雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

食物を地神に供える ・ 今昔物語 ( 4 - 2 )

2020-02-08 14:43:31 | 今昔物語拾い読み ・ その1

          食物を地神に供える ・ 今昔物語 ( 4 - 2 )

今は昔、
天竺において仏(釈迦)が涅槃に入られて後、波斯匿王(ハシノクオウ・釈迦と同時代の舎衛国王。仏教を外護した。)は羅睺羅(ラゴラ・釈迦の実子で十大弟子の一人。)を招いて、豪華な食事を供応した。大王及び后は自ら手に取ってこれを食べさせると、羅睺羅はそれを受けて、一箸食べたのち涙を流して泣くこと幼児のようであった。

すると、大王及び后・百官は、皆これを見て怪しみ、羅睺羅に尋ねた。「私は、心をこめて供養させていただいています。何ゆえお泣きになるのですか。今すぐそのわけをお聞かせください」と。
羅睺羅は、「仏が涅槃に入られて、まだいくらも経ちませんが、この御馳走の味がすっかり変わってしまい、不味いのです。それゆえ、これからの末世の衆生は、何を食べればよいのかと考えますと悲しくなり、それで泣いたのです」と答えて、なお泣き止まない。

その後、大王がご覧になっていると、羅睺羅は腕を伸ばして地の底の土の中より飯一粒を取り出して言った。「これは仏が在世の時の飯(イイ)です。断惑の聖人(ダンワクノショウニン・一切の煩悩を断ち切って悟りを得た聖人。仏や阿羅漢を指す。)の飯なのです。この飯と今の供養の飯とを、すぐに食べ比べてみてください」と。
大王はその飯を取ってお嘗めになった。味は不思議なほど美味であった。今の供養した飯と比べてみると、今の飯は毒の味のようであり、この飯は甘露(カンロ・蜜のように甘い液。仏教では兜率天の不死の霊液とされた最高の滋味飲料。)のようである。
そこで羅睺羅は、「この世から聖人が皆いなくなって、誰に供養するためにこの食物を地上に留めて置こうか」と言った。そして、「これは、堅牢地神(ケンロウジジン・もとは古代インドの大地の女神。大地の母神として農作豊穣・延命息災の福利を授けるとされた。)の大地から生ずる食物として、五百由旬(ゴヒャクユジュン・遥かに深いとの表現。)の地の底に埋めるべし」と言った。
大王は、「しからば、どのような時にその食物は役立つのでしょうか」と言った。
羅睺羅は答えた。「末世において、仁王経を講ずる所には必ず食物があるはずである」と。

されば、末世の衆生にとって、仁王講はもっとも重要な善行を積む法会なのである、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆

  


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 八万四千の塔を建てる ・ ... | トップ | 阿難尊者の弁明 ・ 今昔物... »

コメントを投稿

今昔物語拾い読み ・ その1」カテゴリの最新記事