「浜村渚の計算ノート」シリーズなどで知られる著者の「ブタカン」シリーズの第二弾。「ブタカン」といっても豚の缶詰ではない「舞台監督」のことだ。これは都立駒川台高校二年の池谷美咲の物語である。
ヒロインの池谷美咲は、父が餃子屋の経営に失敗して、借金漬けで極貧の暮らし。自分もバイトに明け暮れ部活どころではない生活だったが、彼女が2年になったころ、ひょんなことから借金を完済でき、遅ればせながら部活で青春を謳歌する余裕ができるのである。親友のナナコが病に倒れたことから、その代わりに演劇部でブタカンをやることになった。この演劇部がちょっと変わっていて、キャスト(演じる人)は全部男子でスタッフ(裏方)は全部女子なのである。
文化祭でやった「白柚子姫と六人の忍者」が好評で、演劇の地区大会に出ることになった。そのためには上演時間を1時間に収める必要があるが、このままやれば大幅に時間オーバー。そこで登場する忍者を一人減らして「白柚子姫と五人の忍者」にすることを考えたのだが、果たして誰を削るのか。
脚本を早乙女先輩が書き直しているときちょっとした事件が起こる。なぜかマネキンの右手がUSBメモリになっており、これを使って新脚本を書いているのだが、この右手が盗まれては返却されるということが繰り返された。脚本の内容に対する見立てを付与されて。
地区大会に入っても事件が起きる。美咲が他校の大道具をケチャップで汚した疑惑をかけられたり、早乙女先輩の脚本にパクリ疑惑がかけられたり。いったい地区大会はどうなってしまうのか。
ところで、この話には高校演劇界で名が知られているという下條という教師が出てくる。これが、学校も違うのになんだか上から目線で偉そうなのだ。私だったら絶対にこんなのがいる世界はいやだと思うだろう。
タイトルにある「恋よりブタカン」は、美咲が主役でイケメン西野先輩の言うこと夢うつつに聞いたことへの勘違いからきている。二人と早乙女先輩は、夜公園で話し合うことになったが急に雨が降り出し、2人は遊具に避難する。早乙女もある事情があって公園にはこられなかった。
眠気の中で美咲が聞いたのは、
「━ ・・・・・・わいいな・・・・」
「━ ・・・・・・きかな、て思うよ、お前のこと」
「━つきあってみないか・・・・・・」(p58)
ここだけ読むと、西野が美咲のことを好きだと思うだろうが、実は全く違うことを言っていた。美咲ちゃん、ドキドキだったのだが、見事玉砕というお話。
青柳作品らしく、そこかしこに笑える部分がちりばめられ、面白い話だと思う。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。