麗しの枕草子物語
御嶽のご利益
私たちに取りまして神仏におすがりするということは、まことに真剣なものでございます。
それも、御嶽(ミタケ・吉野金峰山)に御参りするとなりますと、それはそれは大変な行でございます。
何十日も前から精進潔斎に勤め、出立となれば、いかに身分高い御方であれ、とても粗末な身なりにて御参りするものでございます。
ところが、中にはとんでもない御方もおいでのようでございます。
衛門佐宣孝といわれる御方は、
「そのようなことは、実につまらないことだ。皆と同じような衣で参詣したとて、大したご利益などあるまいに。それに、『粗末な衣装で参詣せよ』などと御嶽の権現様が仰せられるはずがあるまい」
と申して、濃い紫の指貫に白い狩衣、山吹色の衣などを仰々しく着飾って、ご子息には、青色の狩衣、紅の衣、手の込んだ模様の水干という袴を着せて、大勢の供を連れて参詣なさったそうでございます。
御参りの途中で行き合った人々は、「この御山で、こんな身なりの人を見たことなどない」と、あきれ果てたそうでございます。
それがですねぇ・・・、彼の御方が参詣から戻られて僅か二か月ばかり後に、筑前守の後釜に任ぜられたのですから、堪りませんよ。
御嶽のご利益とは、なかなかに奥深きものではありますわねぇ。
(第百十四段・あはれなるもの、より)
御嶽のご利益
私たちに取りまして神仏におすがりするということは、まことに真剣なものでございます。
それも、御嶽(ミタケ・吉野金峰山)に御参りするとなりますと、それはそれは大変な行でございます。
何十日も前から精進潔斎に勤め、出立となれば、いかに身分高い御方であれ、とても粗末な身なりにて御参りするものでございます。
ところが、中にはとんでもない御方もおいでのようでございます。
衛門佐宣孝といわれる御方は、
「そのようなことは、実につまらないことだ。皆と同じような衣で参詣したとて、大したご利益などあるまいに。それに、『粗末な衣装で参詣せよ』などと御嶽の権現様が仰せられるはずがあるまい」
と申して、濃い紫の指貫に白い狩衣、山吹色の衣などを仰々しく着飾って、ご子息には、青色の狩衣、紅の衣、手の込んだ模様の水干という袴を着せて、大勢の供を連れて参詣なさったそうでございます。
御参りの途中で行き合った人々は、「この御山で、こんな身なりの人を見たことなどない」と、あきれ果てたそうでございます。
それがですねぇ・・・、彼の御方が参詣から戻られて僅か二か月ばかり後に、筑前守の後釜に任ぜられたのですから、堪りませんよ。
御嶽のご利益とは、なかなかに奥深きものではありますわねぇ。
(第百十四段・あはれなるもの、より)
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