雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

現世での報い ・ 今昔物語 ( 16 - 38 )

2023-08-15 08:00:38 | 今昔物語拾い読み ・ その4

      『 現世での報い ・ 今昔物語 ( 16 - 38 ) 』


今は昔、
紀伊国の伊都郡桑原の里に、狭屋寺(サヤデラ・未詳)という寺があった。その寺には数人の尼が住んでいた。
聖武天皇の御代に、その尼たちが願を立てて、その寺において法事を行った。奈良の右京の薬師寺の僧、題恵禅師(ダイエゼンジ・伝不詳)という人を請じて、十一面観音の悔過(ケカ・罪過を懺悔し、罪報を免れて功徳を求める法事。)を行った。

その頃、その里に一人の悪人がいた。姓は文の忌寸(フミノイミキ・伝不詳)、字(アザナ)を上田の三郎という。邪見(ジャケン・因果の道理を悟り得ない、よこしまな考え方。)にして三宝(仏法僧。仏教。)を信じない。
その人には妻がいた。姓は上毛野の公(カミツケノのキミ・伝不詳)、字は大橋の女という。その女は、容姿が美しく、因果の道理も心得ていて、夫が外に行っている間に、一日一夜、戒を受けて、あの悔過を行う所に詣でて、聴聞の人の中に座っていた。
そうした時、夫は外から帰ってきたが、家の中に妻がいない。家の者に「妻はどこに行ったのだ」と訊ねると、家の者は「悔過を行う所に参られました」と答えた。 
夫はそれを聞いて、大いに怒り、すぐに、[ 欠文。「寺に行って大声で妻を呼んだ」といった意味の文章らしい。]かの導師はこれを見て、慈悲の心を起こして夫を教え導こうとした。ところが、夫はこれを[ 欠文。「受け入れようとせず、逆に」といった文章らしい。]「お前は、俺の妻をものにしようとする盗人法師だ。今すぐ、お前の頭を叩き割ってやる」と罵って、妻を呼んで家に連れ帰った。

そして、家に帰り着くや否や、妻に「お前はきっとあの法師に犯されたに違いない」と激しく怒り、妻を寝所に引っ張っていって、押し倒した。すぐさま交わったが、たちまち夫の男根は蟻が取り付いて噛むような痛みを覚え、この痛みに苦しみながら、夫は間もなく死んでしまった。

この事を見聞きした人は、「たとえ殴るような事をしなくても、悪心を起こして、やたら僧を罵り、はずかしめたが故に、現世で報いを受けたのである」と言って、憎み誹ること限りなかった。
されば、僧を誹ってはならないのである。また、夫がこうなったのは、観音の悔過を行う所にやって来て、聴聞している人々を妨げた罪によるものだ、
となむ語り伝へたるとや。   

     ☆   ☆   ☆


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