雅工房 作品集

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天下は神器 ・ ちょっぴり『老子』 ( 34 )

2015-06-19 14:30:32 | ちょっぴり『老子』
          ちょっぴり『老子』 ( 34 )

               『 天下は神器 』

天下を望む者の心得

「 将欲取天下而為之、吾見其不得巳。天下神器、不可為也。為者敗之、執者失之。故物或行或随。或呴或吹、或強或臝。或載或隳。是以聖人、去甚、去奢、去泰。 」
『老子』第二十九章の全文です。パソコンでなかなか見つけられない文字も含まれていますがご容赦ください。
読みは、「 天下を取って之を為(オサ)めんと将欲するは、吾其の得ざるを見るのみ。天下は神器、為むべからざるなり。為める者は之を敗(ヤブ)り、執(ト)る者は之を失う。故に物或(アルイ)は行き或はしたがう。或は呴 (ク・ゆっくり息を吐き出し温める) 或は吹く。或は強く或はよわむ。或は載せ或はおとす。是を以って聖人は、甚だしきを去り、奢(シャ)を去り、泰を去る 」
文意は、「 天下を取って之に人為を加えて治めんと欲すれば、吾は、そういうことが出来ないのを見てきただけである。天下は神器であり、人為を加えて治めようとしてもどうにもならないものである。治めようとした者は之を壊してしまい、執着する者は之を失ってしまう。そういうことで、先に行っているつもりが他方では人に従っていることになる。そっと息を吹きかけて温めているつもりが、他方では強く息を吹き付けて冷やしてしまうことになる。強めているつもりが、他方では弱めていることになる。載せているつもりが、他方では突き落としていることになる。そういうことなので聖人は、甚だしすぎることから離れ、奢れることから離れ、泰 (タイ・おごり) といったものから身を去るのである。 」

この章は、天子、あるいは為政者への教えを説いています。
なお、『老子』に限らず、この時代の思想家は、孔子などの行動からも分かるように、諸侯に高官として仕えることを望んでいました。『老子』はかなり超然としていたようにも伝えられていますが、やはり諸侯への教えが随所に登場してきます。
なお、「将欲(ショウヨク)」というのは、「欲する。しようとする」といった意味で、「将が欲する」という意味ではありません。
また、「天下を治める者」といった表現が時々出てきますが、当時中国では、「戦場で、兵車一万台を率いる者は天子、一千台を率いる者は諸侯」という格付けがあったそうですから、天子というのは必ずしも皇帝のような立場の者を指しているわけではないようです。

日常生活でも有りがち

天下は神器であり、「人間のつまらない知恵を加えるとうまく治まりませんよ」というのは、『老子』の一貫した考え方のようです。
この章が為政者の立場にある人を意識して書かれたことは確かでしょうが、私たちの日常でもよく似た現象は起きているものです。

「贔屓の引き倒し」という言葉もありますように、応援しているつもりが、その人を駄目にしてしまっていることなどは、結構世間にはあるものです。
「或呴或吹」を、エアコンでの室温を暑すぎると感じたり寒すぎると感じる人がいるということだと受け取るのは、少々スケールが小さすぎるかもしれませんが。

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