虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

本当のことを教えてもらえない時代 言ってもらえない時代

2016-02-29 09:20:15 | 日々思うこと 雑感

保育実践の第一人者である本吉圓子先生が、

『失敗させる!6歳までの子育て』の中で次のようなことを書いておられました。

本吉先生はNHKテレビで、大阪の小学校の学級崩壊シーンを見て

とてもびっくりしたそうです。

あまりにも1年生が走り回ります。

途方に暮れた先生が、一番走る子を抱きしめたら、先生にベターッと抱きついて

きたそうです。

そこで、「あっ、もしかしたら、甘えが足りないのかもしれない。

それで落ち着きがないのかもしれない」と思ったこの先生が、

走り回る子どもたちを次々抱きしめたら、やっと落ち着いてきたそうです。

本吉先生はこの映像を見ていて、「甘え」が足りないのが、学級崩壊の原因だとすれば、

何となくわかるような気がすると感じたそうです。

 

本吉圓子先生の保育所では、

「子どもの甘えや気持ちを十分満たすこと」と

「子どもに自分で失敗する権利を与えること(自分でするのを待ってあげること)」

のふたつを大切にして保育を実践しておられます。

そうして「幼児としての育ち」を守ってもらっている子どもたちというのは、

虐待を受けている子たちも預かっている園なので、

動物を殺すような問題行動を起こした子もいたそうです。

それにも関わらず、

その園から小学校に入学した子たちは、入学した先に小学校の教頭から、

「子どもたちが、ものすごく集中力があって、意欲もあって、思いやりがある。

どういう風にしたら、子どもがこんなに変わるのですか?」とたずねられるほど

しっかりしているのだとか。

本吉圓子先生は保育現場での数多い体験から、学級崩壊が起きるのは、

飛躍するようだけど、スキンシップが足りないのではないか、とおっしゃっています。

でも、そういうふうに言うと、必ず、育児雑誌の方から、

「お母さんの悪口を書いたりしないでくれ。99パーセント親を褒めて、

批判的なことは1パーセントだけにしてほしい。そうでないと雑誌が売れない」と

説得されるそうです。

「確かに親を批判しても何もならない。でも、本当のことを伝えなければ

いつまで経ってもよくなりません。」と本吉先生は言葉を結んでおられました。

 

本当のことを伝えてもらえない……。

 

雑誌も幼児教室の宣伝も、幼稚園の説明会でも、親にとって耳触りのよい、

エゴを刺激して財布のひもをゆるませるようなことはいっぱい言ってくれるけれど、

肝心な部分は教えてもらえない……。

 

いつのまにか幼児を育てている親御さんは

そうした扱いを受けるようになってきたように感じています。

 

うちの子が幼児だった十数年前は、まだそんなことはなかったような気がします。

当時人気だったポンキッキという幼児向けのテレビ番組にしても、

ちょっと親には耳が痛い話も、本当のことや、子どもの未来がかかっていることは、

ごく普通に放送されていました。

ポンキッキでは、「1分間パパ・ママ学」というさまざまな分野で活躍している著名人や

幼児の発達を研究している研究者や医師などが、

幼児を育てている親に伝えたいことを発信するコーナーがありました。

親を喜ばす目的ではなくて、真の子どもへの愛に満ちたメッセージが満載されていました。

 

その時間には、親は購買欲や競争心を刺激されてワクワクするのでなく、

ちょっと静かな気持ちになって、反省したり、子どもを大きな視野で

眺めなおしたりすることができるようになっていました。

「本当のことを教えてもらえない、言ってもらえない」というのは、

商業的な理由だけでなく、

本当のことを知っているし、伝えたいと思っている人がいたとしても、

伝える段階で伝えられることが小さく限られたものになっていて、結果として、

「教えてもらえない、言ってもらえない」状態になってることも多々あるんだなと

感じたのは、次のようなある保育士による子育て支援のエピソードを目にしたからです。

短く要約して紹介しますね。

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0~3歳対象に、週3回、保育室の1室と保育園の園庭を貸し出している子育て支援で。

子ども同士を遊ばせるというより、自分がしんどくてこの場にやってくるという

感じのお母さんが多い印象。

親子で遊ぶというより、子どもが遊んでいるのを横目で見て親同士おしゃべりしたり、

保育士が子どもの相手をしている間に携帯でメールをしたりしているお母さんが

増えてきた印象がある。

外遊びでは子ども同士を遊ばせて、おしゃべりを楽しんでいるお母さんたちが多い。

お母さん同士で話をしたい、子育てから解放されたい、子育てに戸惑っている、

というお母さんの思いを受け止めて、安心してすごしてもらう場を目指している。

Sちゃん(1歳7カ月)とお母さんはこの支援の場にしばしば顔を見せる。

お母さんは顔なじみの友だちもたくさんできて、互いにメールをしあったりしている。

お母さんの知り合いが増えてくると、お母さんが友だちとの話に夢中になっていて、

Sちゃんに目が向かなくなっている様子。

 

<エピソード>

室内でSちゃんがおもちゃで遊んでいると、Tちゃん(3歳2カ月)がそばにやってきて

横から手を出しておもちゃを取ろうとした。

Sちゃんはまだそのおもちゃで遊びたくて、「いやー」と抵抗する。

お母さんはSちゃんのそんな思いには気づかず、

「お友だちに貸してあげなさい、使いたいんだって、Sちゃんはこっちのおもちゃで

遊んだらいいから」と違うおもちゃをSちゃんに渡して我慢させようとした。

すると納得がいかないSちゃんは、床につっぷして泣きだした。

お母さんは「それはSちゃんのおもちゃじゃないの。保育園のおもちゃだよ。

お友だちが遊びたいって言ってるの」と強めの声をかけるが、泣きやまない。

お母さんは困ったなぁという顔をしたが、それ以上Sちゃんには関わらずに、

お母さん同士のおしゃべりにもどってしまった。

保育士がSちゃんに「あのおもちゃで遊びたかったのね」と声をかけると、

Sちゃんは一瞬泣きやんだ。

「もうちょっとあのおもちゃで遊びたかったのね」ともう一度Sちゃんの気持ちを

代弁すると、深くうなずく。

「お友だちにこのおもちゃと換えてもらおうか」と声をかけ、

「Sちゃんはまだそのおもちゃであそびたいんだって。このおもちゃと交換して

くれない?」と相手に頼むと、その子はSちゃんが自分より幼いと思ったからか

交換してくれた。

保育士が、Sちゃんが遊んでいるおもちゃを無理やり取り上げるのではなく、

Sちゃんがまだこのおもちゃで遊びたい気持ちを受け止めてあげてほしいこと、

相手のTちゃんに「Sちゃんがまだこのおもちゃで遊びたいから、もう少し待っててね」

とSちゃんの気持ちを伝えてほしいことをお母さんに伝えた。

お母さんは「無理に譲らなくてもいいってことですね」とうなずいたが、

保育士の真意は十分に伝わっていないようだった。

 

<保育士による考察>

Sちゃんの月例が大きくなるにつれて、子育てのしんどさは緩和されている様子。

けれども、仲良くなったお母さんたちとのおしゃべりが楽しくて、

Sちゃんに目が向かないこともしばしばあるように思う。

子どもの気持ちをしっかり受け止める前に

自分の気持ちにそって子どもを動かそうとする姿が目につくのも事実。

しかしながら、子育て支援の場に来れば、子育てのストレスが発散できるし、

他のお母さんたちから学ぶこともできるなど、たくさんのメリットがある。

お母さんたちがこの場を求めてやってきたときに「ここにきてよかった」と

感じてもらえるような場にしていきたい

 

『子どもは育てられて育つ 関係発達の世代間循環を考える』鮫岡 峻

慶應義塾大学出版会より引用)

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ちゃんと大事な点が伝わっていないもやもやとする思いが残るエピソードですが、

一方で、子育て支援の場の大切さや必要性を感じる話でもあります。

この話を読んで、実は私は

この虹色教室通信の読者や、虹色教室の生徒さんの親御さん、不定期のイベントで

出会う親御さんたちに感謝や尊敬の気持ちを抱きました。

子育てを支援しようにも、この枠は超えられない、ここまでしかわかってもらえない、

これ以上、本当のことを伝えようとすると、関係自体が途切れてしまう……

なんて心配はなく、親御さんたちがひとつひとつの出来事やそこから得る学びを

真摯に受け止めて、自分の対応を改善したり、

深い理解にいたってくださったりしているからです。

この長ったらしいブログにたくさんの方々がつきあってくださっているだけで

うれしいことです。

『子どもは育てられて育つ 関係発達の世代間循環を考える』の著者の

鮫岡峻氏によると、子育ての講演会などに参加しても、子育ての心構えのような話は

ほとんど耳に入らず、「子育てはこうすればよい」式の話ばかりが気になる母親が

多いそうです。

ある程度情報を集めても、まだ他にもあるのではないか、もっと正しいやり方が

あるのではないかと際限がなくなり、不安のスパイラルに陥っているように

見えるそうです。

この不安と自信のなさは、子どもの思いを受け止めることのむずかしさにつながります。

なぜ母親たちがそのような思考法をとるようになったのかは、

「何が正しくて、何が間違っているか」を教えられ、

正しいことを達成すると評価されるという「教育における評価の枠組み」が

大きいのではないかと鮫岡氏は指摘しています。

「子どもを前にしたときも、いまの時代に会った子育ての方法があるに違いなく、

うまくいかないようなことがあれば、もっとよい方法を教えてもらってすればよい、

というふうに考えてしまいます。

目の前の子どもに向かい合い、その子どもとどう関わっていこうか、

まずはその子を一人の人間として受け止めてゆこう、というふうにはならないのです」

と鮫岡氏はおっしゃっています。

その通り……と現代の抱える問題にうなずきつつも、

私は、お母さんたちは、実はかなりどの方も能力が高くて、

目の前の子に本気で関わっていくことも、真の愛情に満ちた関係を築くことも、

わが子もよその子も一人の人間として受け止めていくことも、

きちんとできる方ばかりだと実感しています。

「ただ本当のことが、伝えにくい世の中ではあるんだな。本当のことを教えてもらえない、

言ってもらえない時代ではあるんだな」とも感じています。

「それでも、もくもくと、地味に言いたいことを言い続けていると、

ちゃんと伝わっているし、正確に受け止めてももらえているな」と思うことが

しばしばあります。



前回の記事に次のようなコメントをいただきました。

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ユースホステルでのレッスンとても楽しそうですね。いつも楽しみに拝読しています。

一日、数分でもいいから、しっかりと子どもとの絆を作る時間を持つだけで子どもは

大きな変化を遂げることと思います。

この言葉がとても心に響きました。

弟が誕生して、とてもかわいがってくれてはいるものの、ストレスが溜まっているなぁと

最近感じていました。

昨日は幼稚園の参観でした。

他のお母さん達から見ると、いつもの元気な○○くん(息子)だったと思いますが、

私にはすごくストレスを抱えている息子に見えてしまいました。

赤ちゃんが生まれて、お兄ちゃんを大切にしてあげないとと思っていても、

下の子が寝ている時に「遊ぼう」と誘われても、「少し休憩させてね」と言うことも

多かったです。お兄ちゃんとの会話でも、言葉では優しく相槌を打って話を合わせていても、

私の心は息子と共感していなかったんだなと、この記事を読んで気づきました。

「忙しいからといって、叱りすぎないように」ということばかりに気がいっていたように

思います。昨日は息子の寝顔を見ながら、涙がこぼれました。

「たくさん遊んであげないと」と考えるとしんどいですが、「一日数分でも・・・」なら

気負わず意識できそうです。

いつも勉強になる記事をありがとうございます。

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コメントありがとうございます。とてもすてきな気づきですよね。

ほとんどの方が、「もっと~してあげないと」と子どものことを思っているのに、

それが子どもに伝わりにくくなっているときがあるんですよね。

コメント主さんの気持ちの切り替え方は、他のきょうだいを育てている方の参考になりますね。


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