雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

牛を借りた怨霊 ・ 今昔物語 ( 27 - 27 )

2018-10-25 11:13:34 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          牛を借りた怨霊 ・ 今昔物語 ( 27 - 27 )

今は昔、
播磨の守佐伯公行(サエキノキンユキ・平安時代の中級貴族。1033年没。)という人がいた。その人の子で、佐大夫[ 欠字 ](サダイフは、佐伯の大夫の略。欠字部分は氏名が入るが不詳。)といって四条高倉に住んでいた者は、今も生きている顕宗(アキムネ・伝不祥)という者の父である。
その佐大夫は、阿波の守藤原定成朝臣(諸説あるも、出自不祥)の供をして阿波国に下ったが、その途中で船が沈んでしまい阿波の守共々死んでしまった。その佐大夫は、河内禅師(伝不祥)という者の親類である。

その頃、その河内禅師の家に黄斑(アメマダラ・黄色い飴色の斑)の牛がいた。その牛を知人が貸してほしいというので、淀(京都市伏見区)に行かせたところ、樋集橋(ヒツメバシ)の上で牛飼が車の扱いを誤って、車輪の片側を橋から落とし、それに引きずられて車全体が橋から落ちそうになった。
ところが、「車が落ちるぞ」と思ったのか、牛は踏ん張って堪えたので、鞅(ムナガイ・牛や馬と車を繋ぐ太い紐)が切れて車は落ちて壊れてしまったが、牛は橋の上に留まっていた。誰も乗っていなかったので、人が傷つくことはなかった。つまらない牛であれば、引きずられて牛も落ちていたことだろう。そこで、「すごく力の強い牛だ」と、その辺りの人は褒め称えた。

その後、その牛を大切に飼っていたが、どういうわけだか分からないが、その牛がいなくなってしまった。
河内禅師は、「いったい、どうしたことだ」と大騒ぎして捜しまわったが見つからないので、「どこかへ逃げてしまったのか」と、近辺から遠くまで捜させたが、どうしても見つからず、捜しあぐねていたが、河内禅師の夢の中に、あの亡くなった佐大夫が現れたので、「あの男は、海に落ちて死んだと聞いているが、どうしてやって来たのだろうか」と夢心地ながらも「怖ろしい」と思いながらも出て行って会ってみると、佐大夫は、「自分は死んだ後、この家の丑寅(ウシトラ・東北。鬼門にあたる方角。)の隅に住んでいますが、あれから日に一度、樋集橋のたもとに行って苦しみを受けているのです。ところが、自分の罪(現世の悪行ゆえの罪)が深くて大変身体が重く、乗物さえ耐えられないので、やむなく歩いていますがとても苦しいので、この黄斑の御車牛は力が強くて、自分が乗っても大丈夫なので、しばらくお借りして乗って行き来していましたが、あなたがたいそうお捜しになっているので、これから五日後の六日目の巳の時(ミノトキ・午前十時頃)の頃にお返しします。それまで、あまり大騒ぎして捜さないでください」と言った、と思ったところで夢から覚めた。
河内禅師は、「このような不思議な夢を見た」と人に語って、牛を捜すのを止めていた。

その後、その夢で見た六日目の巳の時の頃に、あの牛がどこから来たとも分からないが歩いて帰ってきた。牛は、何か大仕事をしてきたような様子であった。
さては、あの樋集橋で車は落ち、牛だけが踏み止まったのを、あの佐大夫の霊がたまたま行き会って、「力の強い牛だなあ」と思って、借りて乗り回していたのだろうか。

これは、河内禅師が語った話である。これは極めて恐ろしい事である、
となむ語り伝へたるとや。

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