫と再婚しているのだが、その関係も少し変だ。江知佳は、本当は、母の妹の子だとか、彫刻には初めから首がなかったといった情報も飛び交う。いったい何が真実なのか。噂や、思い込み、勘違いなど、間違った情報が交錯し、作中人物だけでなく、読者をも混乱させ、迷宮に迷い込ませる。
この作品の本質は、殺人事件そのものよりは、なぜ彫刻の首が切られたかという謎を追うというところだろう。この事件には、16年前の事件までくっついてくるのだが、明かされたトリックは、果たして、実際に可能なのだろうか。話自体は面白かったのだが、実際にこのトリックが可能だとしたら、当時の警察の捜査がかなり杜撰だったことになるし、犯行を行う方も、かなりのリスクの高さだと思う。生首を送りつけたというのも、一応の解説はされているのではあるが、いくら犯人が切羽詰まっていたからと言っても、自分で自分の首を絞めるような余計なことをやっているように見える。それに、せっかく出てきたヒロインを、すぐに生首にしてしまうというのはどうなんだろう。
ところで、作者は、かなりのエラリー・クイーンリスペクトのようである。なにしろ、作者本人が作家兼探偵役で、パパが警視という設定なのだから。でも、警視のパパが、警官でもない息子を、捜査に連れ歩くというのは、日本ではありえないだろう。この作品は、私の期待とは少し違ったのだが、面白くないというわけでもないので、法月作品をもう一冊は読んでみたいと思う。
☆☆☆
※本記事は、書評専門の拙ブログ、「風竜胆の書評」に掲載したものです。