雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

愚民政策か? ・ ちょっぴり『老子』 ( 72 )

2015-06-19 08:20:05 | ちょっぴり『老子』
          ちょっぴり『老子』 ( 72 )

               愚民政策か?

『道』こそが大順

「 古之善爲道者、非以明民。将以愚之。民之難治、以其智多。以智治国、国之賊、不以智治国、国之福。知此両者、亦楷式。常知楷式、是謂玄徳。玄徳深矣遠矣。與物反矣。乃至於大順。 」
『老子』第六十五章の全文です。
読みは、「古(イニシエ)の善く道を爲(オサ)める者は、以って民を明らかにするに非ず。将(マサ)に以ってこれを愚にせんとする。民の治めがたきは、其の智の多きを以ってなり。智を以って国を治めれば、国をこれ賊し、智を以って国を治めざれば、国をこれ福す。此の両者を知るも、また楷式(カイシキ・法式、標準)なり。常に楷式を知る、これを玄徳(ゲントク・最も奥深い徳)という。玄徳はとても深く遠い。物と反する。乃(スナワ)ち大順(タイジュン・大きな道理に従うこと)に至る。 」
文意は、「古の善く道を修めた君主は、道を以って人民を聡明にしようとはしなかった。将に以って人民を愚に導いた。人民を治め難いのは、人民に知識が多いからである。君主が知識に頼って国を治めれば、国を害し、知識に頼って国を治めることをしなければ、国に福をもたらす。この両方のことを知ることは為政者としての楷式で、常にこの楷式を知っていること、これを玄徳という。玄徳はとても深遠で、一見、真理と反しているようにみえる。しかし、実際は玄徳を行うことこそが、大順なのである。 」

『道』による政治の大切を、真正面から説いている章といえます。
なお、文中に三度出ている「矣」という文字ですが、見かけたことがあるようでいてなかなか難解でした。読みは「イ」でよいと思うのですが、辞書によれば、「語句の末に使う助詞で、きっぱりと言い切る語気を表す」となっています。前の文字や文章を強調するという感じで文意としました。

愚民政策とは全く違う

この章を、冒頭部分の文章から、「民に知識を持たせてはいけない」という愚民政策を勧めているかに受け取られることがあるようですが、全く違うと思われます。全体を通して文意を受け取れば分かることだと思います。
つまり、君主にも「智でもって治めれば国に害を与える」と説いていますので、「智」すなわち規制や法令などが主体の政治を戒めていて、『道』に基づく政治の重要性を述べているのです。

私たちの日常でも経験することですが、話や文章の一部だけを取り出して、かなり違ったニュアンスで広まってしまうことが、ままあります。
結果としてそうなることはともかく、意識的に、それも相当の悪意を以って為されることが少なくないので、安易に付和雷同することは慎みたいものです。

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